人工知能(AI)が生成した文章の編集が、ガブリエル・ガーバスさんの新たな収入源となっている。
Courtesy of Gabrielle Gerbus
ガブリエル・ガーバスさんはロサンゼルス出身、28歳のフリーランス編集者だ。以下の語り下ろし記事は彼女への取材に基づいてInsider編集部が再構成した。
自分で自分のスケジュールを決められるフリーランスとして働くのが、私の夢でした。ただ、会社勤めから一歩踏み出すには不安がありました。
それに、私はフリーランスについていろいろと誤解をしていました。例えば、20年くらいは経験を積まないと、独立するのは無理だとか。
独立する前、私は小さなB2B(法人向け)テック企業で、コンテンツブランドマネージャーやコピーライターとして働いていました。その会社では、短期間で多くのことを学びました。
会社に勤めながら「Fiverr」に登録
2019年4月、私は会社に勤めながら、フリーランス向けの仕事マッチングサイト(クラウドソーシングサービス)「Fiverr(ファイバー)」に登録し、ブランドメッセージの作成、コピーライティング、PR原稿の編集という自分の経験を生かせる仕事を始めました。
報酬は、ブランドメッセージと宣伝コピーの作成が1本15ドル、PR原稿の編集も(英)単語数3000ワードまでなら15ドルに設定しました。
会社に勤めながらですから、フリーランスとしての仕事は勤務時間の前と後、昼休みを使って行っていました。
フリーランスとしての収入が会社からもらっている給料と同じ額になったら会社を辞めるつもりで始めたのですが、2カ月も経たずにその目標額に達しました。
それで、2019年5月には会社を辞め、その後はボーイフレンドと世界中を旅しながら、リモートでフリーランスの仕事をこなすようになりました。
クライアントの要望に応えるためにチームを結成
フリーランスの仕事を続けていると、クライアントからウェブサイトやロゴのデザイン、ブランディング、コンテンツ作成といった依頼が来るようになりました。
私はウェブサイトデザインの経験がありませんでしたが、私の仕事を気に入ってくれたクライアントとは長くつき合いたいですし、クライアントが望んでいることにはできるだけ対応したいと思いました。
そこで、自分に経験のない仕事については、人の手を借りることにしました。
2019年秋には、グラフィックデザイナーをしているいとこを含めて、知り合いのフリーランスに仕事を依頼するようになりました。2020年初めには知り合いだったウェブ開発者、その年の10月にはリモートで管理業務を手伝ってくれるフリーランスにも手伝ってもらうようになりました。
そうやってチームで仕事を請け負う体制ができたことで、仕事の分野が広がり、より大きなプロジェクトを引き受けることもできるようになりました。
ロゴやウェブサイトのデザイン、Eコマースストアの立ち上げ、SEO(検索エンジン最適化)対策、キーワードリサーチといった仕事です。
2020年末にはチームで仕事を請け負うことをクライアントに明示することにしました。チームメンバーは4〜5人です。メンバーには、管理業務で1時間20ドル、ウェブ開発で1時間70ドルを支払っています。メンバーはだいたい1週間に10〜20時間、仕事を手伝ってくれます。
ベストセラー作家の個人ブランディングも
そのうち、小説や回顧録などの書籍を編集する仕事も始めました。
クライアントの一人にベストセラー作家がいます。過去2年半の間に、彼女の著書5冊の編集を手伝いました。
編集だけでなく、彼女の個人ブランディングやソーシャルメディア戦略、本の装丁やレイアウトデザイン、アマゾンでの電子書籍の出版関連手続きも手伝っています。
ChatGPTの登場で新たな仕事が舞い込んだ
2022年11月に対話型AIのChatGPT(チャットジーピーティー)が登場すると、私の仕事にもすぐに変化が起きました。「AIが生成した文章を編集してくれないか」という依頼が舞い込んだのです。
もちろん、それまでAIが書いた文章を編集したことはありませんでしたが、経験がないと言って断るか、新しいことにチャレンジするか、選択肢はそのどちらかでした。
