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社会に出たばかりの人にとって、新しい仕事に就くのはいつも足がすくむもの。投資銀行を志望する学生にとってはなおさらだろう。
そこでは、素晴らしい推薦状より重要なことがある。投資銀行のインターンシップは往々にして、フルタイム雇用に向けたテスト期間と位置づけられる。優秀な学生には、卒業後に投資銀行アナリストとして10万ドル(約1450万円、1ドル=145円換算)超の給与で働くよう声がかかる。サマーインターンシップの競争率が非常に高いゆえんだ。
そこで本稿では、未来のゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)のインターンやインターン志願者に、このインターンシップがどのようなものかを明らかにするべく体験談を紹介しよう。
今回Insiderの取材に応じてくれたインディア・スティーブンソン(India Stephenson)は、所属チームの仕事内容からウェスト・ストリート200番地のゴールドマン本社近くにあるお気に入りのランチスポットまで、ゴールドマン・サックスのサマーアナリストとしての生活を語ってくれた。
ゴールドマン・サックスのサマーインターンを経験したプリンストン大学のインディア・スティーブンソン(左)と、ゴールドマン・サックスのパートナーであるデイブ・フリードランド。
Goldman Sachs
さらに、ゴールドマンのパートナー、デイブ・フリードランド(Dave Friedland)にも話を聞いた。自身も1997年にインターンを経験したフリードランドは、ゴールドマンに約25年在籍している。
フリードランドは現在、投資銀行業務執行委員会のメンバーであり、コロンビア大学とミシガン大学での採用活動に積極的に関わっている。主に中堅企業や金融スポンサーのクライアントを担当するフリードランドの部署では、どのインターンをフルタイムで採用するかの決定にも関わっている。
フリードランドは、ゴールドマンのサマーインターンの様子、かつて自分がインターンだった頃との違い、そしてフルタイムのオファーを手にしてインターンを終えるためのアドバイスについて語ってくれた。
ゴールドマンのインターンシップの内部
ニューヨークのウェスト・ストリート200番地にあるゴールドマン・サックス本社。
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ゴールドマンのサマープログラムは特に競争率が高く、同プログラムに詳しい人物によると、会社全体のインターンシップの合格率は、投資銀行部門を含めて約1.5%だという。ちなみに、ハーバード大学の合格率は3.4%だ。
ゴールドマンのサマーアナリストは通常、1週間の研修の後、現場で8週間働く。同社提供の統計によると、2023年夏は2970人のインターンを受け入れ、うち約500人が投資銀行部門に配属された。同社によると、2023年度卒業のインターン生は500超の大学、83の言語、99の国籍から参加しており、世界中の50超のゴールドマンのオフィスに配属されたという。
ほとんどのサマーアナリストは大学4年生になる直前に参加し、夏の終わりに、卒業後はフルタイムのアナリストとしてのオファーを受けることを狙う。インターンシップへの応募は1年以上前から始まり、2年生を終える頃にはほとんどの面接が終わっている。
しかし、大学1年生で初めてゴールドマンのインターンシップに応募したスティーブンソンを含め、新3年生もインターンシップに参加することもある。
2022年の夏、スティーブンソンはゴールドマンの法人顧客の為替、金利などへのエクスポージャーを扱うデリバティブチームでインターンとして働いた。
「今と同じくとても慌ただしい日々で、すごく気に入っていました。特に政治学を専攻していた私にとって、マーケットのそばにいて学べたこと、金融サービスの世界に初めて触れたことは、本当に楽しい経験でした」
この夏、彼女は再びゴールドマンに招かれ、今回は大手食品、飲料、ファッション企業にアドバイスする消費者小売グループに配属された。
「1人の消費者として知っている、あるいは関わったことのある企業がたくさんあって、とても興味深いです。こういった企業は、答えや解決を必要とする、複雑な問題や疑問を抱えているんです」
インターンの1日
スティーブンソンはニューヨークのオフィスでインターンを経験した。
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ゴールドマン本社はマンハッタンにあるが、オフィスは世界中にある。インターンの行き先は、配属されるチームによって決まることが多い。例えば、投資銀行のテクノロジー・メディア・通信(TMT)グループのインターンならば、サンフランシスコあたりだろう。スティーブンソンの場合は、どちらの夏もニューヨークだった。
