本記事の筆者、中山桂氏。
Katsura Nakayama
- 金融業界で20年近くフリーランスとして活動している筆者は、若い頃から投資をしてきた。
- その立場から、新NISAを活用することで、本格的な老後に向けた資産形成の素地が整うと期待している。
- 具体的には、将来毎月不労所得が得られるように、新NISAを活用して自分だけの「月次分配ポートフォリオ」を株式とREITで作るという。
私は大学卒業後すぐに金融機関に十数年勤務し、その後は金融翻訳やIRコンサルティングを中心にフリーランスで仕事をしています。フリーランス歴は20年近くになりますが、その過程は順風満帆だったわけではありません。
フリーランスになった当時は結婚、出産と人生の転換期。しっかりと仕事ができていたわけでもなく、定期的な収入がありませんでした。その間、減少した収入を補てんしてくれていたのが投資です。
最近、日経平均株価が30年ぶりの高値を更新したというニュースが話題になっています。逆に言えば、日本株式だけに投資をしていた場合、とてもこの30年間の運用パフォーマンスは誇れるものではなかったかもしれません。これがインデックス投資の弊害でもあります。アセットアロケーションを失敗するとどうしようもない、ということです。
私の場合、まさにホームアセットバイアスが強く、日本国内の資産配分が高かったため誇れるようなパフォーマンスではありませんでした。それでも長期・積立・分散という投資三原則を多少なりとも維持していたため、資産が大きく沈む事態には至らなかったのは幸いです。
優れた投資家なら、もっと良い投資パフォーマンスを上げられたでしょう。でも、現在、夜も不安で眠れないような生活を送っていないのは、この長期・積立・分散投資のおかげだと思っています。
新NISAで資産形成の素地が整う
現在は、資産の約3割が現預金、1割が外貨建て預金、6割が株式にREIT(不動産投資信託)、そして投資信託などで保有。その6割のうち、1割ほどが現在のNISA口座、残りが課税口座で保有しています。
2014年から一般NISAが始まったときから、NISAでは将来的に有望と思われる銘柄を、課税口座ではそれまで保有していた銘柄(株式、REIT)の追加売買、という形で使い分けてきました。しかし一般NISAは非課税期間が5年と短く、長期的に有望(と、当時は思った)中国投信のパフォーマンスは残念ながらぱっとしません。このままいくと、NISAのメリットを受けずに課税口座に移行する銘柄もちらほらありそうです。
この非課税期間が5年というのが、現在の一般NISAの最大の欠点。ですが、来年から始まる新NISAでは、この非課税期間が無期限になります。これは大きいメリットですね。
一般的に短期景気サイクルの平均は7年です。旧NISAのように非課税期間が5年だと、上述の中国株投信のように投資のタイミングを失敗すると何の恩恵にもあずかれません。新NISAでは非課税期間を無期限としたこと、さらに生涯の投資上限を1800万円としたことで、本格的な資産形成の素地が整うと期待しています。
私は若い頃から投資をしてきましたが、そろそろ出口も考え始めなければ、というお年頃。本記事では特に、老後に向けて新NISAをどのように使っていくかに焦点を当て、私の考えを共有したいと思います。
60歳以降の「不労所得」計画
まず私は、60歳以降は時期によって異なりますが、3つの不労所得を得られるように計画しています。そのうちの1つは3種類の私的年金、もう1つは公的年金、そして最後の基軸となるものが新NISAで作る「月次分配ポートフォリオ」です。
このプランを図にすると、以下のようになります。
iDeCoの一括退職金を新NISAへ組み込むことでプランが完成する。
筆者および編集部にて作成
これについて、一つひとつ説明していきましょう。
3種類の異なる私的年金:人生の途中でフリーランスになったことから、退職後の資金については人一倍慎重です。iDeCoも運用しているのですが、それ以外にも、60歳から10年間の定期年金、65歳から10年間の定期年金、75歳からの終身年金という3種類の私的年金を保有しています。
