インドネシア・ロンボク島のソーラーパネル。
GettyImages Andriy Onufriyenko
インドネシア政府とインドネシア銀行は、8月9日に東京都内で投資フォーラムを開催した。それはインドネシア投資調整省による、国内の持続可能な新規プロジェクトに対する日本企業からの投資と協働を呼び込むためだ。同政府が認定する9つのプロジェクトが発表され、そのなかにはスラウェシ島の虫を使って有機廃棄物を分解するマゴット事業ほか、ロンボク島の再生エネルギー事業などが含まれる。
虫が生ごみを資源にして、その虫がさらに魚の餌や家畜の肥料になる究極のアップサイクル
「え !? 虫が生ごみを食べて、さらにその虫が魚の餌になるんですか?」
筆者が思わず聞き返したのは、インドネシアのスラウェシ島で進められているマゴット事業についてである。
マゴットとはハエの幼虫のことで、その幼虫たちに何万トンもの有機廃棄物を食べさせて分解するのだという。さらに、その幼虫たちはタンパク質とアミノ酸が豊富なため、魚の餌や家畜の肥料にも適しているようだ。ううむ、ハエの幼虫と聞くと、どうしてもあの白色のクネクネと動くアレを想像してしまい、言葉に詰まってしまう。
「BSF(日本名アメリカミズアブ=ハエ目の昆虫)は、代替タンパク質としても注目されていますよ」と笑いながら説明してくれたのは、小野孝仁氏(AAI社 代表)である。
小野氏とお会いしたのは、8月9日に東京・大手町で行われた投資フォーラムの会場だ。同フォーラムはインドネシア投資調整省、国営のインドネシア銀行ほかが共催し、日本の企業や行政が招待された。
小野氏が代表を務めるAAI社の役割は、インドネシアの各地域で進められている政府肝煎りのプロジェクトと日本企業の橋渡しである。もともと同社の母体となるA-WINGインターナショナル株式会社は、2008年に創業したという。
小野氏によると、創業当初の同社は小型風力発電機を製造販売していた。そんな経緯から、同社では電気が通っていない地域が多い国々を(社名であるAAという名前の意味はアジア・アフリカの略)中心にリサーチを行なってきたのだという。そして、インドネシア各地に事業拠点をもち、再エネルギーなどの事業を展開し、AAI社では日本企業の進出を支援している。
「BSFは温暖な場所に棲息するので、赤道が通るインドネシアではたくさん育てることが可能です」という小野氏の説明を聞いて、やっと合点がいった。
たとえば、海洋の藻が石油由来のプラスティックの代替になる話とか、テクノロジー主導によるアップサイクル(資源の再利用)事例を学ぶ機会が筆者は多かったせいか、生物による有機廃棄物の処理は新鮮に思えた。
さらに、BSFが食用になりえるというのも無駄がない。食べたいかどうかはともかく、すべてが循環している。BSFについて調べてみると、ケニアにおいてもかなり普及しているようだ。
今回、小野氏はインドネシア政府が開催する投資フォーラムで、9つの事業計画を日本企業に紹介した。先述したスラウェシ島のマゴット事業はそのひとつである。ほかにバリ島の小水力発電、ジャワ島の医療廃棄物処理、ロンボク島の風力発電、バイオマス発電、ソーラーパネル発電事業など、政府公認の事業が日本からの投資を待っている。
同フォーラムには、ヘリ・アフマディ駐日大使、インドネシア銀行のアイーダ・ブディマン副総裁を筆頭に同行の支店長らが参加し、インドネシア投資調整省のカヒョ・プロマノ氏がビデオ登壇した。プロマノ氏は海外からの投資促進部門長を務める政府高官だ。
歓迎の挨拶を行うヘリ・アフマディ駐日大使。
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ジャングルへの首都移転で、世界でもっとも持続可能なスマートシティを目指す
インドネシア政府は、GDPの成長率が2022年度に5.31%を記録し、7四半期連続で成長を達成した。ジョコ・ウィドド大統領は、首都をジャワ島のジャカルタからカリマンタン島東部に移転することを2019年に発表し、世界を驚かせた。わたしもそのニュースを知ったときには、「ホントに?」と耳を疑ったものだ。
