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今回は、こちらの応募フォームからお寄せいただいた読者の方からのご相談にお答えします。
「組織に向いていない」と言われた30代男性が、疑問を抱いていらっしゃいます。
Aさん
今の会社に勤めて2年になりますが、仕事に飽きてきたのでそろそろ転職を考えています。そのことを友人に話したところ「おまえは組織に向いていない」と言われました。ちなみに周囲からそう言われたことはこれまでにも何回かあります。
言われるたびにそうかもねと適当に返していますが、自分的にはそれほど組織に向いてないという自覚はありません。「組織に向いている・向いていない」というのは何で決まるのでしょうか?
(Aさん/30代前半/男性/販売)
お友達は単に「おまえはマイペースだ」と言いたかったのかもしれませんが、せっかくの機会ですので「組織人であること」について考えてみましょう。
「組織に向いている・向いていない」は、どんな基準で判断されるのか。
大まかには次の2つの要素が挙げられると思います。
1. 会社が望むような成長をしていけるか
前提として、組織にいるなら「現状維持」でいられることはまずありません。
年功序列が当たり前だった一昔前であれば、会社の指示どおり真面目にコツコツ働いてさえいれば自動的にポストも報酬も上がっていきました。でも、今はそんな時代ではないですよね。
ある程度の年次までは「猶予期間」として見守ってもらえるし、育成への投資もしてもらえるでしょう。ところが、30代に入る頃には「会社が望むような成長を遂げているかどうか」がシビアに見られるようになり、30代を過渡期として40代で大きな差が開いていきます。
会社が描いたとおりの人材に育っていれば、上のポストへ昇格したり給与が上がったりします。逆に、会社側の理想から外れた人は居場所を失っていくでしょう。
そして、「会社が望む成長」は、企業によって異なります。言い換えれば「キャリアパス」ですが、これは企業ごとに方針があり、人事制度に落とし込まれています。
例えば、すべての社員に対し「マネジメント」を担うことを求めて育成する企業もあれば、「スペシャリスト」を尊重してキャリアコースを用意している企業もあります。
会社の人材育成方針や評価制度に沿わず、ひたすら自分が得意なことを追求していく人は、「組織に合わない」と見なされるでしょう。
このような場合、ある会社では「組織に合わない」と言われた人でも、別の会社の組織にはマッチする可能性が高いといえます。
自分自身の「こう成長したい」「こんなキャリアを歩みたい」という考えと、会社側の「こう成長してほしい」「こんなキャリアを歩んでほしい」という方針が一致する会社を選ぶことが大切です。
2. 会社の「カルチャー醸成」に進んで参加できるか
多くの企業は、自社の「カルチャー」を作ることを大切にしています。そのために、さまざまな施策が展開されます。
例えば、「理念」「ミッション・ビジョン・バリュー」「パーパス」「クレド」などを設けて、社員に実践を求めます。そもそもこれらに共感できなければ、その会社には向いていないということになり、組織にもなじみにくいでしょう。
また、「飲み会」「社員旅行」「運動会」といったイベントを活用し、カルチャー醸成を図る企業もあります。
最近では、コロナ禍でリモートワークを導入した企業の多くが、頻度に差はあるものの「出社」に切り替えるようになっています。業務効率の観点はもちろん、カルチャー醸成の観点でも、社員同士の対面コミュニケーションが重要と考えられているようです。
社員にはそうした「カルチャー醸成への参加・協力」が求められるため、それを拒む人は「組織に合わない」と見なされます。
以上、「組織に向く・向かない」の基準を大まかに2つお話ししましたが、いずれにしても、「所属先による」といえるでしょう。
企業の価値観やカルチャーは多様です。Aさんは、これまでに周囲から「組織に向いていない」と言われたことが何回もあるとのこと。
それは、自分の価値観やカルチャーにマッチしていない会社をたまたま選んでしまっていただけかもしれません。
「今の会社に勤めて2年になるが、仕事に飽きてきた」ということは、ご自身も違和感を抱いているのではないでしょうか。
そうであれば、自身がマッチする性格を持つ組織を探し、転職活動をしてみるのも一つの手といえるでしょう。
「独立したけれど、組織に戻った人」の理由とは
「組織に向いている・向いていない」を、別の角度から見てみましょう。
