増収減益のソニーG決算の「リスク要因」とは。半導体分野に漂う「中国市況の不透明感」

全体業績のスライド

ソニーグループ・2023年度第1四半期決算。大幅増収・大幅減益なのだが……。

出典:ソニーグループ

ソニーグループの2023年度第1四半期決算が発表された。

売上高は前年同期比で7339億円(33%)増の2兆9637億円と大幅増。対して営業利益は前年同期比で1118億円(-31%)と大幅なマイナスとなっている。

ソニーになにがあったのか……と言いたくなるが、ほとんどが金融事業の会計基準変更に伴う一時的要因だ。

重要なのは、各事業の現状だ。ゲームや音楽のように好調な事業もあれば、映画や家電・業務機器やイメージセンサー事業のように、慎重な舵取りが必要とされる分野もある。

それぞれがどうなっているのかを分析してみよう。

会計基準変更で金融に一時的影響

まず大幅減益の理由から確認しよう。

以下の画像を見て分かるように、減益要因のほとんどは金融事業にある。

セグメント別の収益をまとめたチャート

セグメント別の収益をまとめたチャート。減収要因の多くが金融領域。

出典:ソニーグループ

これは会計基準を切り替えたことにより、従来保険料収入に含まれていた解約返戻金相当額等が控除されたためだ。

前年同期比で売上高・利益が大幅に変動しているが、元々想定されていたことであり、株式市場でも織り込み済みのものだ。

一方、前述のように売上高は大幅に増えており、2023年通期での業績見通しも、売上高については7000億円の上方修正を行っている。ただし、営業利益・税引前利益については予測を据え置いた。

2023年度通期予測

2023年度通期予測。売上は7000億円の上方修正とするものの、利益は据え置き。

出典:ソニーグループ

PS5販売で「さらに積極策」へ

事業分野別の業績

事業分野別の業績。売上は伸びた分野が多いものの、利益がマイナスとなった領域も。

出典:ソニーグループ

増収に大きく貢献したのはゲーム&ネットワークサービス(G&NS)に音楽、イメージセンサーなどの半導体を扱うイメージング&センシング・ソリューション(I&SS)分野だ。

ただし利益については、G&NSとI&SSは前年比でマイナスとなっている。

まずG&NSから見てみよう。

G&NS分野

G&NS分野。売上は大幅に伸びたものの、買収費用などの影響で減益に。

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売上高は為替の影響もあり、7719億円と、前年同期に比べ28%アップしている。もちろんPlayStation 5(PS5)が売れたことが大きい。7月27日には累計販売台数が4000万台を超えたことが発表されている。

PS5

PS5は7月27日に累計販売台数が4000万台を超えた。

出典:ソニーグループ

ただ、ソニーとしてこの四半期の販売台数は満足いくものではなかったようだ。第1四半期での販売台数は前年同期比38%増の330万台。ソニーグループ執行役員でG&NS部門を担当する松岡直美氏は「若干期待に届いていない」と話す。

ただし、同社の十時裕樹・社長COO(最高執行責任者)兼CFO(最高財務責任者)は、販売が伸びきらなかった理由について「収益性を考え、プロモーションを抑えた影響もある」と説明する。そして「今後は拡大予定で、2023年度の販売目標(2500万台)は達成できる」(十時社長)と強気の姿勢を見せる。

PS5の販売台数

今期の販売台数は330万台。だが積極策に転じて「年度内2500万台」の販売目標を狙う。

出典:ソニーグループ

また、この四半期は自社(ファーストパーティー)作品以上に他社(サードパーティー)作品がヒットし売上につながったが、今後は「ファーストパーティーも拡大していく」(十時社長)とする。ゲームへの支出もPS4時代に比べて伸びており、この点を好材料としたいようだ。

ゲーム支出額

PS4時代に比べPS5はゲーム支出額がアップしているという。

出典:ソニーグループ

一方、利益は前年同期比でマイナスとなっている。これは、ネットワークゲーム開発元のBungie(バンジー)などを買収した費用が計上されたためだ。2023年度予測については売上高・営業利益ともに若干の上方修正をしている。

