「GreenFan」のスライドを示すバルミューダ寺尾玄社長(2021年11月撮影)。
撮影:小林優多郎
携帯事業の撤退を発表しているバルミューダは、本業の家電事業でも苦戦が続いている。
バルミューダは8月8日に2023年第2四半期決算を公表。売上高は第1四半期からの累計で57億4500万円と前年同期比で34.6%減。純損益は13億8500万の赤字となっている。
純損益には第1四半期に計上した携帯電話事業の終了に伴う5億3600万円の特別損失が含まれるが、8日の決算説明会に登壇した寺尾玄社長は「苦しい事業環境にある」と振り返っている。
加えて、バルミューダは決算前日の8月7日に小型風力発電機の実証実験を始めることを発表している。決算説明会の質疑応答では、家電事業の見通しと、新しい風力発電事業について質問が集中した。
「為替とコロナ反動」が家電事業を直撃
地域別の業績推移。どの国・地域でも厳しい状況が続いている。
出典:バルミューダ
まず主力の家電事業だが、バルミューダはほとんどの商品を中国など海外で製造して販売している。そのため、昨今の円安傾向の為替影響を大きく受けている。
さらに、寺尾氏は「日本をはじめ他の国でも落ちている。特に韓国の落ちがひどい」とし、パンデミックが落ち着き家の中を充実させる「内向き」から、旅行やアミューズメントなど「外向き」に消費者の需要が移ったことも、業績のネガティブインパクトになったと分析した。
結果、商品のプロモーション費用を含む販管費率は第1四半期の48.5%から37.4%に抑えられたものの、「最も苦しめられている」(寺尾氏)という売上原価率は、第1四半期が68.9%だったのに対し、第2四半期は70.9%と悪化している。売上原価率は、前年同期との比較でも65.0%(FY2022 2Q)から70.1%(FY2023 2Q)へと5ポイント以上悪化している。
2023年度第1四半期と第2四半期の業績比較。
出典:バルミューダ
家電事業について寺尾氏は「かなり良好なプランを計画している」とし、10〜11月には新製品の投入を示唆。既存ラインナップのカテゴリー充実だけではなく、新しいカテゴリーの商品も展開し、収益を改善していく方針だ。
ただし、為替と消費者の需要の動向も不透明であることから、「(商品)価格設定の見直しも真剣にはじめている」と述べ、既存製品の値上げも徐々に始めていく計画を明らかにしている。
2023秋実証実験の「小型風力発電」はB2Cも視野に
バルミューダは8月7日、「小型風力発電機の実証実験」を2023年秋に開始すると発表。
出典:バルミューダ
新商品と価格改定などで既存事業の立て直しを図りつつ、寺尾氏が「成長のためのチャレンジ」と主張するのが、風力発電事業だ。
8月7日に発表されたこの新規事業の試みは、バルミューダの主力製品である扇風機「GreenFan」で培ったノウハウを活かし、独自の発電用タービンを開発するというもの。寺尾氏によるとまずは事業者向け(B2B)で、将来的には消費者向け(B2C)での展開を模索しているという。
新規事業とはいえ、すぐに製品化にこぎつける段階ではない。まずは実証実験を2023年秋から始め、寺尾氏は「自動車のように使える道具として提案できるのが最終目的」としつつも、「最初からそうなるとは限らない」としている。
また、大黒柱である家電事業の先行きが見えない今、なぜ現時点では事業化の目処が立たないことにチャレンジ(投資)をするのか、という疑問も浮かぶ。
「エネルギーを『使う』から『作る』まで自分たちが方法を提案、発明できるならこれほどいいことはない」と語る寺尾玄社長。
画像:筆者によるスクリーンショット
タイミングに対し寺尾氏は「数年前から、スマホ事業をやっていた中から、チャレンジを続けていた」とこれまでも研究開発を続けてきたことを強調する。
今回の発表に至った経緯も、世間での自然エネルギーの注目の高まりに応えたというよりも「学術機関※との協業が始まる。ある程度外向けに言わないと、場所の選定などでタイミングが遅れてくるリスクがあった」と事務的な理由を挙げた。
※2023年秋の実証実験については、世界風力エネルギー学会副会長を務める荒川忠一・東京大学名誉教授がシニアアドバイザーを担い、足利大学の飯野研究室(工学部創生工学科機械分野)との共同研究も予定。
2010年の扇風機・GreenFanの展開当時から「エネルギーには強い興味を持っていた」とし、「将来、人類は電気の地産地消をしていると考えている。そんな現実がいつになるかわからないが、関与できるならエンジニア冥利に尽きる」と、自身の強い思い入れある事業だと説明会では語った。