右が本物、左が偽物のスニーカー。タグや縫い目など、細かな違いを見て真贋鑑定を行うという。
撮影:土屋咲花
C2Cやオークションで目にする機会が増えた偽物商品。
OECDの調査によると、世界全体の偽装品輸入額は5090億ドル(約72兆円・1ドル142円換算)に上り、世界全体の貿易の3.3%を占める。金額ベースで最も偽物が多いのは「靴」だという。
こうした中、スニーカーを中心としたブランド品の真贋鑑定サービス「フェイクバスターズ」を提供するスタートアップのIVAが、メルカリやDe CapitalなどからJ-KISS型新株予約権の発行と、金融機関からの融資による約8億円の資金調達を実施した。同社が資金調達をするのは、今回が初めて。
IVAはスニーカーブームやリユース市場の伸長を追い風に、2019年の創業以来、150万件以上の鑑定実績を持つサービスだ。同社は国内トップシェアだと公表している。国内最大級のスニーカーのマーケットプレイス「スニーカーダンク(SNKRDUNK)」やブックオフも同社のサービスを利用する。
相原嘉夫代表(27)に、令和時代の真贋鑑定ビジネスの現在地を聞いた。
「鑑定」は在庫のないビジネスになる
相原嘉夫代表取締役CEO。自身は「スニーカーコレクターではありません」という。
撮影:土屋咲花
「フェイクバスターズ」は、1件から外注できる真贋鑑定サービスだ。
鑑定ごとに料金が発生し、顧客が撮影した写真をもとに鑑定するクイック鑑定(550円から)と、郵送によるコンプリート鑑定(3300円から)を提供する。当初はスニーカーの鑑定のみだったが、今はアパレルやラグジュアリーブランドにも対象商品を広げている。個人も法人も対応するが、売上比率は法人向けの方が高いという。
同社のAIを活用した真贋鑑定ビジネスが生まれたきっかけは、相原代表が大学在学中に手掛けていた中古販売事業で抱えていたある悩みにある。
「取り扱う商品量が増えて来た時に、偽物が紛れてしまったら会社として良くないと鑑定士を入れたのですが、1人では鑑定結果が本当に正しいのかどうかが分からない。複数人を採用したら、今度はそれぞれの鑑定結果をまとめるのがすごく大変でした。これって、他の事業者も同じような課題を抱えているのではと思いました。
当時はスニーカー市場が社会現象になるほど伸びる一方で、偽物の問題は解消できていなかった。ビジネスチャンスがあると考えました。
1社目で行っていた中古品のビジネスは在庫や配送のリスクがある上、利益率が低かったのもあり、『在庫を持たないビジネスって良いよね』と、今のCOOとすき家を食べながら思いつきました」
その日からすぐに会社名やサービス名を決め、半年後には真贋鑑定サービスを開始した。
AIと人の目で精度を担保
鑑定にはAIを導入するが、活用はあくまで限定的だ。
学習を繰り返した結果、同社のAIの精度は99.9%に上る。
ただ、「ビジネスの性質上、100%でないと論外」だと相原代表は話す。
そのため、AIが鑑定を下すのは、「明らかに本物」「明らかに偽物」と識別できる全体の4割程度だ。残りは同社の鑑定士がチームを組んで「人の目」で鑑定する。
鑑定士の中でもレベルの高い人材を国内外で採用し、囲い込むことで、AIによる効率化を併用しながらも、他社が真似できない高水準の真贋鑑定サービスを実現している。
背景にあるのは、主軸にしているスニーカーの鑑定の難しさだ。
「スニーカーの定価はだいたい2万円程度で、本物も偽物も中国で作られています。
2万円の商品なので、本物の中でも、製品の品質にばらつきがあるんです。同じ本物でもすごい綺麗にできてるものもあれば、かなり雑に作られている場合もあります。偽物も同じように品質にばらつきがあるのですが、すごく綺麗に作られている偽物と、すごく雑に作られている本物のクオリティーはどちらが上なのか?ということが起こりうるんです。パッと見で『こちらの方が美しいから本物』と言える話ではないので、高価で品質の均一性が保たれているラグジュアリーブランドのバッグなどと比べると鑑定が難しいです」
同社のビジネスは、いかに優秀な鑑定士を採用し、スキルアップできる環境を作れるのかが肝心だ。能力に応じた給与待遇によって「優秀な人が稼げて、働きやすい職場」を実現しているという。
「給与は基本給に加えて、鑑定数による歩合の割合が高いです。単価は鑑定士のランクによって異なり、鑑定結果をスコアリングすることによって単価が変動します。
鑑定を誤れば単価が下がるシビアな環境ではありますが、真面目に働くインセンティブがあるともいえる。月に3桁(万円)を稼ぐ人もいます」
「脱下請け」 の第二創業期
相原嘉夫代表取締役CEO。赤字を出さないよう、リスクを抑えた経営の仕方は同じ経営者である父親の影響という。
撮影:土屋咲花
AIを活用しているとはいえ、鑑定師という「人材が要」のビジネスである以上、人件費が重そうなビジネスモデルではあるが、相原さんによると、IVAは創業以来黒字を保ち続けているという。
同社の初期の成長は、中古スニーカーのマーケットプレイス「スニーカーダンク」とともにあった。スニーカーダンクを運営するSODAは2018年の創業後、わずか数年で評価額約400億円へと急成長した。
「スニーカーダンクに流通するスニーカーの真贋判定を弊社が担っていて、彼らの急成長に伴い、我々も成長してきました。そういう意味では、指数関数的な成長ができました」
相原代表は今のIVAを「第二創業期」と位置づける。
「ある程度スニーカーダンクに依存していた体質から、完全に脱却しようと思っています。業務提携も増やしますし、組織もより骨太で大きな組織にしていきます」
2022年にはマルイ店舗内への商品持ち込み窓口の設置、2023年6月にはブックオフとの業務提携を発表し、ブックオフの店舗に持ち込まれるスニーカーを30分以内に鑑定する「特急鑑定」を担い始めた。
今回の資金調達では、新たにメルカリからの出資を受ける。メルカリからの出資は数億円規模とみられる。メルカリと言えばフリマアプリの大手。今回の出資を機に、フェイクバスターズをメルカリに導入するということなのか。
相原代表は、
「 提携については現時点で具体的に決定している事実はありませんが、リユース市場で安心安全な取引環境を構築するという点で共感していただいたような形です。この資金をもとに、一般消費者にもインパクトをもたらす取り組みができればと考えています 」
と語った。
さらに、フェイクバスターズのアジアや北米への海外展開や、マーケットプレイスの自社展開も見据える。調達した資金はそうした事業拡大に活用していく考えだ。
ブックオフなどの販売網を持った大手企業との業務提携を進める一方で、自社でもマーケットプレイスを展開しようとする理由について、相原代表は、
「今のビジネスはBPO(アウトソーシングの受託)なので、下請けのような捉え方をされがちです。下請けの会社は成長が完全にクライアントに依存することになるので、発注企業がビジネスのキャップになり続ける。それは私にとっては魅力的でない」
と断言する。
「会社として評価額1000億円は達成したいと考えています。BPOだけだと、評価額が200億円程度にしかならないと思うんです。
業務提携に徹するべき領域や市場においてはそうしつつ、それ以外の海外やニッチな商品においては、マーケットプレイスを自分たちで手掛けることで消費者の前まで出ていくことが必要だと思っています」