アマゾン(Amazon)の人工知能(AI)分野での最新の取り組みが明らかになった。
REUTERS/Gonzalo Fuentes
アマゾン(Amazon)のアンディ・ジャシー最高経営責任者(CEO)は最近、社内で最も野心的な人工知能(AI)関連プロジェクトを推進する組織を新設。現在、自らその陣頭指揮を執っていることが、Insiderの取材で明らかになった。
ジャシーCEOは20数名の経営幹部で構成される同社の最高意思決定機関、いわゆる「Sチーム」に対し、シニアバイスプレジデント兼アレクサ(Alexa)担当ヘッドサイエンティストのロヒット・プラサド氏を自らの直属とする考えを伝えた。
Insiderが独自ルートを通じて入手した社内メールによれば、プラサド氏はアマゾン社内で「最も野心的な」大規模言語モデル(LLM)の開発に取り組む新設の組織を率いることになる。
LLMは、大規模なデータセットを用いた機械学習によって自然言語を用いた多様なタスクを処理するAIツールの基盤技術だ。
OpenAI(オープンエーアイ)やグーグル(Google)、メタ・プラットフォームズ(Meta Platforms)らは、計算量、データ量、パラメータ数ともに巨大で強力なLLMを構築し、テック界隈を賑わせている。
アマゾンも、汎用性の高いテキスト生成系基盤モデル群の「Titan(タイタン)」や、アレクサの基盤技術となっている独自開発のLLM「アレクサ TM(Alexa Teacher Model)」を擁し、生成AI開発の最前線で存在感を放ち始めている。
ジェシーCEOは6月下旬の社内メールで、アマゾンの「最も大規模な」LLMを構築していく上で「中心的な役割を果たすチーム」をプラサド氏が率いることになると示唆した。
「当社はすでにいくつかのLLMを完成させ、他にいくつかのLLMを開発中ですが、それら以上に野心的なLLMを構築するため、社内のリソースを一つのチームに集約する計画です。チームを率いるポジションを私の直属として、その役割をロヒットに担ってもらおうと思います」
アマゾンの広報担当にコメントを求めたが、返答はなかった。
Insiderが繰り返し報じてきたように、アマゾンはジェネレーティブ(生成)AIの急激な進化、普及拡大の動きへの対応を急いでいる。
同社は過去数十年にわたってAI関連の技術開発に取り組んできたものの、生成AIを軸とする今回のブーム到来に際しては、先陣争いで遅れを取る結果となった。
「ChatGPT」の開発元であるOpenAIや、同社に巨額の追加出資を決めたマイクロソフト、その最有力の対抗馬とみられるグーグルが大きな話題を巻き起こす中で、アマゾンはまだ首位グループの一角としての存在感を発揮するまでには至っていない。
メタが6月18日に発表した同社開発の次世代LLM「Llama 2(ラマツー)」の存在も無視できない。
同LLMは、一部制約付きながら商用利用が可能であること、マイクロソフトが各種サポートを提供する優先パートナーであること、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)での即時利用も可能になっていることなどから、生成AIをめぐる競争をより複雑で熾烈なものにする可能性があり、大きな話題を呼んでいる。
Insiderが7月14日付の記事で報じたように、アマゾンは生成AIに関連する取り組みの一環として、AWS内に顧客企業による生成AI技術の利用支援に特化した組織を新設した。
またそれ以前にも、前出の「Amazon Titan(アマゾン・タイタン)」を含む複数の基盤モデルを提供し、顧客企業による生成AIベースのアプリ構築を支援するサービス「Bedrock(ベッドロック)」を2023年4月にリリース。
さらに、2022年にリリース済みだった自然言語対応のAIコーディングアシスタント「CodeWhisperer(コードウィスパラー)」についても今年3月、あらためて業務に活用するよう社内エンジニアに指示を出している。
プラサド氏は2013年のアマゾン移籍から10年以上にわたってアレクサ部門で自然言語処理や対話型AI開発の陣頭指揮を執ってきた。
同部門は2022年末、デバイス部門との合計で2000人弱の従業員をレイオフ(一時解雇)するなど、折からの経済環境の下で苦戦が続いていた。
しかし、Insiderが5月3日付の記事で報じたように、「アレクサにChatGPT的な生成AI技術を実装」し、「自然な会話に近い形の動画検索、ユーザー個人に最適化されたレコメンド、ニュース要約や子供向け物語の創作」などの新機能を実現する「スマート化計画」に着手したことが明らかになっている。
アレクサを搭載した最初のデバイスであるアマゾン・エコーが2014年に北米で発売されてから、もうすぐ10年になる。その間、アマゾン以外のメーカーもアレクサを搭載した数多くのデバイスを世界中で販売してきた。
アレクサが生成AI機能を実装して進化することにより、アレクサ搭載デバイスが大きな収益機会を生むようになるとアマゾンは算段する。
ジャシーCEOは、2023年の第1四半期(1〜3月)決算説明会でこう強調した。
「アマゾンは世界中で1億台以上のアレクサ搭載デバイスを販売してきました。新たな大規模言語モデルの開発は『世界最高のパーソナルアシスタントになる』という当社のビジョンの実現を急速に加速させるでしょう。そして、当社は画期的なビジネスモデルを構築することになると思います」