午前9時半ごろまでには出社し、2人のアソシエイトと並んで仕事にとりかかる。1日の最初の仕事は、上司であるフルタイムのアナリストたちとの確認作業だったという。
「各チームのアナリストと連絡を取り合い、それぞれ異なるステージにあるさまざまなプロジェクトの進捗状況や、やるべきことを確認します。そのあとは、自分が取り組んでいるプロジェクトに従って仕事をこなしていきます。仕事内容は本当にいろいろで、楽しいです」
スティーブンソンらインターンたちの間では、近くのコンラッドホテルにある「ピック・ア・ベーグル(Pick A Bagel)」のおいしい朝食が人気だった。ランチには、オフィス近くのショッピングセンター、ブルックフィールド・プレイスのフードコートをよく利用した。中東料理のファーストカジュアルレストラン「ナヤ(Naya)」がお気に入りで、「ほぼ毎日」訪れていたそうだ。
「ちょうど通りの向かい側のとても便利な場所にあるんです。少しのあいだ外に座って、日光浴をするんです」
ゴールドマン・サックスを含め、投資銀行は長時間労働で悪名高い。だが、スティーブンソンの場合は日によってまちまちだったと言う。
「グループ主催のイベントのために18時に出かけることもあれば、夕食後の20時や、もっと遅くに退社することもあります。いつもバラバラで、決まった時間はありません」
オフィス外で交流する時間もたくさんあり、同級生の結束が強まったと彼女は言う。
「この夏、みんな仲良くなったので、一緒にごはんを食べたり、仕事以外に少しの時間一緒に過ごしたりできるときは、いつもそうしています。みんなで同じ街にいて、あちこち見て回るのは本当に楽しいです。仕事を離れて一緒にいる時間があるので、お互いをよく知ることができますし」
インターンも「本当の仕事」をする
インターンシップというと企業によっては架空の仕事をやらせるところもあるが、ゴールドマン・サックスは違う。
フリードランドによれば、「膨大な単純作業」や「シャドーイング」は存在せず、シニアバンカーたちはインターンたちに本当の仕事を任せている。
「夏休みにここに来るインターンは、実際のプロジェクトで実際のクライアントと仕事をします。チームでの彼らの役割は本物です。忙しくさせるためにわざと仕事を作るようなことはしないし、影のように隣に座らせて観察させるようなこともしません」(フリードランド)
そのような方針にしている理由の一つは、夏に埋めなければならない穴があるから、とフリードランドは言う。
「1つには、こうすることでインターンは我が社で働くとはどういうことかが分かるし、彼ら彼女らがどのくらいやれるかをわれわれも見極められるからです。
でも2つ目の理由は、私たちがインターンを必要としているから。ここの組織は夏が近づくと、フルタイムの人たちが次の仕事に向けて移ってしまうので、実際に誰かに仕事をこなしてもらわなければならないのです。これまでもずっとそうでした」
スティーブンソンも同意見で、本物のインパクトを持つ仕事をするのは、やりがいがあり、かつ強烈なものだと言う。
「インターンの立場で、深く関わることができます。ただ忙しいだけとか、重要でないことのために走り回るんじゃなくて、チームの一員として、本物の付加価値をもたらす存在とみなされるんです。特にここでの仕事は、非常に重要な企業に実際の影響を与えます。強烈で、非常にやりがいがあり、本当に興味深い仕事です」(スティーブンソン)
具体的には、どんな仕事なのだろうか。一般的にゴールドマン・サックスのインターンは、所属するグループによってクライアントの業界は異なるものの、似たタイプのタスクをこなすことが多い。
よくある仕事としては、クライアントとのミーティング用プレゼン資料の整合性をとったり見た目を整えたりするなどの編集作業、クライアントとの電話のメモ取り、金融モデルの編集などがある。スティーブンソンはこの夏、「さまざまな段階の案件を大量に」見たという。
「PowerPointとExcelはよく使います。付加価値をつけて、他のことをやっているかもしれないアナリストの助けになれるよう、大量にメモを取ります」(スティーブンソン)
フリードランドはさらに次のように付け加える。
「インターンたちはたくさんの金融分析をこなします。プレゼン資料やクライアント向けのプレゼン、会社売却の際の目論見書、IPO書類作成も手伝います。インターンたちはその多くを作成したりそのサポートにあたったりしています」
インターンは実際の仕事をするので、マルチタスクを学ぶことが不可欠だとフリードランドは言う。これはフルタイムのオファーを受けられる確率を左右するほど重要なことだ。
「機敏かつ柔軟に動けないといけません。4〜5人と同時並行して4〜5個の仕事をこなすわけですから、けっこうキツいです。これぞ本物のスキルですね」(フリードランド)
困ったときに頼れる「バディ制」
