ロート製薬がスキンケアで資生堂越え「国内トップ」へ。立役者はマツキヨだった【前編】

ロート製薬

提供:ロート製薬

ロート製薬が好調だ。ドラッグストアなどでのスキンケア商品の売上個数は、資生堂やコーセー、花王など大手化粧品メーカーを抜いて首位に。安価な「プチプラ」商品が主力ながら、売上金額も2位につけている。

この躍進を支えるのが、同社が特許を持つビタミンC技術、そしてビタミンCを配合した「メラノCC」シリーズだ。2023年3月期(通期)の年間売上は前年比6割増の115億円超、洗顔や日焼け止めなど新商品を発売するたびに売り切れが続出した。

しかし2005年、シリーズ前身となる美容液を発売するも売れず、2009年にリブランディング。約14年にわたって試行錯誤を繰り返してきた歴史がある。

スキンケア市場に後発の「挑戦者」だった製薬会社が、なぜ王者・資生堂をしのぐまでになったのか。前後編で伝える。

2001年に参入、後発でも個数1位・金額2位

ロート製薬の2023年3月期の通期決算は、売上高2386億円、純利益263億円で、ぞれぞれ前年比19.5%、24.9%と増収増益だった。売り上げの6割超を占めるのが、スキンケア商品だ(1566億円)。

インテージ社のPOSデータ(販売データ)によると、全国のドラッグストアやスーパーマーケット、ディスカウントストアなどの小売店におけるスキンケア商品(化粧水/乳液/美容液/洗顔・クレンジング)の市場は年間3600億円超にのぼる。

驚くことに、このうちの「売上個数」で、ロート製薬は2021年、2022年と2年連続で1位を獲得した。さらに「売上金額」も、2021年は3位、2022年は2位だった。

2022年の平均単価は1165円と、金額首位の資生堂の半分以下だったにもかかわらず、だ。

商品企画やマーケティングの責任者を務める塚田歩さん(プロダクト&ブランドマーケティング部部長)は言う。

「ロート製薬が基礎化粧品の市場に本格参入したのは、2001年です。かなり後発ですので、大手化粧品メーカーさんの背中を追いかけながら、チャレンジャーだと思ってやってきました。ここまでこれたのは、我々としても非常に驚きです」

ロートの躍進支えるメラノCCシリーズとは

ロート製薬、メラノCC

写真がメラノCCシリーズ。購買者は女性が8割、男性が2割で、年代は20代の女性が最も多いものの、ニキビや毛穴に悩む10代から、シミやくすみ対策をしたい40代まで大きな偏りなくいるそうだ。

撮影:土屋咲花

ロート製薬のスキンケア商品といえば、ヒアルロン酸配合の「肌ラボ」が有名だが、いま急成長しているのが「メラノCC」だ。

シリーズ全体の売り上げは2023年3月期は前年比66.6%増の115億7900万円、前述の2022年のPOSデータの「美白」カテゴリーでは、なんと売上金額でも資生堂のHAKUをおさえて1位になった。ちなみに美容液の単価はメラノCCが1210円(税込)、HAKUが1万1000円(税込)だ(価格は各社ECサイトより)。

後編で詳述するが、開発にあたり社内で大きな反対もあったという酵素洗顔は、全国発売の直後から売り切れ続出。直近1年間のPOSデータ(2022年7月から2023年7月)「洗顔・クレンジング」カテゴリーでは、売上個数・金額ともに1位だった。

メラノCCはロート製薬が同社の「戦略成分」と位置付けるビタミンCを活用したスキンケアラインだ。

ビタミンCの中でもピュアビタミンCと言われるアスコルビン酸は、しみやそばかす、ニキビなどの予防をうたう化粧品に配合されることが多い成分だが、熱や光に弱いことがネックだった。

ロート製薬は2019年この安定化に成功し、25%という高濃度で商品に配合する技術で特許を取得。ピュアビタミンC配合の「Obagi(オバジ )」シリーズをスタートさせ、今では“レチノールの資生堂”、“セラミドの花王”に並び、「ビタミンCといえばロート製薬」という地位を築き上げている。

