日本が研究リードする「光」を使った量子コンピューターの可能性。ブレイクスルーの鍵は光が持つ「もう一つの性質」

サイエンス思考

取材に答える武田俊太郎・東京大准教授。透明な容器の中に並んでいるのが、光量子コンピューターの回路だ(2023年7月12日、東京大学)。

撮影:川口敦子

「大学生の時に、量子力学の授業で『量子というものがあるらしい』ということを学んだのですが、その量子を、目の前にある手作りの装置を使って人間の手できれいに操れることに感動して、この世界に飛び込みました。映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に登場するタイムマシンに憧れる気持ちに近いものがありました」

こう話すのは、東京大学工学部で「光量子コンピューター」の研究開発に取り組む、武田俊太郎准教授です。

量子コンピューターと言えば、2023年3月に理化学研究所が発表した国産機や、グーグルやIBMなどの巨大IT企業がリソースを投入して研究開発を進めているイメージが強いかもしれません。

しかし近年、日本を中心に「光」を使った異なる方式の量子コンピューター「光量子コンピューター」の研究開発も加速しています。世界を見渡せば、2022年の11月にはカナダの光量子コンピュータースタートアップであるXanadu(ザナドゥ)が、累計2億5000万ドル(約360億円、1ドル=145円換算)以上の資金を調達するなど、ビジネスサイドも盛り上がりはじめています。

武田准教授は、この分野のトップランナーとして、2023年7月にも最新研究結果を発表。「ある程度、実用的な光の量子コンピューターへ向けた道筋が見えてきた」と話します。8月のサイエンス思考の後編では、日本発の技術として期待される光量子コンピューターの可能性について、武田准教授に話を聞きました。

※前編はこちら

光の回路で量子コンピューターを実現する

光量子コンピューターの回路を構成するミラーやレンズ

光量子コンピューターの回路を構成するミラーやレンズ。雑多に見えるが、レーザーがこれらの装置を通過することで、量子コンピューターとして演算がなされる(2023年7月12日、東京大学)。

撮影:川口敦子

2023年7月、東京大学工学部の地下にある実験室を訪れると、4畳ほどのテーブルの上には、たくさんのミラーやレンズが一つひとつ手作業で並べられていました。これが研究開発中の「光量子コンピューター」の姿です。

レーザーの光をこの回路に照射すると、光がミラーやレンズで構成された複雑な回路を通る過程で、コンピューターとしての「演算」が実行されます。

量子コンピューターを動かすには、「量子ビット」と呼ばれる特殊な状態を実現する素子が必要です。理化学研究所が2023年3月に発表した国産機や、東京大学とIBMが川崎で共同運営する機体は、「超伝導物質」を使って量子ビットを実現していますが、光量子コンピューターは「光の回路」を使って構築しています。

そのため、ニュースなどでよく見かける「量子コンピューター」と、光量子コンピューターの風貌はまるで異なります。

研究開発のパイオニアは日本に

武田俊太郎氏

取材に答える武田俊太郎・東京大准教授(2023年7月12日、東京大学)。

撮影:川口敦子

武田准教授が量子コンピューターの研究を始めたのは、2009年のことでした。当時大学4年生だった武田さんは、光量子コンピューター研究のパイオニアである古澤明・東京大学教授の研究室を訪れ、手作り感あふれる装置に心をときめかせたといいます。

「当時、量子コンピューターは現在のようには流行っておらず、今のようなブームが訪れることになるとは夢にも思っていませんでした。ただ、研究すればするほど楽しくなり、どっぷり光量子コンピューターにはまっていくことになりました」(武田准教授)

では、量子コンピューターの実現を目指す上で、光を使うメリットはどこにあるのでしょうか。

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