「組織から出たい」と考え、「フリーランス」に転向。企業と業務委託契約を結んで仕事をする方々は大勢います。
その中には、「やはり組織に戻りたい」と、再就職活動をする方も一定数見受けられます。
組織に戻ることを希望する理由としてよく見られるものをご紹介しましょう。
先々を考えると不安になってしまう
業務委託の場合、数カ月~1年程度の契約を結んでプロジェクトに入ることも多いのですが、「この契約を満了したら、次の仕事はあるのだろうか」という不安を抱える方もいらっしゃいます。
特定業務を継続して担う契約を結び、ほぼ「自動更新」されていくような場合でも、「いずれ正社員を採用したら切られるのでは」「業績が悪化したら契約更新されないのでは」などと考えるものです。
あるいは「病気やケガなどで働けなくなったらどうしよう」という不安もあります。
このような「先行き不安感」が強い人には、フリーランスは向いていません。組織に属していたほうが心の安定を保てるでしょう。
実際、人事スペシャリストとしてフリーランスになった方が、1カ月にして「自分の性格には合っていないことに気づいた」と、再就職の相談にいらっしゃったケースがあります。
その点、フリーランスを長く続けている方々を見ると、とても楽観的。「何とかなる」というマインドで、仮にしばらくの空白ができたとしても「この機会に旅行に行こう」などとポジティブに捉えることができるようです。
「中途半端」がもどかしい
フリーランスの方は、複数の会社と契約を結んでいるケースも多いのですが、そうすると時間もパワーも分散されます。
それにより「どの仕事も中途半端にしか関わっていない」ことにもどかしさを感じる方も見受けられます。
かといって、契約先を1社に絞ってフルコミットしたとしても、上流工程のコアな部分は正社員が握っていることが多く、不完全燃焼感を抱くこともあります。
1つのミッションに集中して深く関わりたいタイプの方は、組織の方が希望が叶いやすいかもしれません。
「疎外感」「孤独感」がある
「会社の打ち上げに呼んでもらえなかった……」
寂しそうにそう語ったフリーランスの方がいました。
「会社の飲み会とかイベントとか面倒。呼ばれなくて気楽」という方も多いのですが、仲間との一体感を持てないことに、疎外感や孤独感を抱いてしまう方もいます。
営業ができない
高度な経験・スキルを武器に独立しても、「顧客開拓」ができなければ仕事につながりません。自身での営業活動がうまくいかず、組織に戻るケースも見られます。
近年は、企業とフリーランス人材をマッチングするサービスも数多くあるため、自分で営業しなくても案件を獲得しやすくなってはいます。
しかしながら、仲介手数料が発生するため、企業側の「高額なコストをかけている分の期待値」と、働く側の「自分の手元にはそこまで入らない」というギャップが悩みどころのようです。
組織力を活かして仕事がしたい
フリーランスで仕事をしていると「自分1人でできることには限界がある」と感じる方もいます。
「会社のリソース(予算・人材・ブランド力など)を活用することで、よりダイナミックなプロジェクトを動かすほうがおもしろい」と気づき、組織に戻るケースも見られます。
周囲からの刺激を得て成長したい
自分1人だと、新しいことを学んでキャッチアップしていくには、強い意志と行動が必要です。
その点では、会社には周囲にさまざまな専門担当者がいて、教えを乞うことができます。新しいことを学ぶ環境があり、自分の成長につながりやすいと気づく方もいます。
また、会社側が研修プログラムを提供するなど、「育成してもらえる」ことが大きなメリットといえます。
このように、自由を求めて組織を飛び出したものの、組織のメリットを認識する方は少なくありません。
これらの声を聞き、Aさんはどのように感じたでしょうか。ご自身が本当に組織に向いているか向いていないか、考えるヒントにしていただければ幸いです。
なお、一昔前と比べ、昨今は「組織のルール」に縛られることは少なくなってきました。
日本は労働人口減少に向かっており、人材獲得競争が激化しています。企業は求職者から選ばれるために、「個々の価値観・キャリア観」を尊重し、支援する方向へ動いています。
これからは組織に属しながらも、選択の自由度が高まっていくでしょう。
Aさんも、ご自身にマッチする価値観やカルチャーを持つ企業に出合えることをお祈りしています。
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森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。