「反動消費」でエンタメ興行の爆売れ続く。1席10万円超えの高額チケットも

今年の夏も各地でライブが盛り上がっている。

今年の夏も各地でライブが盛り上がっている。

撮影:杉本健太郎

エンタメ興行界が好景気に湧いている。

ぴあ総研が5月に発表した調査結果(速報値)によると、2022年のライブ・エンタテインメント市場規模は5652億円でコロナ禍前の9割まで回復した。

また、チケット販売大手「ぴあ」は2023年3月期決算で旧基準での売上高が2000億円規模となり過去最高を上回った。8月10日に発表した2024年第1四半期決算でも、連結売上高は前年比30%増の98億円と引き続き好調を維持している。

コロナ禍で大打撃を受けたエンタメ興行界がここまで復調した背景には何があるのか。ぴあ総研取締役論説委員で「ぴあ」取締役の小林覚(さとる)氏に聞いた。

小林覚…1989年4月入社。メディア流通事業本部副本部長、社長室長兼広報室長を経て、2017年に取締役就任

今の好景気は「反動消費」

音楽は対2019年増減率6.8%減の3948億円、ステージは同17.2%減の1703億円まで回復している。

音楽は対2019年増減率6.8%減の3948億円、ステージは同17.2%減の1703億円まで回復している。

出典:ぴあ総研

小林氏は2023年3月期に「ぴあ」が過去最高の売上高を達成できた理由について、コロナ禍でライブや観劇に行けなかった「反動消費」によるものだと説明する。

「去年の秋くらいから人々が戻ってきた手応えがあります。2~3年に一度ライブツアーをしていたアーティストたちが、一斉にライブを始めたのです。

また外国人アーティストやスポーツチームも一斉に来日するようになり、夏フェスなどのお祭りイベントもようやくできるようになりました。

コロナ禍で抑圧されていた興行が瞬間最大風速的な戻り方をしています。普通だったら数年に一度、あるいは季節ごとに分かれて行われる興行がどっと集中している印象があります。ただ、この勢いがずっと続くかと言うと楽観視はしていません。ゆり戻しが来るだろうと思っています」(ぴあ・小林氏)

それでも小林氏は「コロナ前を上回る市場規模にはなるだろう」と予測する。

理由は、興行の規模が大きくなっていることと単価の上昇にある。

単価の上昇については「コロナ対策費と人件費、物価の上昇」(小林氏)が背景にあるが、それでも小林氏は「せっかく行けるんだったら、少し高くても興行に行きたいというお客様は増えている」と話す。

好調なエンタメ興行のなかでも伸びが大きいのは音楽だという。

伸び率としては音楽が1番伸びていると思います。公演規模が大きくなっていることもありますし、何よりジャンルが増えました。

J-pop、K-pop、洋楽に加えて2.5次元、ボカロ、アニメ、YouTuber、VTuber、最近で言えばタイの歌手もドームを満席にしています。裾野が広がっています」(小林氏)

規制下でのイベント開催は「やるも地獄、やらぬも地獄」

ライブ市場は活況だ。

ライブ市場は活況だ。

Linka A Odom

2023年1月27日付で新型コロナウイルスに対する国の基本的対処方針が変更され、歓声ありでの収容率100%イベント開催が可能になったが、規制下でのイベント開催は「やるも地獄、やらぬも地獄」だったという。

「お客さんが半分しか入れられないなかでは、絶対赤字になります。でも、やらないとアーティストや選手のメンタルが持たないんです。プロのスポーツ選手がずっと体を動かさなかったら元に戻れないですから」(小林氏)

それは、配信があったとしても賄えるものではなかった。

「物販、飲食販売の収入がゼロではとても賄えるものではありません。お客さんが半分でも会場費は丸々かかるわけで、警備費用も変わりません。やるも地獄、やらぬも地獄だけど、やる地獄を選ぶんだと皆さんおっしゃっていました」(小林氏)

物販の売上はチケットと同額

ぴあ総研の調査によると、物販はおおよそチケット代金と同額並みに売れるという傾向があるという。

「 1万円のチケットなら、一人あたりだいたい1万円ぐらい物販で買っているというデータがあります。その意味で非常に大きな市場なのです。

これが夏フェスになると、関連費用で10倍ぐらい消費しています。交通費、宿泊費、お土産代など、チケットが1万円だったとしても、実際は10万円くらい消費しています」(小林氏)

物価高が話題になる時代でも、物販の売り上げは減っていないと小林氏は話す。

「商品の値上げがニュースになることがありますが、エンタメ興行においては、むしろ皆さん付加価値の高いものにお金を使い始めている傾向はあると思います。

モノからコトへ。感動消費にお金を使うようになっているのではないでしょうか」(小林氏)

付加価値のついた高額チケットが売れている

これまでチケットぴあは全席指定で同じ額のチケットを売ってきたが、近年価格差をつけた高額チケットが売れるようになっている。

例えば、2024年1月に来日公演するアメリカのシンガーソングライター、ブルーノ・マーズのコンサートのチケットは、B指定席が税込み9800円(税込み)なのに対して、グッズ付きのVIP SS席は12万8000円(税込み)と高額なチケットを販売した。

「今まではVIP向けだったものが、VIPラウンジに家族で行こうという人が増えている実感があります。実際にラウンジを見ても大金持ちの社長みたいな人たちばかりではなく、普通の人が来ています。最近は明らかに付加価値が重視されています。

表彰式をピッチで見られたり、アーティストと会話ができたり、バックステージツアーを回れたり。そうなると一気に価格は上がりますがチケットは売れています。こういう目に見えない価値に日本人がお金をかけるようになってきていると思います」(小林氏)

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