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ここでのインターンシップは2度目というスティーブンソンでも、学ぶべきことは多々あった。ただし、ファイナンス専攻ではないがゆえに経験が不足していても、そのせいで成功が阻害されることはなかった。
「徒弟制度的なカルチャーがあって、みんな教えたがりなんですよ。やってくるインターンが何でも知っているだろうとも思っていませんし。
成功したければ、とにもかくにもものすごく意欲的に取り組むこと。やればやった分だけ得られるので。熱意を注ぎ込み、ハードワークを惜しまず、好奇心旺盛でよく考える人であることを示せば、得るところ大の素晴らしい体験ができます」(スティーブンソン)
スティーブンソンは、今後インターンをする学生たちには、自身もお世話になった「バディ」制度に頼るよう勧めている。
ゴールドマンでは各インターンに「バディ」が1人ずつ割り当てられる。通常は1年目か2年目のアナリストで、日常的な疑問や難問を解決してくれる存在だ。スティーブンソンは、仕事を始めるにあたって不安になり、バディに遠慮なく相談した。
「彼女とは、始まる前の週に正直な気持ちで彼女と話しました。本当に不安で、モデルの作り方も分からないと相談すると、心配しなくていい、必要なことは全部教えてあげるからと言ってくれました」
スティーブンソンは、バディ制度以外のメンターを探すことも重要だと付け加える。例えば彼女は、同じプリンストン大学の卒業生で、2022年夏のデリバティブチームで上司だった人物とその後も連絡をとっていた。
「自分の味方で、自分の利益を一番に考えてくれていると思える人がいるなんて、本当にラッキーなことだと思います。ここでは、すごく強力なメンターを得るというのはよくあることですが、私には2人もいてくれて超ラッキーです」(スティーブンソン)
仕事は以前より難しい
フリードランドは、コロンビア大学のMBAコース在学中だった1990年代後半にゴールドマンでインターンシップに参加した。当時のインターンシップは12週間だった。
インターネットとSNSの台頭により、当時と比べるとクライアントにサービスを提供する際のハードルが高くなったと彼は言う。
「私がインターンを始めたころは、ただ情報を集め、それらをまとめてクライアントに提示することが付加価値だった。それが今では、クライアントは必要な情報、基本的な情報はすべて、どこでも入手できます。単なる情報提供にはもはや価値はないので、付加価値をつけるのが難しくなりました」
プラス面としては、わずか5年前と比べても、仕事ははるかにフレキシブルになったと彼は言う。
「在宅勤務のテクノロジーなんてありませんでしたから。在宅勤務といっても、5日間連続で出社しないという意味じゃありませんよ。日曜日に起きて、何か楽しいことをする前に2時間ほど仕事をこなす、というようなことです。
私がインターンだった頃は、PCの前に座るためには地下鉄に乗ってオフィスまで行かなければいけませんでした。家ではできませんでしたからね。ちょっと仕事をこなしたいというとき、どこででもできる柔軟性は以前よりはるかに高まったと思います」
誰にも監視されていない
インターンたちには、夜遅くまでデスクにかじりついていても何の役にも立たないことを知ってほしい、とフリードランドは思っている。
確かに、翌日のクライアントミーティングのプレゼンを仕上げようとチーム全員が奮闘しているなら、仕事が終わるまで残っているべきだろう。しかし、採用決定権を持つシニアバンカーたちは、インターンの行動すべてをチェックするほど暇ではない。ただのアピールで遅くまで残っていても、あまりいいことはない。
「誰も監視したりしていませんから。シニアたちは常にクライアントのところを飛び回っているので、ここに座ってインターンたちがどれほど長く働いているかなんて誰もチェックしていません。私たちが見ているのは、インターンが仕事をやり終えたかどうかだけです」(フリードランド)
「オフィス滞在時間」を重視するカルチャーが生まれる背景には、アナリストに提供されるフルタイム契約枠には限りがある(特に不況の年には)という前提があるからだが、少なくともゴールドマンではそうではないとフリードランドは言う。
「正直なところ、全員を雇うくらいの余裕はあります。入ってきて、『オーケー、全部で24人いるな。枠は15人分なんだよ』と言って厳密に線を引くようなことはしません。みんなそんなの嘘だと思うようですが、本当です」
もちろん、だからといって全員にオファーが来るわけではない。しかしそう知っておくことで、ここでの体験を楽しむインターンが増えてほしい、とフリードランドは言う。
「『カルチャーはトップダウン』という話をよく聞きますが、逆もまたしかりです。本当に高揚した、熱心なジュニアたちのグループがいると、グループの活力が変化して、全員がもっとハッピーになるんです。
だから私は、たとえ自分がパートナーでベテランであっても、外の人に思われている以上にサマーインターンには時間を費やしています」(フリードランド)