NDinfinity/Getty Images
今回は、読者の方からのご相談にお答えします。
走り続けて疲れ切った40代女性の方が、「1年間の休暇をとりたい」と考えているそうです。
Aさん
以前、知人から「1年間のサバティカル休暇(※)を取ってすごくよかった」という話を聞きました。私は社会人になって以来ずっと全速力で走り続けてきて、心身ともに疲れ果ててしまいました。私も1年ほど休んで充電したいと考えています。今の会社に休暇申請を出してみて、受け入れられないなら退職も考えています。
そこで、ネットでいろいろ調べていたところ、森本さんの連載の過去の記事を見つけました。その記事では「半年以上ブランクが空くと転職活動で苦戦する可能性が高い」とアドバイスされています。半年でも厳しいなら、1年も休んでしまうと完全にアウトなのでしょうか……。
(Aさん/40代前半/女性/IT関係)
※サバティカル休暇:所定の在職期間に達した従業員を対象に、一定期間の休暇を与える制度。期間は1カ月以上1年未満が一般的。
長い間、走り続けてこられたとのこと、本当にお疲れさまです。
個人的には「ゆっくり休んでいただきたい!」という気持ちもあるのですが……、「離職して長期休暇」を実行したことにより後悔したビジネスパーソンも多数見てきましたので、やはり少し厳しい現実をお伝えせざるをえません。
Aさんにご覧いただいた記事は2020年8月に公開したものですね。ちょうど3年が経ちますが、この頃よりもさらに、ビジネス環境の変化のスピードが加速しています。
1年間休むにしても、アップデートを続けて自身の価値をちゃんと保てるようにしておく努力が欠かせない——今はそんな時代です。
企業の採用担当者の立場に立って、その気持ちを想像してみてください。
「1年休んで、元のペースに戻すのにどれだけ時間がかかるのだろう」と不安を抱かれることは容易に想像できるのではないでしょうか。
現職を続けながら応募してきている人と面接で比較されるわけですから、見る目はかなり厳しくなります。
大切なのは「休暇中にどう過ごすか」「休暇後にどう変わっているか」
Aさんの知人の方は「サバティカル休暇」を取られたとのことです。
サバティカル休暇とは、もともと教育機関などで、一定の勤続年数を経た教授に対して与えられる「研究目的の休暇」を意味するようです。
現在は一般企業の休暇制度としても導入されていますが、その言葉の由来どおり、何らかの「成果」「成長」を期待される休暇と解釈できるでしょう。
Aさんは1年間の休暇を取ったとして、何か明確な目的・目標を持ち、1年にわたって取り組むことはできそうでしょうか?
その行動によってご自身をアップデートし、企業から求められる価値を獲得できるのであれば、「1年休暇」を実行に移してもよいかと思います。
ある方(30代後半)は政府系機関に勤務していたのですが、5年に1度くらいのペースで数カ月の休暇を取っていらっしゃいました。そして日本国内から発展途上国までさまざまな国・地域を旅行し、それぞれの「地域課題」をキャッチアップされたそうです。
結果、「地方創生」をご自身のテーマとし、リゾート開発・運営企業に転職されました。
ご自身のライフワークとそれに必要な情報・知識を得たという点で、その方の「数カ月休暇」はとても有意義なものであったと思います。
まずは数週間~1カ月スパンの休暇を経験してみる手も
1年もの休暇取得はやはりリスクが伴いますので、慎重に考える必要があります。休暇に入った後のご自身をイメージしてみてください。
私が想像するに、Aさんはお休みに入ってしばらくすると「飽きる」「物足りなくなる」のではないでしょうか。
ずっと走り続けてこられた方は、疲れて「休みたい!」と思っても、しばらく休んだらまた走り出したくなるものだと思います。休み続けていても、満足できない方が多いようです。
私自身もそうです。どんなに疲れても、3日も休めば「もう十分」と、また仕事をしたくなってしまいます。旅行も、忙しい合間を縫って出かけるから楽しいのであって、「いつでも自由に行ける」となると、それほどワクワクしないような気がするのです。
さらに1年も休暇を取るとなると、2~3カ月後にはビジネス社会との断絶感を抱き、不安になるかもしれません。
そこで、私からのご提案です。
とりあえず「1カ月」、会社と交渉して休暇をもらってはいかがでしょうか。「2週間」でもいいかもしれません。
まずは身体と脳と心を休めたうえで、ご自身の状態を見つめてみてください。
1カ月後、「もっと休んでいたい」なのか「そろそろ働きたい」なのか「仕事とは別に新しいチャレンジをしてみたい」なのか……。
それによって、予定通り仕事に復帰してもいいでしょうし、会社に休暇延長を申請する手もあるでしょう。
今はどの企業も人材不足に悩み、新規採用が困難な状況です。「辞められるよりは休んでもらうほうがいい」と、受け入れられる可能性はあると思います。
休暇延長を拒否された場合、いっそ退職して、ご自身のスキルを維持・アップデートする努力もしたうえで再就職を図ってもいいでしょう。
また、発想を転換し、長期休暇以外の方法で自分を休ませる方法もあると思います。
Aさんはとにかく忙しすぎて、追い詰められているような状況とお見受けします。ですから、会社と相談して、まずは勤務ペースを少し落としてみてもいいのではないでしょうか。
例えば、「時短勤務」「週休3日」など、使えそうな制度があるかどうかを確認し、活用してみるといいでしょう。
※転職やキャリアに関して、森本さんに相談してみたいことはありませんか? 疑問に思っていることや悩んでいることなど、ぜひこちらのアンケートからあなたの声をお聞かせください。ご記入いただいた回答は、今後の記事作りに活用させていただく場合があります。
森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。