カリマンタンといえば、ボルネオ島のことで、ボルネオ島といえばオランウータンの生息地として世界的にも有名だ。そんなステレオタイプ極まりない筆者の連想で申し訳ないのだが、やはり地図を見てもカリマンタンは一面ジャングルというか、緑豊かな島にしか見えない。
インドネシア投資調整省のプロマノ氏によれば、2024年に新たな首都機能をもつことになるヌサンタラ(IKN)では、再生エネルギー、脱炭素、持続可能性をテーマに開発が進められているという。すでに日本政府もインドネシアとIKN開発をめぐる技術、知識、資本における協力を表明している。
フォーラム内では、前出の小野氏が代表を務めるAAI社とインドネシア銀行東京支店との間で調印も行われた。関係者曰く、インドネシア政府と日本企業による投資プロジェクトを潤滑に進めるための協働に関しての調印とのことだ。AAI社がインドネシア政府からの篤い信頼を得ているということが理解できる。
フォーラムの狙いは、インドネシア政府が日本からの投資家や開発協力を行う企業を募ることにある。アフマディ駐日大使によれば、「政府が選定した確実なプロジェクトを用意した」とのことで、その並々ならぬ熱意がうかがわれる。
アフマディ駐日大使は、インドネシア政府は海外からの投資を促進するために、2020年10月に雇用創出オムニバス法案を可決したことも強調。これは、外資規制や建築に関する環境基準や営業許認可などの大幅緩和が盛り込まれた政策のことだ。
基調講演中のインドネシア銀行 アイーダ・ブディマン副総裁。
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「インドネシアの経済はASEANのなかで最大の成長を遂げています。2023年度の第1四半期ではGDPは670兆ルピア(およそ5.8兆円)となり、昨年に比べて5.3%という高い成長率を記録しました。そんななか、日本からの投資額は海外からのなかの5%未満で、それも95%以上がジャワ島に集中しています。それをわたしたちは変えていきたいと思います」(アフマディ駐日大使)
インドネシア銀行のブディマン副総裁は、「インドネシアは7四半期連続で5%以上の経済成長を遂げました」と語り、「ゴールデンビジョン・インドネシア2045」にも触れた。同ビジョンは、インドネシアが2045年に先進国入りを果たし、さらに世界の5大経済大国入りも目指すものだ。
島の数だけ、イノベーションも起こせる?
今回紹介されたプロジェクトは、ジャワ島一極集中ではなく、インドネシアの各地域に散らばっている。つまり、1万数千の島からなるインドネシアでは、当然のことながら各地域の特性や自然も異なり、その風土にあったテクノロジー、専門性や知見が求められる。もちろん、企業だけが潤うだけでなく、地域貢献につながらなければ持続可能な事業とは言えない。
「インドネシアは水が豊富です。だから小水力発電など、日本でも展開されている技術などと相性が良いでしょうね。また、あらゆるプロジェクトについては、参加する企業だけではなく、各地域が活性化することが大切です。小水力発電の場合、住民もその恩恵を受けます。そのような事例の構築も、まだ手探りの状態なのです。
だから、ひとつのモデルが成功すれば、それがロールモデルとなります。そのことで、インドネシア全土で普及しやすくなるので、インドネシア政府としても支援を惜しまないでしょう」(小野氏)
生物多様性の世界的なホットスポットであり、自然資源が豊富なインドネシアの成長こそ、これまでの工業化時代の手法と異なる持続可能なアプローチが必要だ。日本が協働することで得られることは決して少なくないはず。大企業のみならず、我はと思うスタートアップや研究機関は、AAI社に相談してみてはいかがだろう。
インドネシアにおける事業と日本企業の橋渡しを託されるAAI株式会社の小野孝仁・代表取締役。
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なお、インドネシア政府が進めるプロジェクトはこちらから確認できる。
The News Lensより転載(2023年8月10日公開の記事)