ファンドマネージャーのイボ・コバチェフは過去5年間、競合他社を圧倒してきた。
Ivo Kovachev, J O Hambro Capital Management
ベテランのファンドマネージャーであるイボ・コバチェフは、マーケットの大きなモメンタムに乗ることで同業他社を圧倒している。
多くのファンドマネジャーは、下落した銘柄が反発する前に買いを入れるのに対し、コバチェフは市場のモメンタムに乗って逆張りする。この逆張り手法は矛盾しているように見えるかもしれないが、コバチェフはここ数年素晴らしい結果を得ている。
モーニングスターによると、コバチェフがスティーブン・ルー、エメリー・ブリュワーとともに共同運用するJOHCMエマージング・マーケット・ディスカバリー・ファンド(JOMEX)は、2023年には分散型エマージング・マーケット・ファンドの98%を上回る成果を出し、過去5年間では同カテゴリーの上位3%に入っている。
コバチェフと彼のJ・O・ハンブロ・キャピタル・マネジメントの同僚たちは、リターンを追求するだけでなく、自分たちの考え方に固執せず、オープンマインドであり続けることにも長けている。
コバチェフはInsiderとの最近のインタビューで次のように語っている。
「私たちは謙虚に市場の声に耳を傾けています。ですから、もしマーケットがAIのように上がっていれば、何らかの株を買いに行きます。マーケットの調整が始まった時には、世界で一番賢いのは自分たちだとは思わないように心がけています」
グロース株の投資家にとって、バブルは必ずしも赤信号ではない
コバチェフが編み出した戦略は、モメンタム主導の2023年のマーケットにぴったりだ。
「我々は常に、動きのあるものを探します。モメンタムを探しているのです。そして大事なのは、モメンタムというのは、みんながそれを見つけて株価が上がり、異常なほど高値になっている時だけあるのではなく、基本的にはリカバリー期から見つかるものだということです」
そして、コバチェフはこう付け加える。
「それがマーケットの面白いところです。常にどこかで何かが上昇しているのです」
株価が上昇を続けるなか、AI(人工知能)のような急成長産業も含め、コバチェフは常にチャンスに目を光らせている。彼は、AI関連企業への過熱はバブルに似ていると認めながらも、慎重にではあるが、それらに投資しようと考えている。まだ極端な過大評価を受けていないAI関連の小さな企業もあるからだ。
しかし、グロース投資は単に話題性のある銘柄を買うだけではない、とコバチェフは言う。また、いわゆる「リカバリー・グロース」銘柄と呼ばれる、下落した後に安定し、復活の兆しを見せる銘柄もターゲットにしている。2022年、損失を防ぐ確実な方法はないことが証明されたが、そういった投資はリスクマネジメントに役立つのだ。
「良い年にはほとんどのファンドがそれなりにうまくやって非常に良い結果を出すものの、悪い年にはそれらがすべて下がってしまう、というのがグロースファンドには付きものです。我々は、極力そういうことにならないよう回避しています」
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コバチェフは、投資する際に市場全体の動きを考慮する一方、銘柄のいくつかの重要な資質を見出すボトムアップ型の銘柄選びを行っているという。
最も魅力的な企業は、実質的で持続可能な競争優位性と、売上と利益の力強い成長につながるシンプルなビジネスモデルを持っている、とコバチェフは言う。
彼はまた、モメンタムを測るためにそれぞれの株のテクニカルチャートパターンを見るが、これは特に決算シーズン以外で企業に関するニュースが減る時期には有効だという。コバチェフは、有望なテクニカル分析結果を持つ企業を見つけ、そのビジネスを吟味した後、その企業の相対的なバリュエーションも検討し、成長の軌跡に基づきそれが妥当かどうかを確認する。
コバチェフのJOHCM新興市場ディスカバリー・ファンドは、その名が示すように、世界の新興市場で注目されていない銘柄にこだわっている。
新興市場のほとんどの銘柄は、大手の投資会社がその可能性を見出し、組み入れを開始するまでは注目されない。そうならない限り、世界市場で最も隠れた銘柄の多くは発掘されないままだ。
新興市場の株式は今、特に魅力的だとコバチェフは言う。先進国と異なり、新興国の企業はコロナの間、財政や金融刺激策の波に煽られることはなかった。その代わり、それぞれの国の政府が過剰な支援で自国通貨の価値が下がることを恐れたため、金利上昇に苦しんだとコバチェフは言う。
ただ、新興市場の株式にとって幸いなことは、最終的に新興市場の金利は、原油価格の下落とインフレ率の低下により、下がるだろうとコバチェフは言う。しかし、株の割安なバリュエーションは、それらの可能性を反映していない。
コバチェフのファンドの資産の半分近くは、ITと一般消費財の2つの成長セクターで運用されている。コバチェフは、ITの中でも台湾、中国、韓国の中小企業を好む。
「エヌビディア(Nvidia)やアマゾン(Amazon)といった注目を集める少数の大企業が存在しない分、それらの地域には、サプライチェーン上に小さな企業がいくつかあります」
コバチェフが保有する上位株の中には、電気機器を製造する台湾のボルトロニック・パワー・テクノロジー(Voltronic Power Technology、TPE:6409)と同じく台湾の電子ペーパーディスプレイメーカー、Eインク・ホールディングス(E Ink Holdings、8069.TWO)がある。コバチェフは、中国が台湾に与えかねない脅威のせいで眠れなくなることもあるといいつつ、台湾への投資は彼のファンドの資産の22.5%を占めている。
もし、地政学的な緊張の高まりや戦争が中国からの投資引き揚げのきっかけになれば、インドが資本再配分の最大の受益者のひとつになるだろうとコバチェフは指摘する。彼のインドにおけるトップポジションは、自動車ソフトウェアの会社、KPITテクノロジーズ(KPITTECH:NS)、ボトル販売会社のヴァルン・ビバレッジズ(VBL:NS)、病院のチェーン経営のナラヤナ・ヘルス(NH:NS)である。
投資地域のシフトにより恩恵を受けるもう一つは、メキシコ企業だ。サプライチェーンを自国の近くに移したいと考えているアメリカ企業は、国境の南に目を向けている。そのため、いくつかのメキシコ企業の株が割高だったとしても、それらの銘柄への投資は理に適っているとコバチェフは言う。