「3COINS」を手掛けるパルグループHDの業績が好調だ。3COINSも伸びているが、50ブランドを持つ衣料事業の売り上げはその約1.8倍ある。
撮影:土屋咲花
300円前後の雑貨を扱う「3COINS(スリーコインズ)」やアパレルブランド「Kastane(カスタネ)」「Lui's(ルイス)」などを展開するパルグループホールディングス(以下、パルグループHD)の業績が好調だ。
2023年2月期は、衣料事業がけん引し、売上高と営業利益がともに過去最高となった。最終益は99億5500万円(前年比148.8%)。また、直近7月11日に公表した2024年2月期第1四半期決算は、売上高が前年比2割増の469億9100万円で、2年連続で過去最高を更新し好調に推移している。
この1年でアパレル業界は相当に復調したとはいえ、コロナ禍前の水準に戻りきっていない企業も多い。パルグループHDが成長を続けられる理由の一つは「スタッフのインフルエンサー化」にある。パル常務執行役員の堀田覚氏に聞いた。
スタッフのSNSが集客に寄与
パル執行役員の堀田覚氏。
撮影:土屋咲花
「2022年前半は(店舗の売り上げが)少し厳しかったのですが、後半ぐらいからお客様もだいぶお店に戻って来られたことで店舗の売り上げが回復しました。そこにコロナ禍中に成長したECとスリーコインズの売り上げが上乗せされたことで、売り上げも利益も過去最高になりました」
堀田氏はこう話す。
コロナ禍でEC売上高を伸ばした小売りは多い。ただ、従来の顧客が購入の場をECに移しているケースも多く、店舗回帰に伴ってECの成長が鈍化したり、マイナスに転じたりしている企業もある。こうした中、パルグループHDは店舗とECの売り上げがどちらも伸びている。
堀田氏は、
「スタッフのSNS発信によって、どんどん新しいお客さんを増やせているからだと思っています。コロナ禍中に、SNSやECでブランドを知ってくれたお客さんがとても多いです」
と説明する。
パルグループHDでは2016年ごろから、社員とアルバイトを含む販売スタッフの個人アカウントによるSNS発信を奨励し始めた。コロナ禍では店を閉じざるを得なかった期間もあって、投稿数が増加。結果的に新規顧客の獲得につながった。
「お店に人が来られないので、お客様とコミュニケーションを取るとなると、インターネットを使うしかないという状態でした。もともとSNSの発信は力を入れていましたが、コロナ禍でさらに強化した形です」(堀田氏)
個人アカウントの総フォロワー数は2017年時点で200万人いたが、2022年には950万人まで伸びた。個人で10万人以上のフォロワーを持つスタッフも複数いる。
個人アカウントの総フォロワー数の推移。コロナ禍中に大きく伸びていることが分かる。
パルグループHDへの取材をもとに作成
スタッフによるSNS投稿は、新商品やコーディネートの紹介など。アパレルブランドのスタッフは、プロフィールに身長や普段の着用サイズ、パーソナルカラー、骨格タイプなどを記載している。顧客が自分に近いスタッフを参考に、購入を検討しやすくする狙いだ。
パルのECサイトでは、スタッフコーディネートを骨格タイプやパーソナルカラー、体型などで検索できる。こうした取り組みの結果、パルのEC売上高のうち、スタッフの投稿経由が約7割に上るという。
「給与3桁万円アップ」の実例も
10万人以上のフォロワーがいるスタッフもいる。骨格やスタイルなど、個性を生かした発信が共感を呼びやすいという。
出展:Instagram
現在、個人のSNSアカウントによる発信をしているスタッフは1750人。堀田氏によると、接客するスタッフの約3分の1程度という。
個人アカウントによる発信をするかどうかは各自の判断に任せているが、SNS発信は業務として扱い、評価にもつなげている。例えば、SNS投稿に関連する業務をシフトに組み込むほか、本社でコーディネート写真を撮り溜めする撮影日などを設けている。
評価面では、SNSはフォロワー数が一定を超えると、人数に応じた手当を毎月支給する。投稿が購入につながった場合、売上高に応じた報奨金を賞与に上乗せしている。
アパレルを始めとした販売員は給与水準が課題に挙がることも多いが、パルグループHDではこうした報奨制度によって百万円単位で年収がアップしたスタッフも少なからずいるという。
パルグループHDが導入している販売員のオンライン接客ツール「スタッフスタート」を提供するバニッシュスタンダードによると、ECの売り上げに応じたインセンティブ制度を設けている企業のうち、同社のシステムで把握しているインセンティブの合計額は年間3億円に上る。パルグループHDがスタッフに支払っている金額は非公開だが、「利用企業の中でも有数の規模」(バニッシュスタンダード)という。
「小粒ブランド」むしろ強みに
スタッフのコーディネートアワードも実施している。「低身長」「高身長」「ぽっちゃり」など独自の部門を設ける。
撮影:土屋咲花
パルグループHDは50のブランドを持つ衣料事業で1000億円超(2023年2月期)を売り上げるが、100億円規模のブランドは実は一つもない。こうした「ブランドの小粒さ」(堀田氏)が、ある意味スタッフが自由に個性を発信する土壌にもなった。加えて、今の世の中の流れも追い風になった。
「かつては、雑誌に出てくるモデルに対して憧れを持たせるというのがファッションの消費構造でした。今はECやSNSによって情報量が増えています。ユーザーも、自分に似合うものしか欲しくないと思っている。憧れを喚起するのではなく、等身大で楽しんでもらうコミュニケーションがもっとできると思っています。
低身長、肩幅が広い、ぽっちゃりしている…などのコンプレックスは武器で、そういう人はフォロワーがつきやすい。同じように悩んでいる人がいくらでもいますから。
10万人以上のフォロワーがいるスタッフは、必ずしもモデル顔負けの人たちではありません。熱量高く表現ができている人が、顧客の役に立っていると感じます」(堀田氏)
個人SNSの強化は、今期も最重要事項に位置づける。2024年2月期は、EC売上高500億円を目指している。