4〜6月の実質GDP6%増は「冴えない内需」の裏返し。ただし、気になる好材料が1つ…

日経平均 GDP

8月15日に発表された2023年第2四半期(4〜6月)の国内総生産(GDP)は、市場予想を上回る大きな数字とはかけ離れたネガティブな内容だった。

REUTERS/Kim Kyung-Hoon

内閣府が8月15日、2023年第2四半期(4~6月)の国内総生産(GDP)を発表した

物価変動の影響を除いた実質成長率は前期比1.5%増、年率換算で6.0%増となり、市場予想の中心を大きく上回った。

第1四半期(前期比年率2.7%増)から大幅に加速し、名目成長率では2ケタ成長の同12.0%となった。

2023年上半期の日本経済が本格的な回復軌道にあったことが数字から裏付けられた。

第2四半期の実質GDPの実額(年換算)は2019年通年を上回り、欧米諸国にはおよそ2年遅れたものの、コロナ前の水準を回復するに至った。日本経済もようやく「アフターコロナ」と言える状況に漕ぎつけたと言っていいだろう。

ただし、この予想を上回る高成長は、相当に問題含みと言わざるを得ない。

すでに各種メディアで報じられている通り、今期のGDP伸び率は内需ではなく外需、しかも輸出の増加以上に輸入の減少がけん引した結果だ。

日頃から統計や経済指標を読み慣れていない読者にはあまりピンと来ない話かもしれないが、言ってみれば、「冴えない内需」が成長率を押し上げた形で、それは下の【図表1】を見るとよく分かる。

図表1

【図表1】日本の実質GDP(前期比伸び率、青の折れ線)の推移。

出所:内閣府資料より筆者作成

前期比1.5%増を記録した今期の成長率について、外需の寄与度(GDPをどれだけ増加させたかを示す)は1.8ポイント、うち輸入の減少に由来する部分はその7割に当たる1.1ポイントを占める。これは個人消費の弱さと深い関係にありそうだ。

一方、内需の寄与度はマイナス0.3ポイントだった。需要の項目別に見ると、GDPの過半を占める個人消費が前期比0.5%減と、3四半期ぶりのマイナスを記録した。

この個人消費のマイナス転換に対する失望は非常に大きい。

5月上旬、新型コロナの感染症法上の位置付けが季節性インフルエンザなどと同じ「5類」に移行したことを受け、サービス分野を中心に消費が回復すると期待されていたからだ。

しかし、現実はそうはならなかった。

サービス消費は2021年第4四半期(10~12月)をピークに減少傾向が続く。その間、日本では曖昧(あいまい)な行動規制が続いたため、抑圧されていた消費者の需要が急激に回復する「ペントアップ需要」が、期待されたほどの勢いにならなかったのかもしれない。

また、内需の他の項目で言えば、民間企業の設備投資もゼロ成長だった。

こうした内需の弱さが、そのまま輸入の減少につながったと考えられる。

半導体など供給制約の緩和を受けた自動車産業の好調や、訪日外国人観光客(インバウンド)の回復に伴うサービス消費の増加は、前期比3.2%増という輸出の押し上げに貢献した(成長率への寄与度はプラス0.7%)ものの、輸入減少の迫力が上回った

なお、インバウンド需要に伴う消費の増加は、統計では「非居住者家計の国内での直接購入」に該当する。

この項目について、2022年第4四半期(10~12月)から2023年第2四半期(4~6月)までの3期分の数字を見ると、前期比343.6%増、同60.9%増、同8.1%増と、コロナ入国規制が緩和された直後からの回復の勢いがはっきりと減衰している。

中国政府による日本への団体旅行解禁(8月10日以降)で、メディアには「爆買い復活か」などと景気の良いヘッドラインが飛び交うが、上記のような数字の動きを踏まえると、インバウンド需要への過度な期待は危ういようにも感じられる。

