日本で展開されているRing製品。
撮影:小林優多郎
アマゾン傘下の「Ring(リング)」は、ドアベルやセキュリティーカメラ製品のブランドだ。
もともとはジェイミー・シミノフ(Jamie Siminoff)氏が設立したアメリカの企業をアマゾンが買収した。アマゾン買収後のRing製品は、2022年には日本にも上陸している。
Ringは2023年6月に、アメリカ・FTC(連邦取引委員会)のプライバシー訴訟で580万ドルの和解金を支払ったばかりでもある。
スマートホーム機器としてのRingの強み、そしてプライバシーに関する考え方を、Ring マネージング・ディレクター 英国、ヨーロッパ、インターナショナル担当のデイブ・ワード(Dave Ward)氏に話を聞いた。
「日本人にも確実に受け入れられる」
Ring マネージング・ディレクター 英国、ヨーロッパ、インターナショナル担当のデイブ・ワード(Dave Ward)氏。
撮影:小林優多郎
Ringを設立したシミノフ氏は2013年、ロサンゼルス・サンタモニカの自宅ガレージで作業をしていた。
アメリカのスタートアップ企業らしく、ガレージで製品開発を行っていたのだが、宅配便などで玄関ベルが鳴っても聞こえないということが課題だったという。
当時、玄関ベルが鳴ったときに、自宅の裏のガレージにいても気付くような製品がないか市場を探したが、そういう製品がなかったという。日本だとドアホンの子機のような存在はあったが、シミノフ氏はスマホと接続できる製品を探していたそうだ。
その結果、シミノフ氏は「自分で作る」という発想に至り、そこから「すべての家やその敷地、大事な家族を守れる製品」としての開発が始まっている。
しかし、日米ではガレージの有無はもちろん、自宅の敷地の広さなど、住宅事情が異なる。Ringへのニーズも異なる可能性はある。
ワード氏は「日本での(スマートホーム全般の)普及が遅れている印象はある」と認めつつ、ニーズはあるもののまだ採用に至っていないという認識だ。
つまり、Ringのようなホームセキュリティー製品の採用にどういったメリットがあるのか、そのメリットが実感できていないのではないかというのがワード氏の考えだ。
日本ですでに採用が進んでいるアマゾンの「Fire TV」やアマゾンのストリーミングサービスのように、メリットを伝えていけば「確実に日本人にも受け入れられる」とワード氏は判断している。
Ringから送られてきた映像を表示しているスマートディスプレイ。
撮影:小林優多郎
日本の郊外のように戸建てが多いエリアではRingのドアベル製品が適しており、都市部のようにマンションの多いエリアでは、セキュリティー用途のインドアカムが簡単に設置できて賃貸でも使いやすいとワード氏。
加えて、「(市場の)フィードバックをベースに製品開発に取り組んでいる」のがRingだという。サービスや機能を随時アップデートして進化させていることに加え、既存製品も継続的に改善していると話していた。
プライバシー訴訟は「100%対応」
「プライバシーやセキュリティをすべての製品開発の中心」と語るワード氏。
撮影:小林優多郎
Ringがプライバシー訴訟でFTCと和解したのは、ユーザーがクラウドに保存した室内の動画を従業員が閲覧した事件だ。アマゾンよる買収完了前の2018年や、買収完了後の2019年にも別の事例があったという。
ワード氏はFTCが調査するより前に自ら対処済みだとしており、現状は従業員のアクセス制限をしていると話している。
ワード氏は、「プライバシーやセキュリティをすべての製品開発の中心に据えている」と強調。それが担保されない限りは製品化を進めないというスタンスなのだという。
事件の詳細については「話せない」としていたが、こうした問題に関しては「すでに100%対応している」としている。
現状は、相当な高水準のセキュリティーを適用しているとワード氏。データアクセスやデータの取り扱いなどで、高い基準を設けていて、それも順守しているのだという。
「専任のセキュリティチームがいて、セキュリティーに特化した部隊が継続的に投資をしながら、さらに高い水準を目指している」とし、「今日よりも明日の方が安全になるよう、日々セキュリティー向上に取り組んでいる」としている。
Ringの「プライバシーゾーン」機能。画面上の黒く塗りつぶされている部分は、カメラの中でマスキングされており、アマゾンのサーバーでさえ復元は不可能。
出典:アマゾン
その一環として、ワード氏は「プライバシーゾーン」を紹介した。
これは見守りカメラで撮影するエリアを指定することで、カメラの画角内でブラックアウトして記録されないエリアを指定する機能だ。
このエリアはそもそも映像として記録されず、あとから復元することもできないので、ゾーン内のプライバシーを担保できる。
他にもオーディオ録音をオフにする機能や、Ring製品を制御するコントロールセンターにおいてプライバシーとセキュリティの設定を前面に表示してすぐにアクセスできるようにしている点も、プライバシーやセキュリティに関する取り組みの一環だという。
スマートホーム標準規格「Matter」対応はニーズを見極めて
アマゾンはスマートホームに関する共通規格「Matter」の導入を進めている。
撮影;小林優多郎
スマートホーム界隈では「Matter」(マター)という、IoT家電とプラットフォームをつないで操作するための業界標準規格が話題だ。
要はMatter対応製品とプラットフォームの対応が進めば、例え家の中の家電のメーカーがバラバラでも、AlexaやSiriなどが共存していても、スムーズに使える可能性がある。
MatterはアメリカのConnectivity Standards Alliance(CSA)が策定しており、策定当初からアマゾンだけではなく、グーグルやアップルも参画し、最新OSや機器などでの対応が進んでいる。
例えばアマゾンで言えば、スマートスピーカー・ディスプレイのEchoシリーズでMatterへの対応を進めている。
アマゾン傘下のRingとしてはどうしていくのか。
ワード氏は「今後のMatter対応が楽しみでワクワクしている」とし、顧客中心を掲げるRingにとってMatterは、ニーズがあれば対応していくという立ち位置だと説明した。
Echoシリーズでの対応が進む中、ワード氏も「Matterの動向はしっかり見ていく」考えで、ユーザーニーズを見極め、ユーザーが「何をしたいか」を中心に取り組んでいくという。