SAPのプレジデント、ヴイエムウェア(VMWare)の最高執行責任者(COO)などを経て2022年8月からCohesity(コヒシティ)の最高経営責任者(CEO)を務めるサンジェイ・プーネン氏。
Cohesity
データセキュリティ管理ソリューションのCohesity(コヒシティ)は、引受シンジケート団の同意さえあればいつでも新規株式公開(IPO)の手続きを開始する準備が整っているようだ。
同社のサンジェイ・プーネン最高経営責任者(CEO)がInsiderの取材に最新の状況を語った。
Cohesityは、マイクロソフトのAzure(アジュール)やアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)などサービスプロパイダーのクラウド上にデータをバックアップしている企業向けにセキュリティソリューションを提供するスタートアップだ。
同社がIPOの準備を進めるのは今回が初めてではない。
前回は2021年12月21日、新規上場に向けたステップとして、米証券取引委員会(SEC)に目論見書(Form S-1)のドラフトを非公開で提出したものの、タイミングとしては最悪だった。
翌2022年は、歴史的なインフレとそれを鎮圧するために米連邦準備制度理事会(FRB)が着手した利上げサイクル、その影響による金利上昇、そしてそれらの動きを受けて景気後退入りの懸念が現実味を帯びたことで、Cohesityに限らずテック企業に強烈な逆風が吹いた。上場への扉は乱暴に閉ざされた。
嵐が吹き荒れる前に滑り込みセーフで華々しいIPOを達成したのが、クラウド環境の運用管理自動化ソリューションを提供するHashiCorp(ハシコープ)で、その上場日は、Cohesityが目論見書を提出する直前の2021年12月9日だった。
テック業界や金融業界の期待通り、日本のソフトバンクグループが傘下の英半導体設計アーム(Arm)を9月にナスダック(Nasdaq)に上場できれば、それをきっかけに閉ざされていたテック企業のIPOへの扉も開く可能性がある。
うまくいけば、2024年初頭にはCohesityも含めてホットな展開を期待できるかもしれない。
プーネン氏はこう明言する。
「この先市場がどうなるかを予測することはできませんが、2021年と同様にIPOを進める準備はできています」
同社は引受シンジケート団(投資銀行)からのゴーサインを待っている状態のようだ。
「株式上場への準備体制は引き続き維持できています。市場の側の扉さえ開けば、この(2023年)秋であれ来年であれ、適切な時期を選んで手続きを始める考えです」(プーネン氏)
プーネン氏のCEO就任は2022年8月。直近はソフトウェア大手ヴイエムウェア(VMware)の最高執行責任者(COO)を務めていた。なお、同氏は2021年8月に退任し、その翌年5月にヴイエムウェアは半導体大手ブロードコム(Broadcom)からの買収提案を受け入れている。
また、この8月初旬、Cohesityはプーネン氏の指揮下で新たに、マカフィー(McAfee)やインフォマティカ(Informatica)などグローバル大手で最高財務責任者(CFO)を歴任したエリック・ブラウン氏を同ポジションに採用。
同時に、プーネン氏がCOOを務めるヴイエムウェアでシニアバイスプレジデント、その後グーグルでバイスプレジデントとして両社のエンジニアリング部門を率いたスリニバサン・ムラリ氏を最高開発責任者(CDO)に就任させた。
Cohesityは4月にマイクロソフトと、翌5月には(同社に出資する)グーグルクラウドと、それぞれパートナーシップの拡大を発表。
顧客企業のバックアップデータを自然言語で検索したり、特定のトピックに関連する全てのメールアーカイブを探し出して要約したり、新たなジェネレーティブ(生成)AIソリューションを展開するなどの取り組みを明らかにした。
また、同じくCohesityに出資するシスコシステムズ(Cisco Systems)およびヒューレット・パッカード・エンタープライズ(Hewlett Packard Enterprise)とはこの7月、クラウドセキュリティ製品のリセールなどに関する戦略的パートナーシップを拡大することを発表した。
市場調査会社IDCによれば、Cohesityの2022年の年間売上高成長率は29%だった。
2021年3月末、Cohesityが従業員の持ち株に対する投資家の公開買い付けを発表した際の評価額は37億ドルで、その前年の25億ドルから大幅な成長を記録。
さらに、同年末の目論見書提出の直前時点(12月18日)では、株式公開を通じて50〜100億ドルの評価額を目指すとの関係者の発言を、ブルームバーグが報じていた。
プーネン氏は「準備体制は整っている」とする今後の株式公開時の目標評価額について、Insiderの取材に対し、「最高の」時価総額、製品、成長を実現したいとだけ語り、具体的な数字は明らかにしなかった。
ただし、その「最高」を実現するために、プーネン氏は株式公開に先立って、IPO「冬の時代」に突入する前のスタートアップが長らく軽視してきた「あること」を実現しようと取り組んでいるとInsiderに語った。
それはすなわち、収益性、その最も基本的な表象であるフリーキャッシュフローのプラス化だ。プーネン氏の発言通り、同社は6月にレイオフ(一時解雇)を実施してコスト削減を推し進めた。現在、同社は2100人の従業員を抱えているという。
「考え方としては古いのですが、私は長いことハイテクセクターで仕事をしてきたので、企業がどうやって成り立っているのかをよく知っているつもりです。バリュエーションはあくまでフリーキャッシュフロー、将来発生する資本の関数でしかありません」
「2008年の金融危機が収束した後、人々は(再び始まった)成長に目がくらんで、物事が見えなくなっていたのだのだと思います。金利は低く、資金も潤沢でしたから。けれども、(財務など)ファンダメンタルズに立ち返れば、それは本来利益を生み出す成長でなくてはならなかったのです」
なお、先述したグーグル(兄弟会社のGV)やシスコ、HPエンタープライズのほか、AWSやソフトバンクグループ(傘下のソフトバンク・ビジョン・ファンド)も同社に出資している。