売れずにリブランディング、製薬会社のこだわりが裏目に

ロート製薬、メラノCC

メラノCCの歴史。製品にはアスコルビン酸やビタミンC誘導体が配合されている。

出典:ロート製薬HP

しかし、その歩みは順風満帆と言えるものではなかった。メラノCCの前身となる「メラノバスター」を発売したのは2005年だ。しみ対策をうたい、1988年に同社が買収したメンソレータムの“塗り薬”を想起させるパッケージに。最初の1年こそ売れたものの、その後は伸び悩んだ。

中身は現在メラノCCで最も売れている美容液とほぼ同じだったのですが、2年目以降は売れなくて……。

我々は後発でスキンケアに参入したので、大手化粧品会社と差別化するためにも、製薬会社らしい治療薬的な見せ方、メンソレータムブランドの薬効感のあるイメージで売り出すことにこだわっていました。

でもそれがいけなかった。やっぱりスキンケアの世界というのは、薬を使うときの気持ちとは根本的に異なっているんですね。お客様がもっと楽しくなる、ポジティブな気持ちになるような提案が必要だと気づきました」(塚田さん)

それでも低迷、窮地救ったマツキヨの意外な一言は

ロート製薬、メラノCC、

ロート製薬プロダクト&ブランドマーケティング部部長の塚田歩さん。

撮影:土屋咲花

2009年にブランド名を「メラノCC」に変更し、塗り薬からスキンケアへと打ち出し方をガラリと変え、パッケージもお馴染みの鮮やかな黄色に刷新。再スタートを切った。

だが、その後も売り上げは低迷が続いた。メラノCCの人気に火をつけるきっかけとなったのが、大手ドラッグストア「マツモトキヨシ」とコラボして、マツキヨココカラ&カンパニーグループ限定で発売した大容量の顔用シートマスクだった。

近年はSNSで大きな話題となり、店頭・ECともに品薄・欠品が続いた。

実は当初は現在のような袋入りではなく、箱型のボックスタイプで販売しており、全くと言っていいほど売れなかったという。悩んでいると、マツモトキヨシの担当者から言われた。

「『いやいや、箱じゃなくて大袋の方がメラノCCの購買層には絶対に刺さりますよ』と。じゃあそうしますんで、まずはマツキヨさんでテスト販売させてくださいということでやったら、本当にうまくいって。それで全国に拡大したんです」(塚田さん)

ボックスタイプは売れずに販売終了し、大袋入りはその後売り切れが出るほどの人気商品になった。パッケージの形状1つでここまで変わるところに、物作りの面白さと残酷さがある。

マツキヨのデータと目利き力、販売網をフル活用

マツキヨココカラ&カンパニー

ドラッグストア展示会・JAPANドラッグストアショーで盛況だったマツキヨココカラ&カンパニーのブース。8月18日、東京ビッグサイトにて。

撮影:竹下郁子

メラノCCがまだあまり話題になっていない、商品ラインナップも美容液のみの頃からいち早く可能性を見出していたのが、マツモトキヨシだった。

メラノCCはマツモトキヨシの助言を商品開発に活かしマツモトキヨシグループの店頭とロート製薬らのECで先行発売売れ行きをみて全国展開するという流れを取ってきた。最近のヒット商品である酵素洗顔も同様の手法だ。

塚田さんはメラノCCの成功は「流通との協業体制」が大きなポイントだったと振り返る。

「マツキヨさんが持っているさまざまなデータを見せてもらって『ここにまだチャンスがあるよね』一緒に考えながらやってきました。今の時代、メーカーよりも小売の流通さんのほうが、お客様のリアルな動きをよく知っている

それに流通さんの販売網でスモールスケールで始めることで、メーカーもリスクを抑えながら、思い切った商品を出すなどの挑戦ができるんです。

メーカーが会社の中だけで物を作るのは、限界があると感じます」(塚田さん)

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