アサヒ飲料は2023年7月下旬、全国のセブンイレブンで胴部に極小ラベルを貼り付けた「十六茶」の販売を開始した。
撮影:湯田陽子
連日の猛暑。のどを潤すために、ペットボトル飲料を購入する人も多いだろう。
そんなペットボトル飲料の“ラベル”が、小型化してきていることをご存知だろうか。
目的は、プラスチックの削減だ。ラベルを小さくしてペットボトルのプラスチック使用量を少しでも減らすのが狙いで、最近ではラベルが全くない「完全ラベルレス」の商品も増えている。
しかし、店頭では完全ラベルレスの商品はなく、必ず小さなラベルが貼られている。それはなぜなのか?
完全ラベルレス商品と「極小ラベル」つき商品、どちらも販売しているアサヒ飲料にその理由を聞いた。
「ラベルレス」可能なのは箱売りだけ
アサヒ飲料のラベルレス商品ラインアップ。「おいしい水」「十六茶」「カルピス」など10ブランドで、箱売り専用商品として展開している。
アサヒ飲料公式サイトをキャプチャ
アサヒ飲料は2018年5月、同社の看板商品「おいしい水」のラベルレス版を発売した。日本初のラベルレス・ペットボトル飲料だった。
この画期的な商品は「ラベルを剥がす手間が省ける」と好評で、これを機に、飲料メーカー各社が相次いでラベルレス化を推進。アサヒ飲料によると、ラベルレス市場は5年間で15倍に拡大した。
ところが、外出時に立ち寄ったコンビニなどで1本買いたいと思っても、ラベルのない商品は売っていない。
その理由について、ラベルレスアサヒ飲料マーケティング本部主任の鈴木慈さんはこう話す。
「1本単位で販売する場合、食品表示法や資源有効利用促進法といった法律で、原材料や内容量、賞味期限、保存方法などを表示することが定められているからです」(鈴木さん)
完全なラベルレスが可能なのは箱売りだけ。バラ売りの場合は、1本1本に必ず、法令で定められた項目を表示することが義務付けられているという。
通販で購入した完全ラベルレスの「十六茶」。箱には、法律で定められた表示内容のほか、「ケース販売専用商品」「お店で開封しないでください」との注意書きが記載されている。
撮影:湯田陽子
法律上のルールをクリアしなければならないが、プラスチック使用量も減らしたい。しかも、箱ではなく1本単位で購入したいという消費者ニーズにも応えたい。
その“苦肉の策”から生まれたのが「極小ラベル」というわけだ。
なぜ「肩」ラベルが多いのか
バラ売り可能な商品のラベルはたいてい、飲み口近くの「肩部」に貼られていたり、掛けられたりしている。
撮影:湯田陽子 提供:サントリー食品インターナショナル、日本コカ・コーラ
アサヒ飲料が、極小ラベルの商品を発売したのは2021年4月のこと。同社の看板商品「おいしい水」で、名刺より小さい極小ラベル「シンプルecoラベル」に法定表示を集約した。
その後、シンプルecoラベルを「十六茶」にも広げ、2022年6月から販売している。
アサヒ飲料だけでなく、サントリーの「天然水」「伊右衛門」、コカ・コーラの「コカ・コーラ」、キリン「生茶」など、これまでにさまざまな「極小ラベル」商品が誕生している。
各社のラベルを見て気づくのは、そのほとんどがボトルの飲み口に近い肩部に貼られているという点だ。
その理由について、アサヒ飲料の鈴木さんはこう話す。
「キャンペーンシールつきのペットボトル飲料を見たことがあると思うんですけど、そのシールって肩部に貼られている例がほとんどなんです。
キャンペーンシールを肩部に貼る技術があったので、極小ラベルにもそれを生かしているんです。多少の調整は必要ですが、技術的なハードルが低いというところが大きいと思います」(鈴木さん)
全商品をラベルレス化すべきでない理由
ペットボトル飲料は華やかなパッケージも多い。
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アサヒ飲料のシンプルecoラベル版「十六茶」も、店頭販売当初は肩部にラベルが貼られていた。
しかし2023年7月には、胴部に極小ラベルを貼ったバージョンの「十六茶」を全国のセブンイレブンで販売開始。従来からあった肩部バージョンの商品も、胴部バージョンに順次切り替えている。
肩部から胴部に変更した最大の理由は、デザイン性だ。
肩部のシールは「デザイン的にイケてない」という声が消費者から上がっていたことに加え、2021年の発売当初から胴部に貼っていた「おいしい水」のシンプルecoラベルが「スタイリッシュ」と好評だったからだという。
「シンプルecoラベル版の『おいしい水』は、『この商品をどう見せたらもっと売れるのか』というパッケージ開発を突き詰めた結果、胴部に貼ることになったんです」(鈴木さん)
その言葉通り、パッケージ開発の一環として、中身の水がきらめいて見えるようにボトルデザインも一新した。
今後も極小ラベルつきの商品がどんどん広がっていくのだろうか? 鈴木さんは「すべての商品を極小ラベル化すべき」とは考えていないという。
「ラベルの最大の目的は、どんな商品かを伝えることです。例えば、当社の三ツ矢サイダーやカルピスウォーターでフルーツ味の商品がありますが、パッケージデザインがなければ何味なのか分かりません。ラベルが必要な商品は絶対にあるんです」(鈴木さん)
ラベルレスや極小ラベルに適しているのは、「水やお茶のように、中身がある程度明確で単純なもの。かつブランドとしてしっかり認知度がある商品」だと語った鈴木さん。そうした制約のなかでも、極小ラベルの広がりには期待している。
「『シンプルecoラベル』という商品形態がブランドとして認知されるようになって、(商品展開を)広げていくことができれば嬉しいですね」(鈴木さん)