2008年に「ザ・カップケーキ・コレクション」を創業したミニョン・フランソワ氏。
Mignon Francois/Kept Frozen
- ミニョン・フランソワ氏は2007年、5ドル(約720円)のあり金をはたき、注文されたカップケーキの材料を買った。
- 現在、彼女の経営する会社は、カップケーキの販売を全米規模に広げ、年商約100万ドル(約1億4500万円)をあげている。
- 彼女の起業の裏側には、お金を用途別に分けたり細かい出費にまで予算を組むなど、賢い節約術があった。
ミニョン・フランソワ氏は2005年、一家でテネシー州ナッシュヴィルに引っ越した。当時の夫に舞い込んだ新しい仕事の話をあてにして転居を決めたのだったが、結局彼はその仕事を得られず、代わりに現場監督の仕事に就いたもののその給料は家族を養うのに十分ではなかった。
彼らは毎日の食費や交通費すら切り詰めなければならなくなり、電気さえ使えない時もあった。子どもたちが家にいる時間帯に十分電気が使えるようにと、彼女が1人で家にいる時は電気をつけず暗い部屋で過ごしていた。
「3歳の子から高卒の子まで、子どもたち全員がお風呂に入れるように、よく近所のスーパーまで歩いて水を買いに行った」と彼女は当時を振り返る。
隣人たちは彼女の家族がどれほど困窮していたかは知らなかったが、彼女の作るカップケーキは評判だった。2007年のある日の午後、フランソワ氏が暗い部屋にいたところ、ある隣人から600個のカップケーキを1つ1ドルで焼いてくれないかと頼まれた。その時カップケーキ600個分の材料を買うお金がなかったため、フランソワ氏はひとまず60個分の注文を承諾した。
「発注を受けて玄関を閉めた瞬間、私はひらめきを得た。『神様、今ですか? 5ドル(約720円)しかなくて、子どもたちも十分に食べさせてあげられない時に、こんな機会を与えてくれるのですか』とつぶやいたのを覚えている」
決心した彼女はスーパーに行き、なけなしのお金で必要な材料を購入した。その夜、最初の発注分の支払いを受け取り、5ドルだった所持金が60ドル(約8700円)になった。彼女はその売り上げから夕飯代として5ドルをよけて、さらにカップケーキを焼き続けた。そして2008年の終わりに、7人の子持ちのフランソワ氏は、正式に自分の会社を立ち上げたのだ。
現在、彼女の会社「ザ・カップケーキ・コレクション (The Cupcake Collection)」は、カップケーキやバースデーケーキ、ウェディングケーキなどを製造し、いまでは毎年100万ドル近く売り上げ、業績を伸ばしている。しかし、フランソワ氏のこれまでの道のりは楽なものではなかった。彼女は何年もの間、賢い節約術を習慣化し厳密に予算を組んで、キッチンで始めたカップケーキ作りから全国規模のカップケーキ王国を築くまで、時間をかけて事業を成長させたのだ。
用途別に予算を袋分け
フランソワ家は固定給ではなかったため、毎月いくらお金が入るのか分からず、口座維持費や当座借越手数料を考えると銀行口座を開くこともできなかった。彼女は黒人女性として、銀行員が公平に対応してくれるとも思えなかったと話す。
「私たちのコミュニティでは、多くの人が銀行で拒否されることに慣れてしまっていた。もしあの頃、私が口座を持っていて、1ドル(約145円)でも残高が不足したりしたら、30ドル(約4360円)の借越手数料を請求され、そのまま悪循環を繰り返して負債が増えてしまっていたと思う」
そこで彼女は自分なりのやり方でお金の管理をし始めた。必要な出費のためのお金を用途ごとに封筒に入れて予算管理する方法だ。彼女が実践したのは、ラジオで経済的なアドバイスをしているデイヴ・ラムジー氏が推奨する、まず家賃・光熱費・交通費・食費の4つの出費を最優先し、それからその他の出費を捻出するという考え方だ。
フランソワ氏はカップケーキの売り上げのうち、20%を税金の支払いのために確保し、収入と税金用の封筒に振り分けている。材料費の余剰分は必ず材料費のための予算封筒に戻し、次回の材料調達に使っている。
すべての出費に対し意図的に予算計画
クレジットカードを持っていなかったフランソワ氏は、買い物はすべて現金で支払うしかなかった。そのため彼女はあらゆる買い物に関して意図的に事前に支払い計画を立てる必要があったので、必要なものを購入できなくなる状況に陥ることはなかった。スプーンやボウル、ミキサーなど仕事に使う小さな道具でも、その予算のための封筒を作っていた。
フランソワ氏はラムジー氏が推奨する「7つのベイビーステップ」戦略を実践し、生活防衛資金として1000ドル(約14万5000円)貯金することを目標にした。目標額に達したら、今度は3カ月分の生活費を貯めることを目標にし、それを達成したら次は6カ月分の生活費を貯めることを目指した。
「封筒の中を見たらたくさんお金が入っていた。あの袋分けシステムのおかげで、私の人生は変わった」
子どもたちとゲーム感覚で節約生活を習慣化
フランソワ氏は子どもたちと一緒に、出費を予算内に収めることを習慣にした。例えば、1週間の夕飯代を予算以内に収めて節約できたら、楽しいことをするための予算にその分を少し上乗せをするのだ。
魚など、まとめ買いできた時は1週間そればかり食べて「うちはペスカタリアンだ」などと冗談を言ったり、野菜ばかりの週は「今週はベジタリアンだ」などと笑い合う。付け合わせやスナックについては、家にあるもので工夫して何か作るようにしていたという。
子どもたちはシャワーを浴びる時、無駄のないよう時間を測り、フランソワ氏は部屋の電気を消したかどうか、冗談まじりに彼らに確認していたそうだ。
「誰もいない部屋にどうして電気が付けっぱなしなの? 暗くても部屋は怖がらないよ、というのが我が家の決まり文句だった」
小銭はピクルスの瓶に貯めていた。支払いの合計が1ドル1セントだったら、99セントは瓶に入れ、瓶がいっぱいになったら、外食やお出かけができることになっていた。
こうしてフランソワ家では節約して予算内に出費を抑えることがゲームのようになった。節約したらその分だけ楽しいことにお金を使えたからだ。
「雪だるま式債務法」で借金を返済
フランソワ氏は学生ローンと医療費の支払いで負債が貯まっていたが、事業の収入が入るようになってからは、主な生活費の支払いの後に残ったお金は借金の返済にあてた。
彼女が返済に向けて実践したのは「雪だるま式債務法」だ。複数ある負債に対し、それぞれ最小限の返済をしながら、まず最も負債額の少ないものを最優先に完済するやり方だ。追加収入があった時は返済額を増やした。
医療費の支払いに関しては、免除をお願いする依頼書を書いた。和解案を出されれば同意した。中には和解で支払額が最大80%減ったものもあった。
彼女はもう誰からも借金をしたくなかったので、従業員には週単位で給料を支払っている。これによって、安定して予算と経費を管理することができているという。
現在、フランソワ氏は「パスウェイズ・ウーマンズ・ビジネス・センター(Pathways Women's Business Center)」と「ナッシュビル・アントレプレナー・センター(Nashville Entrepreneur Center)」の委員として、起業を目指している人の相談に乗り、彼らの夢の実現を支援している。
また、彼女は起業を支援する草の根団体「コーナー・トゥ・コーナー(Corner to Corner)」の活動にも協力しており、会社としてもテネシー州立大学の奨学金に出資し、教育や食糧支援を中心に活動している地元のさまざまなコミュニティ団体にも協力している。