はせがわの新貝三四郎社長。
撮影:土屋咲花
仏壇業界と聞いて、みなさんはどんな市況を思い浮かべるだろうか。
「都市部の核家族化が進んで市場が縮小しているのでは?」
「日本は高齢化が進む“多死社会”だから、むしろ事業は成長しているのでは?」
さまざまな見立てがあるだろう。
東京商工リサーチの2021年のレポートによると、仏具小売152社の売上高合計は2017年9月〜2018年8月は約536億円、一方コロナ影響のある2019年 9月〜2020年8月は515億円と4.4%減少した。市場としては厳しい状況にあるといえる。
そんななか、直近2年連続で売上高を2桁近くの成長率で伸ばし続けているのが、仏壇業界の最大手「はせがわ」だ。
はせがわは、カリモク家具などと組んだ「リビング仏壇」や、Web広告の積極展開、10万人の「アプリ会員」を抱え、社内のDXにも取り組むなど、仏壇業界で生き残るための、いわば「仏壇メーカーのイノベーション」を続けてきた。
新貝三四郎社長(59)に、創業90年を超える老舗として、ビジネスの変革をどう進めてきたのかを聞いた。
カリモク家具とコラボの「リビング仏壇」が好調
はせがわの2019年3月期~2023年3月期の業績。
決算資料をもとに作成
はせがわのビジネスは好調だ。
2023年3月期の決算は、売上高216億800万円(前年比9.6%増)、純利益は11億5400万円(同65.5%増)だった。売り上げは、消費増税前の駆け込み需要も相まって過去最高だった2014年3月期の216億3700万円に迫る。
今、人気を博しているのが、カリモク家具など国内の家具メーカーと共同開発した「リビング仏壇」。
その名の通り、仏間のない世帯がリビングに置いて使うことを想定して作られている仏壇で、従来よりも小型のサイズ。部屋のインテリアと馴染むデザインが特徴だ。
カリモク家具と連携し、現代の住環境に合わせた仏壇の開発を始めたのは2014年から。その後商品数や連携する家具メーカーを増やし、2017年にはこれらを「LIVE-ing(リビング)コレクション」としてブランド化した。
リビングコレクションの販売基数は2023年3月期に過去最多の約8000基になった。仏壇の販売基数全体の約4分の1を占める。
リビングでの使用を想定した仏壇は他の仏具店も手掛けるが、新貝社長は
「ほかの仏壇屋さんは、あくまでもお仏壇屋さんが主体となって家具調に作った仏壇を提供している。リビングスタイルは、家具のトップメーカーがクオリティとデザイン性を追求したものに、宗教的な要素を取り入れています」
と違いを強調する。
リビング仏壇の中でも人気の、「ソリッド ボード ジャスト」(約30万円)。
撮影:土屋咲花
扉を閉めると、仏壇とは分からない。
撮影:土屋咲花
仏壇業界もDX。チラシ予算をWebに投下、来店予約をオンライン化
コンパクトなサイズの仏壇(11万円)は、ペットの供養にもおすすめという。
撮影:土屋咲花
時代に合わせた商品開発だけでなく、販売や広告宣伝におけるアナログからデジタルへの移行も業績改善につながった。
はせがわでは2021年12月にウェブサイトをリニューアルし、来店予約をオンライン化した。フォームに検討品目や購入予定時期を入力してもらうことで、店舗側の商品提案がスムーズにできるようになったという。
2022年6月に提供を開始した公式アプリは、仏具の購入のほか供養に関する解説などをまとめたことがユーザーのニーズに刺さり、1年で10万人の会員を獲得している。
「このアプリを分析することによって、 お客様が今何に興味を持ってるのか、どういったことでお困り事があるのかをキャッチできる。情報を分析し、それに沿った情報提供や商品の告知を行っているのも業績進展の一つになったと思います」(新貝社長)
2023年3月期の成約率は70.8%。前期比で3.2%増加しているほか、成約単価は0.7%上がっている。
こうしたDXの重要性を訴えたのは、現場サイドだったという。
「新聞の折り込みチラシが最高だと思い込んでいる経営幹部がたくさんいる中で、今のお客さんはそうではなく、アプリだしインターネットだ、という声が現場からどんどん上がってきました。極端な話で言えば、折り込みチラシの1年間の予算はいらないと。
その代わり、その予算をインターネットの広告に回してくれという話が上がり、それなら、と実際にやってみたら、結果的にぐっと伸びた」(新貝社長)
ウェブサイトのアクセス数は、前期比306%増で年間800万件を超えた。一部の地域では、従来のチラシからリスティング広告に宣伝コストを移行させている。
「現場の声」を重要視
一見すると仏壇と分からないが、おりんなどの仏具を置けるスライド式の棚を備えている。
撮影:土屋咲花
新貝社長は、もともと一族経営だったはせがわで2人目のプロパー社長だ。現在も営業グループ長を兼任するなど、「現場主義」を重要視する。2021年1月に社長に就任すると、全ての店舗を回り、現場の意見を聞いて改革を進めてきた。
「入社の時から営業畑で、お客様との接点に関しては妥協したくないという思いがありました。やはりトップダウンだと、『えっ』と思うことがあるわけです。 お客様を中心に何が求められているのかを常にトップに伝達して、それが経営に生かされるような企業じゃないとダメだというのがありました」
さらにこう続ける。
「店舗と事務所を含め、150カ所の現場を全部訪問して、今何がストレスなのか、何に困っているのか、 どうしてほしいのか、よりお客様にいいサービスを提供するにはどうありたいのかというのをお聞きしました。
それらをできるものから、どんどんと各部署に改善してもらうということを、かっこよく言えばやってきたつもりです」(新貝社長)
住環境や家族構成の変化に伴い、供養の仕方は多様化している。墓じまいをする人も増える中、クラウド上でお墓を提供するサービスなども登場し始めた。
創業94年の老舗・はせがわはどのようにとらえているのか。
「価値観が多様化していく中で、ご供養の仕方も『こうであらなくちゃいけない』ということに縛られ続けると、私はこの業界がどんどん閉鎖的になっていくと思うんです。
自分の大切な方に手を合わせることは、自分流のやり方や飾り方で良い。既成概念は僕らからも破らないと。お仏壇はこれまでの箱ものではなく、極端に言えば、生前の時の音声を全部AIに読み込ませて、自分の悩み事を話せばお仏壇の中の大切な方がAIスピーカーで返事をしてくれるといった商品でもいいと思っています。
仏教観はしっかりと根付かせつつ、その時代時代に合った人間の心の拠り所になるような商品開発は、この先もこだわりを持つことなく続けていきたい」(新貝社長)