第二次世界大戦で使用されたイギリスの掩蔽壕、高級な貸別荘として生まれ変わる

外観

Will Scott/ Corstorphine & Wright

  • イギリスのドーセットでは、酪農業を営む一家が敷地内に今は使われていない複数の掩蔽壕があるのを見つけた。
  • 掩蔽壕「トランスミッター・バンカー(Transmitter Bunker)」は第二次世界大戦中、ドイツの空襲から自国を守るために使われていたイギリス空軍のレーダー基地の一部だった。
  • 土地の所有者は建築事務所を雇って、掩蔽壕を高級な貸別荘へと生まれ変わらせた。

掩蔽壕が見つかったのは、イギリスのドーセットの海岸沿いの酪農場だ

周辺の様子

Will Scott/Corstorphine & Wright

国の重要な景観として保護されている魅惑的なドーセット自然美観地域の中にあるこの一連の掩蔽壕からは、リングステッド湾の向こうに広がる息を呑むような海の景色が楽しめる。

酪農業を営んでいるこの土地の所有者が敷地内に隠れていた地下構造物を発見し、2022年に建築事務所に依頼してその1つを機能的な貸別荘に生まれ変わらせた。

建築事務所は掩蔽壕の歴史をデザインに生かそうとした —— 「爆風窓」もその1つだ

窓

Will Scott/Corstorphine & Wright

建築事務所Corstorphine & Wrightによると、所有者の要望は「人が住める、商業利用可能なスペース」であると同時に「この建造物の大きな歴史的意義を称える」ことだった。

建築事務所は専門のコンサルタントと協力して提案を練り上げていったものの、計画段階で掩蔽壕が歴史的建造物の「グレードII」に指定されたことで、建造物の変更に同意が必要となったため、提案のとりまとめはより困難になった。

Corstorphine & Wrightのディレクター、ジョニー・プラント(Jonny Plant)氏は、掩蔽壕の歴史をさりげなく示すものとして「爆風窓 」を作ったと話している。

「掩蔽壕の歴史を生かしたかった」からだという。

トランスミッター・バンカーは、もともと第二次世界大戦中に使用されたイギリスのレーダー早期警戒網「チェーン・ホーム(Chain Home)」の一部だった

当時の様子

Heinrich Hoffmann/ullstein bild via Getty Images

トランスミッター・バンカーはかつて、イギリス空軍のリングステッド・レーダー基地の重要な一部として機能していた。

リングステッド・レーダー基地は第二次世界大戦中、イギリスのレーダー早期警戒網「チェーン・ホーム」において重要な役割を果たした。

チェーン・ホームの主な目的は、侵入してくる敵機の位置を探知して信号を送ることであり、ドイツの空襲に対するイギリスの防衛に大きく貢献した。

海岸沿いに戦略的に配置されたアレイアンテナと並んで、掩蔽壕はこの土地にあるいくつかの建造物の1つに過ぎなかった。

何十年も放置されてきた掩蔽壕の1つが2022年、生まれ変わった

掩蔽壕

Will Scott/Corstorphine & Wright

Purbeck Gazetteによると、リングステッド・レーダー基地は1956年に閉鎖された。

その後、掩蔽壕は何十年も手つかずのまま放置され、育ち過ぎた草やつるに覆われていたとこの貸別荘を管理しているSykes Holiday Cottagesの担当者はInsiderにコメントした。

現在の所有者がCorstorphine & Wrightに協力を依頼したのは2022年夏のことだ。そこから掩蔽壕の1つを人の住める空間に生まれ変わらせるための作業が始まった。

2023年春に完成し、この歴史的建造物に新しい命が吹き込まれた。

コンクリート打ちっ放しの壁も、歴史的な特徴を維持するための試みの一環

壁

Will Scott/Corstorphine & Wright

建築事務所ではこの建物の特徴を維持しつつ、ユニークかつ工業的な魅力を出すために、コンクリート打ちっ放しの壁を残すことにした。

「漆喰を塗って、壁を塗って、一般的な建具と木製の床を付けていたら、元の建物の雰囲気は完全に失われていたでしょう」とCorstorphine & Wrightのプラント氏は話している。

