ジェシー・クレイマー氏。
Courtesy of Jesse Cramer
ジェシー・クレイマー(Jesse Cramer)氏が言うように「2022年は総合的に見ると、投資家にとって紛れもなく悪い年だった」。
2022年、S&P500は過去10年で最悪となる20%の下落だった。
クレイマー氏は登録投資顧問会社でフルタイム勤務するかたわら、パーソナルファイナンスに関するブログ「The Best Interest」を運営している。彼は4万2000ドル(約609万円、1ドル=145円換算)分の借金を完済してから投資に本腰を入れ、「怠惰な投資(lazy investing)」で総額6桁(数十万ドル)の純資産を築くと同時に、最初のマイホームのための貯蓄に励んだ。
市場の変動にもかかわらず、過去2年間は「投資戦略は変えていません」とInsiderの取材に応じたクレイマー氏は言う。
「最大の理由は、経済面で自分の目標が変わっていないからです。経済的自立とリタイアに向けて貯蓄することが私の第一目標です」
投資に関して従っているフレームワークは「第一に目標、次にタイムライン、次にアセットアロケーション」だと彼は説明する。
「目標が変わっていない以上は、タイムラインも変わりません。私は今まで通り数十年先を見据えています。そしてタイムラインが変わっていないということは、アセットアロケーション、つまり株、債券、オルタナティブ資産の保有比率もこれまで通りということです」
目標が変わることがあるとすれば、その時はアセットアロケーションを再考するかもしれないと彼は話す。だが、市場の低迷だけでは戦略変更の十分な理由にはならない。
2022年の市場低迷に対する彼の反応は、2020年の暴落時と同様だった。すなわち無関心だ。
彼は2020年の暴落について「市場低迷の性質はよく把握していました。あり得る話だと分かっていたし、若干遅すぎるぐらいだと思っていました」と話す。
「だから実際に起こった時も、あまり感情的な反応はしませんでした。目の前で科学実験が行われているような感じで、静観していました」
「怠惰な方法」で資産を築く
クレイマー氏の投資戦略はシンプルだ。いわく、「低コストで分散されたファンドをいくつか購入し、その後は定期的にリバランスする」のだという。
彼はこの戦略を「怠惰(lazy)」とさえ表現している。
この戦略は誰でも再現できると彼は話す。全米株式インデックスファンドや全世界株式インデックスファンドなどの低コストで分散されたファンドをいくつか購入し、保有し続けるのだ。
「私が必要とする株式へのエクスポージャーにはこの2つのファンドで事足ります。債券ファンド2つとオルタナティブ資産ファンド1つを加えてもいいかもしれません。
考え方としては、27の銘柄を細かいバラバラの比率で保有してポートフォリオ全体を構成するよりも、自分の手に負える数、例えば3つや5つの銘柄を保有する方がいいということです」
クレイマー氏は1万8000ドルにのぼる学生ローンを抱えて卒業した。
Jesse Cramer
具体的にどのファンドをポートフォリオに加えるかについては、バンガード(Vanguard)のVTFAX、フィデリティ(Fidelity)のFSKAX、シュワブ(Schwab)のSWTSXなどの株式市場全体に連動するインデックスファンドにしておけば間違いないとクレイマーは言う。
「どれを保有しても違いはありません。これらがビッグスリーです。個人的にはどれも優れたファンドだと思います」
些細な違いにこだわると、「追求する価値のない問題が投資家のマインドに入り込む」ことになるという。
「怠惰な投資」戦略のもう一つの構成要素は、定期的なリバランスだ。クレイマーは年に2~4回リバランスを行っているという。
「仮に目標アロケーションが株式70%、債券20%、オルタナティブ資産10%だとして、過去6カ月の市場パフォーマンスによって資産の保有比率が若干変動したとします。その場合には、増大した資産を少し売り、減少した資産を少し買って、元の70:20:10の比率に戻すのです」
彼は毎年同じ時期にリバランスすることを好む。そうすれば、市場に左右されない「ルールに基づいた」リバランスになるという。
「極めて機械的に行う必要があります。カレンダーのリマインダーを年に1回か2回でセットする。1年に4回以上はやりすぎでしょう。そうすると「怠惰な投資」のはずなのに、やや手間がかかりすぎてしまいます」
唯一の個別株はバークシャー・ハサウェイ
クレイマーは個別株を選ぶ投資はしない主義だが、1銘柄だけ保有している。バークシャー・ハサウェイ(Berkshire Hathaway)だ。
「正直に言って、バークシャー・ハサウェイ株を保有しているのは合理的な判断からではありません。というのも、私はウォーレン・バフェット(Warren Buffett)やチャーリー・マンガー(Charlie Munger)の話を聞くのが大好きで、彼らが経営する会社の株を持つのが楽しいのです。それだけの単純な理由です。きちんとした銘柄分析に基づいたファンダメンタルズ的判断ではありません」
投資に一定のリスクはつきものだが、1つの銘柄に賭けることは、多くの銘柄を1つにまとめたミューチュアルファンドの保有よりも本質的にリスクが高い。
「私の場合は幸運にも、バークシャー・ハサウェイの保有はうまくいっています。言い換えれば、購入以来、アメリカ株式市場を安定的にアウトパフォームしています。しかし、それは単なる偶然にすぎません」
同社のパフォーマンスが良かったのはボーナスのようなものだ。この銘柄は儲けるために買ったのではないと彼は言う。
「ブランド物のハンドバッグやルーキーのサイン入り野球カードを買うようなものです。それを所有するのは、ある種の楽しみのためであって、金の使い道として堅実だからではありません。この投資で資金の20%を失ったとしても、喜んで保有し続けるでしょう」