マイケル・リチャーズが演じるコズモ・クレイマー。
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- Z世代のファッションのトレンドは、持続可能で意図的、そしてちょっと変でダサい。
- 「間違いシューズ論」と「クレイマーコア」は、経済と気候への不安に対するリアクションの一環だ。
- 洗練された服や新しい服を買う時代は終わった。これからは、ダサくて古い服だ。
「靴が服と全然合っていない」というのは、誉め言葉だ。
常識では考えられないと思うかもしれないが、これは「Wrong Shoe Theory(間違いシューズ論)」と呼ばれ、Z世代のファッションのトレンドだ。スタイリストのアリソン・ボーンスタイン(Allison Bornstein)が名付けたコンセプトで、 服とは劇的にアンバランスな靴、例えばスウェットパンツにパンプスを合わせるといったものだ。
「何も買わなくても、とても簡単にファッションをミックスすることができる」とボーンスタインはInsiderに語った。著書『WEAR IT WELL: Reclaim Your Closet and Rediscover the Joy of Getting Dressed(着こなし上手:クローゼットを整理して、もう一度服を着る喜びを)』が、近日発売予定だ。
これは、自分をどう見せるかということに関して、Z世代の優先順位を示す最新のムーブメントだ。彼らは、靴はあまり目立たないものを選ぶなど意図的でありたいと思っていて、自分自身のことはあまり真剣に考えていない。お揃いのブラウスを着て、主張のあるネックレスをつけてクラブに行くような時代はとうに過ぎ去り、あえてダサく、変にするのが今時だ。同時に、Z世代が直面する多くの課題と同じく、持続可能性や迫り来る気候危機にも目を向けている。ノームコアの履き心地のいいスニーカーで十分なのに、なぜ、どうせ捨てることになる新しい靴を買うのか。
「若い世代は、個性や他人と違って見えることを非常に重視しているように感じる」とボーンスタインは述べた。
「このファッション・メソッドはとにかく、ユニークさと、簡単にしかも安く変える方法、まったく違う、とっても複雑なものにする方法を提唱している」
であれば、 Z世代がそんな着こなしと節約の美学を重視するのも不思議ではない。それが、クレイマーコア(Kramercore)だ。 ジ・アトランティック(The Atlantic)のアマンダ・マル(Amanda Mull)が報じた通り、今年の夏は、誰もがクレイマーのような着こなしをしたいと思っている。そう、ドラマ「となりのサインフェルド(原題:Seinfeld)」の登場人物で、いつも最新のサイドクエストを知らせるために部屋に突入してくる、コズモ・クレイマー(Cosmo Kramer)だ。ユーモアのあるボタンダウン、おかしな襟、微妙に丈の短いパンツ、そしてローファーを思い出してほしい。もし、すでにクローゼットにあるのであれば、その日の気分に合わせて組み合わせてみよう。
マルの言うように、さまざまな要素を含むクレイマーの美学は、今のトレンドに合っている。時代を超えた古いスタイルの寄せ集め、先行き不透明な世界に対する反応。クレイマーは本当に何か企んでいる 。それに、少しおもしろさもある。ニューヨーク・タイムズ(NT)が報じたように、クレイマーコアはすでに1度、放送開始から数年後の1994年にアメリカを熱狂させている。あの頃、クレイマーの服は飛ぶように売れていた。番組の衣装デザイナーがNTに、クレイマーに着せる服が見つからない、と嘆いたほどだった。
「ファッション面で、我々は本当にモンスターを作り出してしまった」と衣装のスーパーバイザー、シャルメーヌ・シモンズ(Charmaine Simmons)は1994年、NTに語っている。
この、クレイマーの服装への渇望は、お馴染みの経済的背景の中で生まれたものだ。1991年、アメリカは短期的なリセッション(景気後退)に陥っており、特にホワイトカラー労働者の間で、所得格差が拡大した。だが1994年、クレイマーコアが最高潮に達して衣装デザイナーが困っていた頃、株式市場は低迷していたが、消費者は物への出費は惜しまなかった。
それは、パンデミックに見舞われた経済と似ている。中でもZ世代は、金融ブームと不況を次々と経験した。クレジットカードによる負債を重ね、気候危機に特に敏感なZ世代にとって、おしゃれと買いものは負担だ。「間違った靴」などのコストが掛からずに達成可能なスタイル、持続可能なファッション・セットを誰かにキュレートしてもらうことに魅力を感じるのもうなずける。
ボーンスタインによると一部の人、特にミレニアル世代の人が、パンデミック中に「何でこんなに持ってるのか。これは何用か。 何の役に立つのか 」と自問自答しながらクローゼットを整理することを経験したという。
その結果、本当に必要な物だけを残し、ベーシックとミニマリズムに至ることへと繋がった。
中には「個性が欠けている」という人もいて、今は「何が自分を際立たせるのか。どうすれば自分の個性を取り戻すことができるのか」と自問しているという。
クローゼット危機だろうとクライメット(気候)危機だろうと、Z世代の反応は不条理に傾くことが多く、一部の人にとってそれは、クレイマーの真似(厚手の白靴下、ボーリンク・シャツなどなど)のように感じられるのだ。