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シマオ:皆さん、こんにちは!「佐藤優のお悩み哲学相談」のお時間がやってまいりました。読者の方にこちらの応募フォームからお寄せいただいたお悩みについて、佐藤優さんに答えていただきます。さっそくお便りを読んでいきましょう。
現在大学2年生です。私は地域活性化に関心があり、就職もまちづくりに関係する仕事をしたいと考えています。できればグランドデザインを描ける場所で働きたいと感じ、国家公務員総合職員試験を受験しようと考えています。
ただ、私は大学をAOで受験したこともあり、学力にかなり問題があります。英語は英検2級をとって以来2年以上放置しており、数学は中学段階でかなり苦手意識があります。
親もこのことを知っているので、難易度が高すぎると反対しています。また、友人からも「公務員は試験に全落ちしたらどうするんだ。民間も併願した方がいい」と言われました。それでも総合職として仕事をすることに魅力を感じています。
私のプランとしては、国家公務員総合職員試験政治国際区分、国家公務員一般職員試験、地方上級、市役所など幅広い難易度の試験を受けた上で、民間でまちづくりに関連する不動産デベロッパーや鉄道会社を志望するつもりです。
佐藤さんに伺いたいのは、今私は何をすべきかについてです。英語はなんにせよ必要だと思いますので、中学英語から復習していますが、どの水準まで勉強するべきでしょうか。数学はどのように克服すれば良いでしょうか。また、私のプランの問題点とアドバイスをお願いしたいです。
(ひつじ、20代前半、男性、大学生)
合格するには基礎学力と準備が不可欠
シマオ:ひつじさん、投稿ありがとうございます。国家公務員の総合職って、いわゆる霞が関勤務のキャリア官僚を目指しているってことですよね?
佐藤さん:はい、そういうことです。
シマオ:相談文からはどこの大学かは分からないのですが、ひつじさんはAO入試での入学と書かれていますよね。AO入試は論文や面接での選抜や、いわゆる「一芸入試」のようなものも含まれていると思うんですが、基礎学力的にはどうしても一般受験の人たちと比べると劣ってしまうのでしょうか?
佐藤さん:現在は総合型選抜と呼ばれていますが、すでに全国の大学の8割近くがこの枠を持っているはずです。ただ、やはり共通テストや一般入試など、通常の試験を優秀な成績で勝ち上がってきた学生に比べると、国家公務員試験においては不利になるのは事実でしょう。
シマオ:やはりそうなんですね……。
佐藤さん:厳しいことを言うようですが、現実的には国家公務員総合職、いわゆるキャリアになる人は、ほとんどが一般入試のために猛勉強してきた人ばかりだと思います。
しかも出身大学は国立でも東大、京大、一ツ橋。私立なら早稲田、慶應、それでほぼ全体の8割という感じでしょうか。旧帝大と呼ばれる地方の国立大学出身者、私立ならMARCHや関関同立クラスの出身者もいますが、少数派です。
シマオ:キャリア官僚となれば全国トップクラスのエリートですもんね。そうなると、国家公務員総合職はかなりハードルが高いということに……。
佐藤さん:はい。そういった学生たちでさえ、少なくとも総合職を目指すなら、2年生から勉強を始めないと間に合わない。予備校に通う学生も多いです。それくらい難しい試験と考えてください。ただその前に、ひつじさんはまだ基本的なところが見えていない感じがします。
シマオ:基本的なところ、ですか?
佐藤さん:まず、これからは英語が大切なので勉強していると言っていますが、国家公務員総合職では英語自体の試験は基本的にありません。一般教養に一部英語の問題がありますが、大きな比重は占めていません。
シマオ:え、そうなんですか! 受けようと考えたこともなかったので、知りませんでした。
佐藤さん:ただ、最近は英語力も日常業務で必要になるということから、英語試験の成績によって加点制度があります。例えばTOEICなら600点以上で15点の加点となり、730点以上なら25点の加点になります。英検であれば準1級以上で25点の加点ですね。
シマオ:ひつじさんは英検2級なので、いまのままなら加点はないということですね?
佐藤さん:そういうことです。そもそも2級は高校卒業レベルですから。では、25点の加点を狙うためにいまから英語を勉強するべきか? 私は、その時間を他の試験科目の勉強に充てるほうが、はるかに効率的だと思います。
シマオ:語学の勉強は時間も労力もかかりますもんね……。
自分の進むべき道をもっとよく見極める
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佐藤さん:そもそも論ですが、ひつじさんは総合職と一般職の違いの認識や、自分自身の目指す方向性が曖昧な印象があります。
シマオ:実は僕もそれは感じていました……。総合職になったところで、まちづくりに関われるのか?と。そもそも、総合職というのはいわゆるゼネラリストで、一般職というのはスペシャリストと考えていいのでしょうか?
