「褒めてもダメ、叱ってもダメ」不登校の子どもと部下への接し方には共通点があった

dei_forum_top

撮影/中山実華

DEI(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン。DE&Iとも)を実現するには、働く人のみならず、その子どもたちの「個」に向き合う必要性を感じる。

DEI推進を続けるパナソニック コネクトの執行役員常務CMO/DEI担当役員の山口有希子さんが実感しているのは、社内でもコロナ禍をきっかけに子どもの不登校に関する相談件数が増えたこと。そこで、パナソニック コネクトでは、子育て中の社員に向けて不登校・子育て支援に関するセミナーを開催。

不登校の子どもと親に向けたサポートを提供する、一般社団法人ビリーバーズ代表理事の熊野英一さんと、ホームスクーリングで輝くみらいタウンプロジェクト代表の小沼陽子さんが、子どもの自立を促すために親はどうあるべきかを議論した。

子育てでも、人材育成でも重要なのは「共感」と「信頼」

1-0073

一般社団法人ビリーバーズ代表理事 熊野英一さん

撮影/中山実華

文部科学省の調査によると、日本の小・中学・高校生の不登校生徒は約30万人。コロナ禍を機にその子どもの数が加速しているという。「親にとってこの問題は非常に重く、仕事にも影響する」と山口さん。不登校の子どもは今、なぜ増えているのだろうか。

変化が激しいVUCA(ブーカ)時代といわれる昨今、この先どんな社会になるのか、何を選択するのが正解か分からず、親も暗中模索しながら生きている。

子どももまた「答えがないまま生きていかなければならない」ことを敏感に感じ取っているのでは? と、熊野さんは話す。親世代には常識だった「学校に通う」ことに意味が見出せない子どもが増えているのかもしれない。

また、不登校生徒に限らず、子どもを評価し操作する今までの子育て法は通用せず、「褒めてもダメ、叱ってもダメ」とも話す。

では、親はどうすべきか? 熊野さんは子どもに「共感」し、「信頼」することを提言。

「褒めて育てることも、叱ってコントロールするのも途中まではうまくいきます。でも、最後は破綻します。そうならないために、子どもに心から共感して、信じて、見守るとちゃんと自立します。

時間はかかりますが、再登校できたり、学校に行かずやりたいことを始めたり、次のステップに進めるはずです」(熊野さん)

子どもは共感と信頼を得ると、「不完全な自分でも大丈夫」と勇気と意欲が湧いてくる。実は、 “他者への共感と信頼”は、子育てに限らず夫婦間や職場の人間関係も好転させるという。

「部下や子どもが失敗してもチャンスを与えて、待つ。

そのために信頼が必要ですが、相手を信頼するためには、まずは自分を信頼することが大事。自分を信じられない人は、他者も信頼できないからです。

こういうことに気づけると、子育てや仕事がバージョンアップします。見守ることができれば、子どもとも、部下ともいい“チーム”になっていく。子育ても仕事の人材育成も一緒ですよね」(熊野さん)

パナソニック コネクトは、「共感 共創」をバリューに掲げている。「共感力はお客さまとの関係や部下をコーチングする場面でも重要」と、山口さんも大いに納得していた。

レールから外れた子どもと親が生きやすい場所が必要

1-0292

ホームスクーリングで輝くみらいタウンプロジェクト代表 小沼陽子さん

撮影/中山実華

不登校は子どもの人生だけでなく、親の人生にも大きなインパクトを与える。自身の息子と娘の不登校を機に、人生観が180 度変わったというのが小沼さんだ。

2017年に20年勤めた大手企業を退職し、不登校の生徒と親を支えるホームスクーリングのプロジェクトを発足。立ち上げ当初から山口さんと活動を共にしている。

ホームスクーリングとは、家庭を拠点にした子どもの教育方法。主に親が子どもの成長の責任を持って進める。アメリカはホームスクーリングが合法化されており、全米で300万人以上のホームスクーラーが存在。著名なホームスクーラーも多く、アーティストのビリー・アイリッシュもその一人だ。

先でも伝えた通り、日本の不登校生徒は増加の一途を辿る。登校していても学習意欲に欠ける「隠れ不登校」も含めると100万人以上と推計。

不登校問題を取り上げるメディアやフリースクールの数も増えて、「学校以外の選択」の理解は進んでいる。しかし、自宅から出られない子どもとの向き合い方は、いまだ深刻だ。

「お子さん自身『学校に行けないのがなぜか分からない』という場合が大半です。

大事なのは、子どもが好きなことや興味があることを自分で決めて学び、活動できる環境を整えること。ですが、親子だけでは解決できないため、地域との連携が課題だと思います」(小沼さん)

子どもの不登校をきっかけに、小沼さんは、学校の存在とは? 常識とは?という大きな命題を突きつけられたと語る。

あるときに「学校へ行かない選択をした息子の味方でいる」と覚悟を決めると、みるみるうちに子どもたちが元気になった。その後、息子は大学へ、娘も好きな分野の学校に進学を果たす。

小沼さんは、自発的に学校を選ばない息子の姿を見て、自身の人生を回顧。これまでの働き方や生き方が正しいのか心が大きく揺らぎ、会社を辞した。今は「自分の人生を生きている」実感があるそうだ。

「レールから外れた子どもが生きにくいのが、今の日本社会。不登校の子どもと親が、ともに成長できるような場所が必要だと感じます」(小沼さん)

家庭でもビジネスの世界でも「個性」が尊重されるのが理想

1-0562

パナソニック コネクト 執行役員常務CMO/DEI担当役員 山口有希子さん

撮影/中山実華

不登校のテーマを掘り下げていくと、家庭にこそDEIの観点が必要だと分かってくる。

親が知らぬ間に子どもの世界はどんどん育ち、広がる。親子の価値観の相違は当然だが、その摩擦を回避する場面でDEIの視点が生かされる。

「個性の価値観が大事にされることは“わがまま”だと思われがちですが、それは違います。いつの時代も変わらず、子どもはありのままの自分に注目してほしいし、認めてほしいものです。

子どもが不登校になると、親は心配している気持ちを子に伝え、課題化してしまう。心配するのは当然ですが、子どもはそれを望みません。

子どもが求めるのは、親からの信頼。家庭で解決できない心配ごとは、同じ悩みを持つ親御さん同士で共有してみてはどうでしょうか」(熊野さん)

山口さんも、多様性を認め合い受け入れるDEIの視点は、予測困難なVUCA時代を生き抜くため、子育て、ビジネス、その他のあらゆるシーンで必要不可欠だと指摘。

最後に、山口さんは「パナソニック コネクトは、ウェルビーイングも非常に重要だと考えます。家庭の中でも職場でも幸せであることが大事。今回のフォーラムが子どもとの向き合い方に悩んでいる方のより良いヒントになればうれしい」と締め括った。

1-0679

撮影/中山実華

MASHING UPより転載(2023年8月3日公開


(文・取材)石上直美

石上直美:ライター・エディター。出版社にてウェルネス誌・カルチャー誌の編集者として勤務後、フリーランスに。現在は環境・ジェンダー問題などSDGs関連の記事や、ライフスタイル、インタビュー記事を中心に取材・執筆。また、社会問題をテーマとした映画レビューも手がける。

Popular

あわせて読みたい

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい

広告のお問い合わせ・媒体資料のお申し込み