格安カットのQBハウス、労組が団体交渉を申し入れ。社会保険なしの業務委託店従業員は「使い捨て状態」と訴え

安価でスピーディーなヘアカットが人気のQBハウス。

安価でスピーディーなヘアカットが人気のQBハウス。

撮影:土屋咲花

短時間、低価格のヘアカットを提供するQBハウスの労働問題が長期化している。

直営店と業務委託店の理美容師に労働条件の格差や待遇の違いがあるとして、労働組合・日本労働評議会(労評)QB分会の組合員らが8月1日、格差是正を求めてQBハウスを運営するキュービーネットに対し、団体交渉を申し入れた。団体交渉は2022年にも申し入れていて、拒否された経緯がある。

労働組合「説明」求める

記者会見に臨む(左から)日本労働評議会の指宿昭一顧問弁護士、労評QB分会の林広道副分会長、労評神奈川県本部の佐藤美悠人委員長

記者会見に臨む(左から)日本労働評議会の指宿昭一顧問弁護士、労評QB分会の林広道副分会長、労評神奈川県本部の佐藤美悠人委員長

撮影:土屋咲花

「今現在、業務委託店舗には社会保険は一切ありません。有給休暇はやっと取れるか取れないかの状態で、定年制っていうのも、はっきり言ってどういう形になっていくのかも全然分からない。

今現在、私たちはもう働かされるだけ働かされて、使えなくなったらもう使い捨て状態の店舗に配属されているような形です。

一つでもきちんとした説明を受けているわけではないので、説明をしてもらいたく団体交渉を申し入れました」

団体交渉の申し入れ後、会見に臨んだ労評QB分会の林広道副分会長(54)はこう語った。

QBハウスには「直営店」と「業務委託店」がある。キュービーネットの親会社キュービーネットホールディングス(HD)の2022年有価証券報告書によると、業務委託店は国内に151店舗ある。

労評や顧問弁護士の指宿昭一氏によると、直営店で働く理美容師は社会保険に加入しているほか、昇給もあり、定年制がないのに対し、業務委託店ではこれらの保障が一切ない、とする。

QBハウスは4月1日から、「サービス価値の源泉である理美容師の働く環境の更なる向上」を理由に全店でヘアカットの価格を税込1200円から1350円に値上げしている。

ただ、直営店の理美容師のみ賃金が引き上げられるなど、業務委託店の従業員との間に差がつけられていた。

労評がキュービーネットの担当者に提出した団体交渉申入書では、こうした格差の改善を求めている。キュービーネット側は「文書で回答する」としている。

業務委託店の説明「なかった」

キュービーネットに提出した団体交渉の申し入れ書。

キュービーネットに提出した団体交渉の申し入れ書。

撮影:土屋咲花

労評によると、QBハウスの業務委託店では、従業員は直営店と業務委託店の違いについて説明を受けずに採用されていたという。

林さんの場合、2003年にQBハウスのスタッフとして採用された。その際にマネージャーの面接を受け、QBハウスLIVINよこすか店に配属された。林さんはキュービーネットの社員として雇用されたものと思っていたが、実際には、林さんの雇用主はキュービーネットではなく面接を担当したエリアマネージャーだった。

「林さんを含め、業務委託店で働く美容師さんたちは、キュービーネット株式会社からの求人広告を見て、面接に行くんですね。 当然、キュービーネット株式会社で働くつもりで、求人に応じて働き始めた。ところが、その後の運用においては、説明もないままエリアマネージャーが雇用主として登場したのです」(指宿弁護士)

キュービーネットHDはこうした指摘を受けて、業務委託店の従業員に対し実態調査を実施している。回答者のうち、自分の雇用主が「業務受託者である」と認識していると答えた人の割合は9割に上った。一方で、 採用・面接時等の説明について、「業務受託者が雇用主であるとの説明を受けた」と答えた割合は36.9%にとどまり、「説明を受けていない」と答えた人も約2割いた。

結果を踏まえ、同社は採用・面接時等に雇用主について適切に説明するなどの改善策を実施するとしている。

業務委託は「社保逃れでは」

個人が雇用主となり、業務委託店として運用している理由について、指宿弁護士は「推測だが、社会保険のシステムを巧妙に利用して社会保険の加入逃れをしているのではないかと思われる節がある」と指摘する。

社会保険(厚生年金保険)は、法人の事業所であれば加入義務が課せられる。

本来、キュービーネットが雇用主として正社員を採用し、各店舗に理美容師を派遣していた場合は当然、社会保険への加入義務が生じる。ただ、QBハウスの事例では、エリアマネージャーが雇用主となり、理美容師を雇用していた。通常、個人の事業所でも従業員が常時5人以上いれば社会保険への加入義務が生じる。ただ、美容業は例外として、個人の事業所では社会保険の加入義務はない。

指宿弁護士は、経費を削減する狙いがあるのではないかと指摘する。

「直営店と業務委託店という違いはありますが、同じQBハウスで同じように働いている。別に働いている内容に全く違いはないんですよね。

それで労働条件が違ってくるというのは、法律論の前に社会的な実態としておかしいのではないか」(指宿弁護士)

親会社「我々の従業員でない」

QBハウスの労働問題をめぐっては、2023年2月にもQBハウスで働く理髪師8人が、運営するキュービーネットとエリアマネージャーを相手取り、未払い残業代総額約3000万円を請求する裁判を提起している。

また、キュービーネットへの団体交渉の申し入れは2022年4月にも実施していて、業務委託店の従業員の直接の雇用主ではないことを理由に拒否された経緯がある。

キュービーネットHDは、直営店と業務委託店の待遇差や雇用主に関する説明問題について実態調査を行い、是正や改善を進めると公表している。2023年6月期第3四半期の決算説明では、業務委託店の直轄運営への切り替えなどに取り組んでいることを示した。

一方で、労評側が「キュービーネットにも責任がある」とする業務委託店の従業員については

「業務受託者は、名実ともに独立した事業主体であり、業務受託者と雇用契約を締結して業務委託店舗で勤務する理美容師の雇用に関する責任は、法律上は業務受託者にあります。したがって、当社が業務委託契約を濫用して業務受託者の運営する店舗で勤務するスタッフの雇用に関する責任を免れようとしている旨の指摘は当を得ないものと考えております」(プレスリリースより)

との見解を示している。

これに対し、指宿弁護士は

「仮にキュービーネットとの間の雇用関係が認められなくても、 労働組合は、必ずしも直接の使用者だけに団体交渉の申し入れができるわけではありません。労働条件について決定している親会社などの組織があるような場合、その会社に対しても、団体交渉は申し入れられるという判例があります」

と反論する。

今回の団体交渉の申し入れについて、キュービーネットHDはBusiness Insider Japanの取材に対し

「団交ということになっておりますけれども、この方々は元々、我々の従業員ではございませんというお話をさせていただいています。

(団体交渉の申し入れについては)書面を受け取っていますが、弁護士とも相談させていただいておりますので、それに則った形で対応させていただく方針です」

と回答した。

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