佐藤さん:そう捉えて間違いないでしょう。総合職は政策企画、法律立案などを行い、それぞれの分野のスペシャリストである一般職の人たちを組織としてまとめて動かす立場です。ですから通常は2~3年の期間でさまざまな部署に異動します。それによって幅広いキャリアとしての力を蓄えていく。
一方、一般職はスペシャリストですから、基本的に同じ部署に居続ける人が多い。
シマオ:佐藤さんも外務省の専門職、つまりはスペシャリストとして、ソ連やロシアとの外交の仕事をずっと任されていた訳ですもんね。
佐藤さん:その通りです。ですが、ひつじさんは地域活性化をグランドデザイン的な仕事といいながらも、スペシャリスト的な立場で仕事をしたがっているように感じます。
シマオ:そうですね。確かにそんなニュアンスを感じます……。
佐藤さん:その場合、総合職として仕事に就くとしたら、国土交通省や総務省のように省が限られてくるでしょう。その中でも常に異動がある。現実的に考えて、ひつじさんが言うような仕事がしたいなら、一般職か地方公務員のほうが合っていると思いますね。
シマオ:たしかに。以前、総合職の方から相談が来ていましたが、国会対策にものすごく時間を取られているようでした。そうすると、本来の地域活性化という仕事からは逸れてしまうかもしれませんね。
佐藤さん:そういうことです。地方公務員でも市役所ならもっと現場に密着した仕事ができるし、より具体的な地域活性化の仕事に就ける。地方公務員上級の県庁だけでなく、中級でも合格可能な市役所まで狙うとしたらかなり合格可能性は高まりますし、ひつじさんのやりたい仕事ができるような気がします。
シマオ:もともと一般職や地方公務員上級も視野には入っているようなので、総合職に無理にこだわらず、そちらの試験についても詳しく調べる必要がありそうですね。
佐藤さん:地方上級の試験は教養と専門の2つの領域がありますが、教養の英語の試験のレベルは高卒程度なので、英検2級に合格しているひつじさんなら十分クリアできるはずです。中級になればもっと難易度は下がります。
仕事も国家公務員のような組織的な拘束性があまりなくて、ずっと自由に仕事ができる。私は地方公務員の方をお勧めします。
「地域活性化」のイメージを明確に
佐藤さん:もう一つ分からないのが、地域活性化とは都市計画のようなものをイメージしているのか? それとも最近増えているIターンやUターン促進事業などを含めた少子化過疎化対策、地域再生事業をイメージしているのか、ということです。
シマオ:都市計画となると、おそらく建築や土木に関する知識が必要になりますよね?
佐藤さん:そうですね。そうなるとなぜ建築学科や土木学科の方に行かなかったのか、という話になってしまう。
シマオ:数学が苦手ということですから、おそらくその選択肢はなかったということなんでしょうが……。
佐藤さん:だとしたら、過疎化や少子化対策を含めた地域再生事業的な仕事ということですから、やはり総合職より一般職、さらに言えば地方公務員の方がより自分のやりたい仕事に合っていると思います。
いずれにしても、ひつじさん自身が、もう少し自分のやりたいことと、進むべき道を整理して考えた方がいいかと思います。
シマオ:その場合のよい方法はあるでしょうか?
佐藤さん:大学のキャリアセンターにあるOB訪問の制度を利用してみたらどうでしょうか。やはり実際現場で働いている人たちからの話をたくさん聞くことが重要だと思います。具体的なアドバイスをたくさん聞けるはずです。
シマオ:たしかにそれが一番早いかもしれませんね! ちなみに、民間企業という選択はありますか?
佐藤さん:もちろんそれもあると思います。不動産デベロッパーや地方の鉄道会社などは、地域活性や開発に向き合う仕事ですから、ひつじさんにも合っていると思います。
シマオ:そういう意味でも選択肢を広げ、視野を広く取っておくことも必要なんですね。
ひつじさん、いかがでしょうか。厳しい指摘もありましたが、ご自身の方向性とやるべきことをもう一度整理してみてくださいね! 大変でしょうが、応援しています!
「佐藤優のお悩み哲学相談」、そろそろお別れのお時間です。引き続き読者の皆さんからのお悩みを募集していますので、こちらのページからどしどしお寄せください! 私生活のお悩み、仕事のお悩み、何でも構いません。それではまた!