デビッド・ローゼンバーグ。
Gluskin Sheff
世界経済が不況に陥る直前の2007年10月9日、デビッド・ローゼンバーグ(David Rosenberg)氏は連邦準備制度理事会(FRB)のエコノミストや調査チームのメンバーを前に、まもなく不況が到来する理由を詳しく説明した。
当時、メリルリンチ(Merrill Lynch)の北米チーフエコノミストだったローゼンバーグ氏は、米国債のイールドカーブやコンファレンス・ボード(全米産業審議会)の景気先行指数といった古典的なシグナルはすべて景気後退を指し示していると語った。さらに、住宅市場のバブルも崩壊しようとしていた。
しかし、当時の経済は順調で、FRBは2006年夏に利上げを終了していた。ローゼンバーグ氏によれば、会場は笑いに包まれたという。
「FRBの会議の責任者に『ローゼンバーグさん、S&P500が今日史上最高値を更新したことをご存じですか』と言われました。そして、その2カ月後に不況が始まったのです」
FRBはこの話に対するコメントを拒否した。
ローゼンバーグ・リサーチ(Rosenberg Research)の創業者であるローゼンバーグ氏は現在、市場の多くの人々が長年の実績のある警告のシグナルを無視しているという意味で、あの当時と状況が似ていると見ている。
米国債のイールドカーブは、1980年代初頭以来反転している水準へと最も近づいている。下の図は、3カ月物と10年物国債の利回りのスプレッドだ。
Federal Reserve Bank of St. Louis
逆イールドカーブ(短期金利が長期金利を上回り、イールドカーブ=利回り曲線が右下がりになっている状態)は、3カ月物利回りがフェデラルファンド金利と密接に連動することに一因がある。FRBが利上げを行うと、短期国債の利回りは上昇する。金利上昇は景気の足かせとなり、投資家は景気後退を懸念すると、10年物国債のような長期の安全資産に逃避し、利回りを押し下げる傾向がある。
逆イールドカーブは1960年代以降、すべての景気後退に先行して発生している。第二次世界大戦後以降、FRBの利上げサイクルのうち、ソフトランディングに終わった20%では、逆イールドカーブは見られなかったとローゼンバーグ氏は説明する。
そして、全米産業審議会の景気先行指数だが、下の赤い線で示された景気後退領域にある。
The Conference Board
この指数では、10年物国債利回りとフェデラルファンド金利のギャップ、株式市場のパフォーマンス、製造活動、消費者心理、新規失業保険申請件数、住宅建設許可件数など、10種類の先行指標が考慮されている。
「全米産業審議会の景気先行指数が15カ月連続でマイナスとなっている事実に反論するつもりですか。それには100%の実績があります」
ローゼンバーグ氏は「我々は過去に見たことを、再び体験しているだけです」と付け加えた。
しかし今のところ、インフレ率が低下するなか、労働市場の数字とGDP成長率は堅調を維持しており、弱気な予想をする人々は困惑している。緩やかな金融情勢、良好な住宅建設業者マインド、堅調な個人消費といった要因によって、景気後退は回避されるはずだと主張する向きもある。
しかし、ローゼンバーグ氏は、不況の進展に時間がかかっているのにはいくつかの理由があると言う。ひとつは、金融政策が経済に浸透するのに時間がかかること。もうひとつは、新型コロナウイルス関連の景気刺激策が、現在の利上げサイクルに入る前に経済を強くしたことだ。
彼は、人々が住宅ローンの借り換えで現金を手にし、支出を増やしていたこともあり、大不況に向かう前の経済も比較的好調だったと指摘する。そのため、投資家たちは景気の先行きに対して強気だったのだ。
ローゼンバーグ氏は、現在の株式市場の強気を2007年当時のそれと比較した。S&P500はそのとき最大25%の下落を経験したが、現在は2022年1月の高値からわずか4.8%の下落にとどまっている。
「あのときもダブルトップでした。考えてみてください。ちょうど2007年10月にかけて上昇していました。2007年10月に入って市場は暴落し、1930年代以来最悪の不況に見舞われたのです」