コンクリートの壁を残すためには、断熱材を外側に入れ、土をかぶせる必要があった —— エネルギー効率の良い方法だ

バンカー

Will Scott/Corstorphine & Wright

プラント氏は、コンクリートを維持しつつ掩蔽壕の断熱性と防水性を確保するには、知恵を絞る必要があったと語った。

「最終的には、掩蔽壕の構造を完全に露出させ、外側から断熱、防水処理を施す選択ししかありませんでした。建物を断熱材と防水材で包み、土を戻して埋めたんです」とプラント氏は話した。

現在、建物は再び地面に埋もれ、周囲の草原に溶け込んでいる。

土壁と植栽のおかげで、野生動物の新たな生息地ができただけでなく、建物を巧みに断熱し、部屋を暖めるのに必要なエネルギーを最小限に抑えているとCorstorphine & Wrightは話している。

特徴的な「爆風窓」は、自然光をたっぷりともたらしてくれる

室内の様子

Sykes Holiday Cottages

自然光をもたらすこの窓のおかげで、掩蔽壕の中は広々とした明るい空間になっている。

プラント氏は、開口部を作るのは大きな挑戦で「天井と残りの壁を支えるだけでなく、新しいガラス張りのドアが開口部にシームレスに収まるよう」ユニークな構造を使用する必要があったと語った。

ただ、最終的にはうまくいったという。

掩蔽壕には最大で4人が宿泊できる

寝室

Sykes Holiday Cottages

掩蔽壕には寝室が2つあって、1つにはツインベッドが、もう1つには2段ベッドがついている。

4人と「行儀の良い2匹の犬」がゆったりと過ごせるとSykes Holiday Cottagesは話している。

「忘れられないステイケーションを体験できるでしょう」

現代的なキッチンもついている

キッチン

Sykes Holiday Cottages

新しく取り付けられたキッチンには電気オーブンや冷蔵庫、冷凍庫、食洗器など、さまざまな現代的な設備が揃っている。

オープンキッチンなので、リビングと一体化している。リビングには暖炉もついているので、宿泊客はゆったりとした夜の時間を楽しめそうだ。

ウォークイン・シャワーも

バスルーム

Will Scott/Corstorphine & Wright

バスルームにはウォークイン・シャワーと洗面台、トイレ、床暖房、タオルウォーマーがある。

むき出しの配管やコンクリートはあまり魅力的とは言えないかもしれないけれど、掩蔽壕の過去を彷彿とさせる。

「とてもユニークで落ち着いた雰囲気。歴史好きは訪れるべき」とのレビューも

外から見たバンカー

Will Scott/Corstorphine & Wright

宿泊客のレビューは「美しい眺め」やその落ち着いた雰囲気を称賛するポジティブなものが多い。

多くの人々が「歴史好きにぴったり」だとコメントしていて、壁の小さなくぼみにはこの掩蔽壕の歴史に関する本や情報が並んでいると書き込んでいる人もいる。

プラント氏によると、掩蔽壕の軍事施設としての歴史を人々に理解してもらうことがその最終的な目標だという。

「掩蔽壕に滞在する際はただの別荘ではなく掩蔽壕に滞在していること、そして歴史を体験していることを意識してもらうことが不可欠です」

「わたしたちはこれを達成できたと思います」

歴史に敬意を払いつつも、現代的かつ将来性のある建物に

爆風窓

Will Scott/Corstorphine & Wright

Corstorphine & Wrightによると、掩蔽壕はもともとのレイアウトはそのままに、現代的な設備でリニューアルされたという。全体として、ユニークでありながらシックなつくりだ。

そして、過去と現在に目を向けるだけでなく、未来にも大きな焦点が当てられている。

「今回のデザインは既存の構造物の堅牢性をいかして歴史の重要な一部を記念する一方で、クライアントのために将来を保証することが本当に重要でした」とこの掩蔽壕を担当した構造技術会社「Symmetrys」の創業者クリス・アトキンズ(Chris Atkins)氏は語っている。

宿泊料は2泊3日で約700ポンド~

室内の様子

Will Scott/Corstorphine & Wright

現時点で、宿泊料は2泊3日で約700ポンド(約13万円)~となっている。

安くはない。ただ、Sykes Holiday Cottagesは、旅行者にとっても歴史ファンにとっても、ドーセットの拠点として最適な場所だと話している。

この近くにはヘンリー8世によって建てられたサンズフット城や、同じく歴史あるノース・フォート(Nothe Fort)もある。

人気も高い

外観

Sykes Holiday Cottages

ただ、急いだ方がいい。この掩蔽壕は大人気だ。

何カ月も前から予約はいっぱいで、年内に利用できる日数はすでに30日を切っている。

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