「GDPデフレーター」の伸びに注目

高成長を示す統計とは裏腹に、実体経済の状況は極めてネガティブ、という構図をここまで述べてきたが、ポジティブな材料もゼロではない。

それは「GDPデフレーター」が大きく伸びたことだ。

ニュースでもあまり聞かない用語かもしれないが、GDPデフレーターは、名目GDPのうち物価変動の影響分を調整して実質GDPに変換する際に用いられる指数だ。

GDPが内需や外需、その内訳である輸出入のような項目の積算から成り立っているように、GDPデフレーターも国内需要デフレーターや輸出入デフレーターの積算から成り立っている。

ここでは専門的な計算は避けて端的に結論だけ言うと、交易条件(貿易での稼ぎやすさ。輸出物価の上昇や、輸入物価の下落により向上)が改善すると、輸出入デフレーターの変化を経由して、GDPデフレーターを押し上げる【図表2】。

日本経済にとってポジティブな現象と理解していいだろう。

図表2

【図表2】GDPデフレーター(季節調整、青の折れ線)の推移。

出所:内閣府資料より筆者作成

なお、経済分析の世界では、資源高や円安など輸入物価の上昇に起因するインフレの影響を除外し、内需による(国内主導の)「ホームメイド・インフレ」の実態を判断する材料として、GDPデフレーターを用いることが多い。

やはり専門的な計算は避けるが、GDPデフレーターが押し上げられてプラスの伸びを示すということは、輸入物価の上昇が価格転嫁された上でなお、内需主導で物価上昇が起きている可能性を示唆する。

上の【図表2】を見ると分かるように、GDPデフレーターは2022年第4四半期(10~12月)以降、前期比プラス1.1%、プラス1.4%、プラス1.4%と伸びが加速しており、それを長いこと期待されてきたホームメイド・インフレと見なす向きがある。

一方、資源高や記録的な円安を受け、ここ数年のGDPデフレーターは大きなマイナスが続いていたので、2023年に入ってからプラス転換したのは、あくまで過去の輸入物価上昇がタイムラグを伴って価格転嫁された結果でしかないとの見方もある。

結論として、今日時点でホームメイド・インフレが実現し始めているとまでは断言できない。仮にその萌芽が見え隠れしている現状があるとしても、それは名目賃金の上昇があってこそ持続・拡大し得るはずだ。

いずれにしても、岸田政権が産業界に対して強力に賃上げを求める現状と関連して、インフレの動向には今後も注目もしくは期待が集まることは間違いない。

「いよいよ日本も継続的な物価・賃金の上昇局面に入ったのか」を判断する局面がすぐにやって来るかどうかはともかく、足元のGDPデフレーターの強さに注目することで何かしら見えてくるだろう。

一方、円安相場に終息の気配なし

なお、日本経済の現状について言えば、ここまで述べたような実質GDP成長率の動向と同じくらい注目を集めているのが、ドル/円相場の動きだ。

8月17日には年初来高値となる146円台に突入、「2023年は円高の年になる」との多くの識者の予測はどこへやら、円安相場が終息する気配は感じられない。

米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げサイクル終了への道筋がいまだ見えてこない中、現状あるいはそれ以上の内外金利差が緩やかに持続する足元の状況は、キャリー取引(低金利の通貨=円で借り入れた資金を高金利の通貨=ドルなどで運用して収益を得る手法)に好都合で、そうである限り、円を積極的に買い戻す(円高方向の)動きは出てきにくい。

また、貿易収支をはじめとする円の需給環境についても、「円を売りたい人が多い」という基本的事実に大きな変化はないように見える。

6月の貿易収支はおよそ2年ぶりの黒字転換を果たしたものの、7月は一転再び赤字転落。

「基調的に黒字を稼げない」という事実が重要であり、それこそが円安の真因なのだとすれば、そもそも単月の貿易収支に一喜一憂してみたところで、得るものは何もない。

石油・天然ガスなど鉱物性燃料や為替の変動の影響を除いても、日本の貿易収支は基本的に悪化傾向にあるという事実から目を逸らさないようにしたいものだ。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。

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