私は後者を選びました。
人手が足りなくて生成AIを使いたいけれども、AIが生成したコンテンツは検索エンジンではじき飛ばされるのではないか、あるいはウェブサイトやブログの文章が人工的で不自然だと思われるのではないか。そんな懸念を抱く中小企業経営者や個人事業主が、文章編集を頼める先を必要としており、そこに新たなマーケットが生まれようとしていることに気づいたからです。
生成AIの文章はいかにもロボットが書いたみたいで、それを「人間が書いたように編集してほしい」という依頼が、最初の頃はほとんどでした。
そして、実際にやってみると、人間が書いた文章を直すより手間がかかることが分かりました。
AIを使ってソートリーダーシップ(ある分野について革新的なアイデアや主張をまとめ、社会的評価を高めたり、議論を巻き起こしたりする活動)的な電子書籍を執筆した人から編集を頼まれた時には、結局、文章のほぼ全体を書き直すことになり、全く割に合いませんでした。
最近では「Originality.ai(オリジナリティエーアイ)」のようなチェックツールが開発され、AIによる盗作(文章の無断引用・転載などの著作権侵害)がないかを検出できるようになっています。
AIが書いたのか、人間が書いたのかを判定するツールも登場しています。こうしたツールを活用して、AIが書いた文章を書き直してほしいという依頼もあります。
そうした場合は、書き直す前と後で判定ツールの評価がどう変わったかをクライアントに伝えています。例えば、あるツールで100%AIが書いた文章だと判定されたブログは、私が編集を済ませた後で10〜15%という判定に変わりました。
AI文章の編集は「高め」の料金設定に
AIが書いた文章の編集には手間がかかるので、単語数3500までは100ドル、単語数1万だと300ドルを請求しています。人間が書いた文書に比べて、ほぼ2倍の料金設定です。
人間が書いた文章は、言葉の選び方がいま一つでも、文章の流れに不自然さがないことが多い。一方、AIの文章はよく整理されていても、文章構成が初歩的だったり、紋切り型だったりすることがほとんどです。
典型的なのは、「まず」「次に」「3つ目に」という構成です。プロンプト(AIへの指示命令)で、あるキーワードを使うように指示すると、生成された文章にはキーワードがそのまま繰り返し出てくるので、AIが書いたことがすぐに分かります。
AIが書くと、文章・段落の長さや分量が均一になりがちです。ちょっと個性的な文章になるようにプロンプトで指示すると、今度は大げさな言い回しになってしまうことがよくあります。
私自身がコピーや原稿の執筆を依頼された時は決してAIを使わず、自分で書いています。でも、例えばブログのトピックをクライアントと相談しながら決める時は、AIを使ってアイデア出しをすることもあります。
それに関しては特に料金設定はしておらず、必要に応じてその都度決めようと思っています。
1日4〜6時間労働で、年収は約1000万円
私は「Incubix Branding(インキュービクス・ブランディング)」というウェブサイトを自分で立ち上げて、コンテンツやコピーの作成を直接受注できるようにしましたが、いまでも主な収入はfiverrを通じた仕事から得ています。
fiverr経由の収入は、2019年4月以降の累計で24万4000ドル、昨年1年間では6万9600ドルでした。今年は8月までの時点で3万3200ドルとなっています(Insider編集部は彼女の収入を公的な書類で確認した)。
私は現在、1日だいたい4〜6時間働いています(チームメンバーが働いている時間を除く)。火曜日は働かないこともあり、仕事をしたくないと思った日は休んでいます。夏の間、家族と一緒に過ごした時期は1日2時間しか働きませんでした。
この自由さが、自分の仕事で一番気に入っている部分です。
フリーランスになったことで、私の人生は変わりました。
旅をしながら仕事をしたいのであれば、ナショナルジオグラフィック誌のカメラマンになるか、旅行番組の撮影をするしかないと思っていましたが、私はいま1年のうち3〜5カ月を物価の安いタイで過ごしています。タイには家も建てました。