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7月27日の行われた朝鮮戦争の休戦協定締結70年の軍事パレードを前に、金正恩朝鮮労働党総書記は7月26日、訪朝中のロシアのショイグ国防相を平壌の兵器展示会場に案内し、北朝鮮の大陸間弾道ミサイルなどを紹介する様子を北朝鮮メディアに公開した。国家元首が最新兵器を他国の軍高官に公開するのは異例だ。
また、韓国政府当局者によると、正恩氏の体制下でロシア政府代表が軍事パレードに参加したことはなく、ロシアとの軍事協力を一層強化する意思を強調する狙いとみられる。
ウクライナ戦争をめぐるロシアの孤立が深まるにつれ、北朝鮮におけるロシアの価値が高まっている。ロシアとの関係は、ソ連時代の活気に満ちたものには及ばないものの、ロシアが国際社会で“友人”を必要としていることから、北朝鮮は明白な恩恵を受けている。
北朝鮮とロシアの関係がどのように始まり、どのように緊密な関係になりつつあるのか、米誌「USニューズ&ワールド・レポート」が解説した。
旧ソ連からの政治的支援
北朝鮮は第2次世界大戦後の冷戦の初期に、(編注:当時の)ソ連の支援を受けて誕生した。その後、1950~1953年の朝鮮戦争で、中国とソ連からの大規模な援助を受け、韓国とその同盟国である米国主導の国連軍と戦った。
その後も何十年にもわたり、ソ連からの経済援助に大きく依存し、1991年にソ連が崩壊すると、北朝鮮に致命的な飢餓をもたらした。
同誌によると、歴代の北朝鮮指導者が中国とソ連を利用しながら、互いのパワーバランスを取ろうとする傾向があるという。正恩氏は当初、核実験をめぐり、米国に協力して北朝鮮に厳しい制裁を課したロシアや中国と比較的冷めた関係を保っていた。だが、北朝鮮が最後に核実験を行った2017年以後、正恩氏は両国との関係修復に向けた措置を講じた。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領。2023年2月9日撮影。
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2019年にロシア極東ウラジオストクでの首脳会談で、初めてロシアのプーチン大統領と会談した正恩氏は、2022年10月にはプーチン氏に誕生日祝いを送り、「米国の挑戦と脅威を打ち破った」ことを祝福。先月のロシア建国記念日には、プーチン氏と“手を取り合い”戦略的協力関係を強化することを誓った。
ロシアは中国と共に北朝鮮への新たな制裁に反対し、米国主導の圧力を阻止し、2006年に北朝鮮への制裁を開始して以来、初めて国連安全保障理事会を分裂させた。
ウクライナ侵攻をめぐる立ち位置
ウクライナのドネツク州で、ロシアがウクライナを攻撃する中、前線を訪問し、ウクライナの軍人と記念撮影をするゼレンスキー大統領(8月14日撮影)。
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ウクライナ侵攻を受け、北朝鮮はプーチン政権支持の意向を明確にした。国際社会の中で、ロシアがウクライナから分離した地域の独立を認めたごく少数の国の一つにもなった。
米国は、北朝鮮が戦争遂行のためにロシアに武器を提供し、その中には「相当数」の砲弾や、ロシアの民間軍事会社ワグネルへの歩兵用ロケット弾やミサイルの輸送も含まれていると非難している。
ロシアと北朝鮮の両国はこうした主張を否定しているが、北朝鮮メディアは7月末、正恩氏とショイグ氏が安全保障などで「見解が一致した」などと報じた。
露ウラジオストクにある極東連邦大学のアルチョム・ルーキン教授は「ウクライナにおけるロシアの“特別軍事作戦”は新たな地政学的現実を生み、クレムリンが(北朝鮮と)ますます接近することで、冷戦時代に存在していた準同盟的関係を復活させるかもしれない」と米情報分析サイト「38ノース」に寄稿。ロシアとの関係について北朝鮮が、「戦術的・戦略的協力」という新たな表現を使い始めていることは、注目に値すると付け加えた。
経済的つながり
新型コロナウイルスによるパンデミックで運行が停止されていたロシア・北朝鮮間の鉄道が、昨年ようやく再開された。ロシアから北朝鮮への石油輸出も再開したことが判明した。
専門家らによると、北朝鮮の貿易の大部分は中国を経由しているが、特に石油の供給において、ロシアも潜在的に重要なパートナーとなる可能性があると指摘。ロシア政府は国連制裁決議違反を否定しているが、ロシアのタンカーが北朝鮮への石油輸出の上限を超えている疑いが持たれている。
また制裁監視当局は、禁止されているにもかかわらず、北朝鮮の労働者がロシアに留まっていると報告している。国連安保理決議に反し、2万~5万人の北朝鮮労働者を雇用するため、ロシア政府は〝政治的配慮〟を公然と議論しているという。
加えて、侵攻により占拠したウクライナの領土について、ロシア当局は、戦争で荒廃した地域の復興に北朝鮮労働者を派遣する計画も検討しているとされる。
The News Lens Japanより転載(2023年7月28日公開の記事)