素粒子ミューオンの奇妙な歳差運動の原因は「第五の力」か、「未知の次元」か

フェルミ研究所で2018年に始まった「ミューオンg-2」実験では、写真のリング状装置(「g-2蓄積リング磁石」)のなかで、光速に近いスピードでミューオンを周回させる。

フェルミ研究所で2018年に始まった「ミューオンg-2」実験では、写真のリング状の装置「g-2蓄積リング磁石」の中で、光速に近いスピードでミューオンを周回させる。

Fermilab

  • ミューオン(ミュー粒子)と呼ばれる素粒子の歳差運動(首振り運動)は、物理学の標準理論では説明がつかない。
  • その奇妙な挙動は、自然界に存在する第五の力、あるいは未知の次元の証拠かもしれない。
  • 科学者は2001年、2021年、そして2023年にこの現象を観察した。ただの偶然ではない可能性が高い。

ある素粒子が予想外の挙動をとるさらなる証拠を、アメリカのフェルミ国立加速器研究所の物理学者チームが発見した。そうした予想外の挙動は、自然界に未知の第五の力が存在することを示している可能性がある。

現在、自然界には四つの力が存在することが知られている。重力、電磁気力、強い力、弱い力だ。この四つの力は、宇宙の仕組みを説明する手がかりになっている。

だが、宇宙にはまだ、我々の知らない不思議が存在している。自然界の第五の力の発見は、その謎を解くのに役立つかもしれない。

「太った電子」ミューオンと、奇妙な歳差運動

フェルミ研究所で「ミューオンg-2実験」を行っていた物理学者たちは2021年、ミューオン(ミュー粒子)と呼ばれるタイプの素粒子が、予想とは異なる歳差運動(首振り運動)をすることを観測した。

20年前の2001年にも、ブルックヘブン国立研究所の科学者チームが同じ現象を目にしていたが、この奇妙な挙動は説明がつかないまま、20年にわたって物理学者を悩ませていた。

ミューオンは、電子(原子核のまわりを回る小さな粒子)と似ているが、電子の200倍の重さがある。そこから、「太った電子」のニックネームがついた。

Insiderのアイリン・ウッドワード(Aylin Woodward)が伝えたところによれば、この太った電子はX線のように物体を通過でき、科学者がエジプトの大ピラミッドの隠れた部屋を発見したり、火山内部を覗きこんだりするのに貢献している。

そして今度は、物理学者が自然界の未知の力を解き明かすのに貢献するかもしれない。

原子は、陽子と中性子からなる原子核と、そのまわりを回る電子の雲でできている。

原子は、陽子と中性子からなる原子核と、そのまわりを回る電子の雲でできている。

ullstein bild Dtl. / Contributor / Getty Images

フェルミ研究所は、2023年8月10日付けの声明の中でこう述べている。

「ミューオンの内部には、電子と同じように、いわば小さな磁石のようなものがある。磁場が存在すると、回転するコマの軸のような歳差運動(首振り運動)をする」

物理学者がこのミューオンを研究する際には、超伝導磁石リングのなかでミューオンを周回させる。そして、ミューオンが光速に近いスピードで、リングを幾度なく周回するあいだに、その挙動を測定する。

その結果、ミューオンの歳差運動は、素粒子物理学の標準理論で予測されるよりもはるかに速いことが観察された。素粒子物理学の標準理論(Standard Model、「標準模型」とも)とは、物理学者が素粒子の世界を説明し、理解するために過去50年にわたって用いてきた枠組みだ。

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