「出社義務化」の不都合な真実。環境問題よりオフィス復帰を優先させたがる経営者たち

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コロナ禍が収束し、多くの企業が従業員にオフィス回帰を促している。しかしそれによる環境負荷はほとんど顧みられていないようだ。

Arantza Pena Popo/Insider

レイチェル(仮名)は渋滞に巻き込まれるのが大嫌いだ。その日、最大で1時間半も車中で目の前のテールランプを眺めることになると思うと、朝起きるのもなおさら辛い。

彼女はここ何年か、リモートの仕事に就いていた。だが2023年2月に非営利団体に転職したことで問題が生じた。この転職先ではメリーランド州シルバースプリングにあるオフィスに週2日以上出勤しなければならず、片道30〜45分の通勤を強いられることになったのだ。

レイチェルのように、出社義務化(RTO:Return to Office)のせいで通勤を再開する羽目になった労働者は数百万人にのぼる。こうした労働者の多くは、通勤の意義が分からないと言う。だが、レイチェルを悩ませているのは時間の浪費だけではない。新しい日課が環境に与える影響も悩みの種となっている。

「車で通勤中に道路が渋滞しているのを見ると、ちょっとした怒りを覚えます。だってびっくりするほど環境に有害ですから。それに、オフィスでは紙やプラスチック製のカップや食器など、ものすごい量のごみが出るんです」(レイチェル)

環境に対するレイチェルのこの懸念は、オフィス出社義務化をめぐる議論の中で、少なくとも公の場ではほとんど顧みられてこなかった。

アマゾン(Amazon)、グーグル(Google)、JPモルガン・チェース(JPMorgan Chase)のCEOたちは、対面でのコラボレーションや職場での何気ない雑談が従業員のエンゲージメントを高めると主張する。これに対して、いや労働者が自分でスケジュールを設定できてこそ生産的が上がると反論する人もいる。

だが、こうした意思決定によって地球にどんな影響が及ぶかを企業は把握していない、と指摘するのは、職場を改善するために自社で行動科学的な実験を行っているモア・ザン・ナウ(More Than Now)の創業者ジェームズ・エルファー(James Elfer)だ。

「このことが話題の端にものぼっていないのは衝撃です。特に、サステナビリティに関心を寄せていると言っている企業ですらそうですからね。雇用主が私たちの行動に及ぼす影響の大きさについて調べる機会が見過ごされています」(エルファー)

出社義務化の方針が気候危機を悪化させるかどうかは重要な問題だ。2023年は記録をとり始めて以来最も暑い夏になると科学者が予測しているのだからなおさらだ。地球温暖化の原因となっている温室効果ガスの排出量のうち、約15%を交通機関が占めており、その大部分をガソリン車、トラック、バスが占める。

だが、オフィスで仕事をすることが地球にとって悪いことなのかどうかを判断するのはそれほど容易ではない。人々の居住地、自宅で使用するエネルギー量、口にする食べ物、購入するもの、不要不急の外出など無数の要素が、比較の天秤を逆に傾ける可能性がある。

私たちは働き方の大きな変化の只中にある。そして「フォーチュン500」に含まれる企業には世界中に約3000万人の従業員がいる。オフィスでの生産性向上と地球環境保護との間での均衡を見出すことができなければ、気候変動危機は悪化するおそれがある。

「全体で見れば、こうした意思決定に数百万の従業員の働き方が左右されるんです。関心を向けないなんて無責任ですよ」(エルファー)

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