20年トップに君臨の味の素「冷凍ギョーザ」。年200億円超の売り上げ支える開発力

ギョーザ

今や国民食とも言えるギョーザ。いちから作ると少し手間がかかるが、冷凍ギョーザの登場で手軽に食べられるようになった。買いたてのフライパンで調理してみると、きれいに羽根つきギョーザが焼けた。

撮影:三ツ村崇志

「油いらないって!!書いてたじゃん!!!嘘つき!!!」

この5月、こんな投稿とともにTwitter(現:X)に投じられた味の素の冷凍ギョーザの皮が張り付いたフライパンの画像が話題となった(すでに削除済み)。

水なし・油なしで「誰でもきれいに焼ける」を売りに冷凍ギョーザを販売する味の素冷凍食品は、この「疑義」に対して、焦げたフライパンでもギョーザをきれいに焼く手法を検証。さらにSNSなどを通じて、全国から検証用の焦げ付いたフライパンを募集したところ、たった数日で2000を超える使用済みフライパンが届く事態に発展した。

現代の食生活に欠かせない冷凍食品。

中でも、味の素冷凍食品の冷凍ギョーザは、2022年に販売開始から50周年を迎えたロングセラー商品。国内の市販用冷凍食品市場で20年連続売り上げ一位を誇り、業界トップの年間1億パックを売り上げる。

味の素冷凍食品に、フライパン騒動の裏側と、長く根強い人気を誇るマーケティングの秘密を聞いた。

「フライパンを集めて検証」が話題に

「なぜこんなにくっついてしまうんだろう。皆さんはどんなフライパンを使ったらそうなるんだろう。見せてほしいと心から思ったんですね」

こう語るのは、味の素冷凍食品戦略コミュニケーション部PRグループ長の勝村敬太さんだ。

勝村敬太さん

味の素冷凍食品戦略コミュニケーション部PRグループ長の勝村敬太さん。大根おろしと紅しょうがおろしを混ぜたタレで食べるのがお勧め。

画像:味の素冷凍食品

本来きれいに焼けるはずなのに、フライパンにギョーザがくっついてしまう——。

ただ、使い込まれたフライパンでは、表面のテフロン加工がはがれ、食材が焦げ付きやすくなってしまうものだ。話題となったギョーザが上手く焼けない事例は、まさにこのケースだった。

状態の良くないフライパンを使っていた消費者側に原因がある。本来であれば、これで問題は解決と言えるはず。ただ、味の素冷凍食品はそれでよしとはしなかった。

焦げ付いたフライパンでもなんとかきれいに焼ける方法を見つけようと、社内で協議した上で、投稿者に向けて「調理に使ったフライパンを研究・開発のために着払いで送って欲しい」というメッセージを送ったのだ。

味の素冷凍食品のこの対応は「メーカーに消費者の声が届いた!」とSNSでさらに話題になった。

加えてこの間、「私のフライパンもくっつくよ」などという声が続々と寄せられたこともあり、味の素冷凍食品では6月16日(金)に消費者から使用済みフライパンを募集することを発表した。

「金曜日の夜に投稿して、月曜日の朝には宅急便業者が運びきれないほどのフライパンが届きました。わざわざフライパンを送るのは手間でしょうし、100本くらい届けば御の字だと思っていたのに、まさか3日で1000件以上も届くとは思いませんでした」(勝村さん)

思わぬ反響の大きさに、発表の翌週19日(月)には募集を停止。ただそれでも、味の素冷凍食品には最終的に2000以上の使用済みフライパンが届いたという

味の素冷凍食品に届けられたフライパンたち。

味の素冷凍食品に届けられたフライパンたち。

画像:味の素冷凍食品

中には味の素冷凍食品の研究開発チームから見ても「これは手ごわいな」と思ってしまうほど使い込まれたものや、「5~10年使った思い出のフライパンです」という手紙が添えられていたものまであったという。

味の素冷凍食品の冷凍ギョーザ研究チームでは、この膨大な量のフライパンを使ってギョーザがくっつく条件などの検証を進めていくとしている。今後の検証内容によっては、ギョーザ以外の研究チームからの応援を要請することも考えているそうだ。

なお、味の素冷凍食品はフライパンの募集と同時に、独自に進めていた検証結果を発表大さじ1程度の油を引くか、弱火で10分蒸し焼きにすることで、ギョーザの張り付きが改善できることを確認したという。Business Insider Japanが7月中旬に取材した段階で発端となった投稿者からフライパンは届いていなかったものの、フライパン張り付きギョーザ騒動はひとまずの決着となった。