YOASOBI「アイドル」のヒットをグローバル展開の追い風に

「アイドル」がヒット

「アイドル」の世界的なヒットに続き、国内楽曲のグローバル展開も加速。

出典:ソニーグループ

明確に売上・利益が伸びたのは音楽分野だ。売上高が3582億円(前年同期比16%アップ)、営業利益が734億円(同20%アップ)と伸びた。

音楽分野

音楽分野は堅調に成長。

出典:ソニーグループ

ストリーミングサービス

ストリーミングサービスの堅調な伸びに支えられ、音楽事業は好調。

出典:ソニーグループ

伸びを牽引しているのはストリーミングサービスからの収入であり、ヒット曲が長期安定の形で伸びた結果という。

また中でも、テレビアニメ『推しの子』のオープニング曲であるYOASOBI「アイドル」がヒットしていることに触れ、「グローバルでのアニメのヒットを追い風に、楽曲のグローバル展開を伸ばしていきたい」(松岡氏)とする。

ハリウッドのストライキ「まだ視界不透明」

映画分野

映画分野。広告費増加と売上変化のタイミングからマイナス成長に。

出典:ソニーグループ

音楽とは対照的だったのが「映画」だ。売上高が前年同期比で6%減少(3204億円)し、営業利益は68%減の347億円となった。

コロナ禍からの回復で大型劇場作品が増え、そのプロモーションに費用がかかるようになった一方で、映像配信などからのライセンス収入が減ったためだ。

一方で、映画事業については、ハリウッドで続く、全米脚本家組合や映画俳優組合、米テレビ・ラジオ芸術家連盟によるストライキの影響が気になる。現状の終局時期は不明確であり、報道陣からも影響を問う質問が多く出た。

十時裕樹氏

ソニーグループの十時裕樹社長。

画像:筆者によるスクリーンショット

十時社長は「北米では大型作品の公開が続いており、活況であることには違いない」としつつも「ストライキが宣伝活動などにも影響してきており、公開時期の変更もある」とする。

ただ、映画は制作から収益化までの期間が比較的長く、今期についても、2021年の作品が影響している部分もある。そのため、ストライキなどの影響は「収益面では、今年度への影響は相対的には軽微だろう」(十時社長)と話す。

ハード・半導体は「リスクマネジメントに軸足」

他方で、十時社長が「当年度の事業環境は不安定。リスクマネジメントに軸足を置く」とする部門もある。

それがエンタテインメント・テクノロジー&サービス(ET&S)分野とI&SS分野だ。前者はテレビやカメラ、スマートフォンに加え業務用機器などを扱う分野であり、後者がイメージセンサーを中心とした事業だ。

ET&Sは売上高・利益とも前年同期比で4%アップと小幅な変化だが、これはテレビのオペレーションを改善し、経営へのインパクトを抑えた結果でもある。

ET&S分野

ET&S分野。テレビとスマホは数量が減っているが、デジタルカメラやヘッドホンは好調。

出典:ソニーグループ

コロナ禍を過ぎ、人々の志向が外側に向かっているためか、「テレビの売れ行きは厳しく、デジタルカメラやヘッドホンは好調」(十時社長)だという。同様に、スマートフォン事業も販売台数が減少している。

2022年度は在庫水準が比較的高い状況にあったが、今年は2021年度並みに抑え、堅実なビジネスを目指す。

在庫水準

在庫水準を抑え、ビジネスリスクを減らす対策を採る。

出典:ソニーグループ

I&SS分野については為替のプラス影響も大きく、売上高は2927億円(前年同期比23%アップ)と大きく伸びているものの、営業利益は41%もの減少となった。

2023年度通期見通しも売上で400億円、利益で200億円の下方修正となっている。

I&SS分野

イメージセンサーを中心としたI&SS分野。中国市場回復の遅れから収益性に影響が出ている。

出典:ソニーグループ

十時社長は「イメージセンサーは中長期的には成長の機会に富んでいるものの、今年の事業環境は不安定」と説明する。

課題であるのは中国市場の動向だ。

「中国のスマートフォンメーカーでは、大判のイメージセンサー需要が、ハイエンドだけでなくミドルクラスでも伸びている。ビジネスが細っているわけではない」と十時社長は分析する。

「今年4月の見立てに比べると、今は、中国市場でのスマホ需要回復が遅れる見通しだ」(十時社長)ともいう。

製造経費や競合企業の中国における過剰在庫もあり、結果として現状の収益性にインパクトがある状況となっている。

そのため、これらの事業についてはリスクを織り込みつつ、中長期的な競争力と収益性の維持に努める模様だ。

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