上述の通りフリーランスなので、65歳を過ぎてもわずかな収入を稼げる可能性はありますが、こればかりは社会に求められるかどうかにかかっています。求めがなければ潔く、これら年金に頼って生きていかなければなりません。
公的年金(厚生年金):さらに、公的年金である厚生年金の受給開始は75歳まで繰り下げを予定しています。人生100年時代。願わくば75歳までは、フリーランスとして何らかの仕事をしたいと思っているからです。
余談ですが、仕事をして所得が一定を超えると、老齢年金額の一部または全額が支給停止になる在職老齢年金という制度があります。この制度に基づき停止された支給額は後になって支給されることはありません。したがって、老後に仕事をしながら公的年金を受給する場合には、所得額と相談する必要があります。
新NISAで作る「月次分配ポートフォリオ」:そして新NISAを利用した独自の「月次分配ポートフォリオ」です。
子どもの教育資金が必要だったことや、フリーランスのため生活防衛資金として現金を厚めにしていたことから、現在資産の3割ほどを現金で保有しています。しかし、日本でもいよいよインフレの兆しが見えてきたことから、新NISAではこの現金をその上限である1800万円まで投資に回そうと考えています。
具体的には、将来毎月不労所得が得られるように、成長投資枠を活用して日本株式の中から配当利回りが高い株式、いわゆるバリュー株とREITのうち、決算月が毎月違うものを選ぶつもりです。
REITとは、不動産に投資を行い、そこで得た賃料収入や売買益を投資家に還元する投資信託。収入の90%以上を投資家に分配するといったルールを守ることによって、REIT自体に法人税が課せられない仕組みになっています。そのため投資家には安定的に分配が払われる商品と言えます。
また、REITには1–7月、2–8月、4–10月、5–11月といった普通株式とは異なる決算月の銘柄が多数あります。例えば日本ロジスティックファンド(8967)の決算月は1月と7月、分配金利回りは3.4%です。一方、森トラストリート(8961)の決算月は2月と8月で、分配金利回りは4.69%です。このような決算期が異なるREITを6銘柄購入すると、毎月分配金が支払われる自分だけのファンドができます。
REITは借入をして不動産に投資をするため、金利上昇は一般的にREITのパフォーマンスに逆風と言われています。ただ、銘柄を厳選すればREITの高い配当利回りが、ある程度下値を保護するためのクッションになると考えています。
こうすることで、年をとってフリーランスとして毎月の収入が落ちてきた時に、月々の生活費を補完してくれるでしょう。
iDeCoも満期時には新NISAへ
さらに別途運用しているiDeCoは、年金として分割ではもらわず、65歳で一括退職金として非課税で受け取る予定です。65歳以降も多少収入を得られるかもしれませんし、その他私的年金もあるため、iDeCoを年金としてもらうと雑所得として課税される可能性があるからです。
65歳で一括退職金として受け取った資産は、その時の資産ポートフォリオ(現在保有している課税口座の投資)と相談しながら、こちらは新NISAのつみたて投資枠で運用することを考えています。
ちなみに現在のiDeCoは、新興国株式、海外株式等で80%を運用し、ターゲットデートファンドの割合は20%にとどめています。いまのところ運用状況は比較的好調ですが、世界的に景気後退に入るようであれば、外国株式のパフォーマンスが悪化する可能性があります。その場合は、このターゲットデートの割合を65歳に向けて増やそうと思っています。
なお、従来から積み上げてきた株式およびREITに、新たに65歳から積み上げるiDeCoの退職金を加えると、70歳を目処に新NISAの投資枠をフル活用できる予定。これによって、本格的な資産形成の素地が整うと期待しているのです。
老後も安心して暮らせるように
人に迷惑をかけず、余裕のある毎月の生活を送るために、投資は必要です。新NISAは生涯投資枠が1800万円と、「老後2000万円問題」で意識される金額にかなり近く、しかも生涯非課税です。新NISAを利用して長期・積立・分散投資をすることで、年をとっても安心して暮らせると考えています。