冷凍食品が晩ごはんの食卓に進出で、ギョーザが躍進

味の素冷凍食品の冷凍ギョーザ

味の素冷凍食品の冷凍ギョーザ。基本的に売り上げは右肩上がりで成長しているという。

撮影:三ツ村崇志

味の素の冷凍ギョーザは、1972年に販売を開始した全12品(当時)の味の素の冷凍食品のうちの一つだった。今や味の素冷凍食品はもちろん、市販用の冷凍食品として業界最多の売り上げを誇る商品に成長した冷凍ギョーザだが、社内・業界共に売り上げトップに躍り出たのは2003年のこと。

それまでのトップは、同社の「プリプリのエビシューマイ」だった。

「2000年頃までは電子レンジの普及と共に、お弁当中心に冷凍食品が使われていました。ただ、食のスタイルや生活スタイルが変わってくる中で、晩ごはんの食卓に上がるようになってきたのだろうと思っています」(勝村さん)

1990年代から週休二日制が浸透し始め、家族で過ごす時間が増えた。一方、共働き夫婦などの増加に伴い「手間抜き」のニーズが高まる社会環境の変化もあった。

ただ、売り上げを大きく伸ばした根底には、「永久改良」を掲げ、消費者ニーズに合わせて試行錯誤を続けてきた研究開発力がある。

冷凍ギョーザの売り上げが大きく伸びるきっかけになったタイミングは二度あった。

現在の冷凍ギョーザの根幹とも言える「油なし」で焼けるようになった1997年。そしてさらに「水なし」でも焼けるようになった2012年だ。

「誰でもおいしく焼ける」が価値に

1997年以前はフライパンに油を引いて蒸し焼きにする調理法が一般的だった冷凍ギョーザ。

ただ、当時の調査で、自宅に油を置いていない人が一定数いることが判明。そこで開発されたのが、「油なし」で焼ける冷凍ギョーザだった。

味の素冷凍食品の冷凍ギョーザ

パッケージの裏には、誰でも同じように焼けるように調理法が記載されている。

撮影:三ツ村崇志

ただ、油なしギョーザの発売後も、しばらくの間は消費者から「ギョーザがおいしく焼けない」という声が届き続けていたという。

そこで更に調査を進めたところ、ギョーザを蒸し焼きにするために入れる水の量に個人差が大きいことが判明した。ギョーザのトレイに目盛りを入れて水の量を測りやすくする工夫などをしたものの、なかなか効果が出なかった。

であれば、いっそ水を使わずに調理できるギョーザを開発しようと生まれたのが、2012年に販売開始となった、油なしに加えて「水なし」でも焼ける冷凍ギョーザだった。

その後、誰でも同じような火加減で焼けるようにするために、2015年にはパッケージに「中火の火加減」を示す写真を挿入。「誰でも上手に焼ける」を実現するための細かな改良とともに、売り上げも伸びていった。

改善続けて50年。ギョーザの可能性に終わりなし

味の素冷凍食品では、焼き方の改善だけではなく概ね年に1度程度を目指しメニューの改善も続けている。2023年の8月6日にも、リニューアル商品の販売が始まる。

この改善は、販売を開始した1972年から50年以上ずっと続けられてきたものだ。当時と比較すると、ギョーザの見た目や味わいも少しずつ変わってきた。

1972年に発売した当初の冷凍ギョーザは、皮が分厚く今のギョーザほど「ひだ」もない、丸い形をしていた。薄い皮を使っても破れることなくひだを寄せられるようになったのは、加工装置の技術が向上したおかげだ。

味の素冷凍食品の冷凍ギョーザのパッケージ

発売当初の冷凍ギョーザのパッケージ。今と形や羽根の付き方がかなり異なる。

画像:味の素冷凍食品

また、当時のギョーザはタレにつけて食べる前提の味付けだったが、今はタレなしでも食べられるように、原料も工夫されているという。

製品戦略部ギョーザ開発担当の駒木根理花さんは、商品のリニューアルや新商品開発の考え方について

「毎年、この商品をよりおいしくするにはどうすればいいかを考えるところから入ります。そのときに調査をして消費者のお悩みやトレンドは何なのかを分析して製品設計に反映させています」

と話す。

味の素冷凍食品製品戦略部ギョーザ開発担当の駒木根理花さん

味の素冷凍食品製品戦略部ギョーザ開発担当の駒木根理花さん。「まずは、タレをつけずにそのまま味わってほしい」と話す。

撮影:三ツ村崇志

Popular

あわせて読みたい

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい

広告のお問い合わせ・媒体資料のお申し込み