学生インターンシップを募集する“とあるマッチングイベント”が開催された。
撮影:横山耕太郎
「学業に支障の出ないようにインターンを設計していて、リモートでも勤務できます」
「社名や会社の規模は関係ありません。伸びている業界に身を置くことをおすすめします」
2023年8月上旬、大学生らと長期インターンをマッチングする“とある就活イベント”が都内で開催された。取材のため会場に入ると、採用担当者らが集まった約70人の大学生らに、熱の込もったアピールを続けていた。
このイベントの特徴は、参加企業の社名を事前に開示しなかったこと。参加した企業8社はブースに企業名を表示することは禁止されており、イベント中盤になって初めて学生に企業名を開示した。
イベントを企画したWantedly(ウォンテッドリー)は「企業名だけにこだわらずに企業を探すきっかけにしてほしい」とイベントの狙いを説明する。一方で“社名を隠したイベント”は、知名度の低い企業にとっても、多くの学生とフラットな目線で接点を持てる機会でもあった。
採用直結のインターンが解禁に
Wantedlyが発開催した「企業名を隠した」インターンイベント。学生70人が参加した。
撮影:横山耕太郎
政府は2025年卒(現在の大学3年生ら)の大学生から、インターンからの新卒採用を“解禁”した。「5日以上」など開催する期間や、夏休み中などの開催する時期などの条件を満たすインターンであれば、インターン期間で得た学生の情報を新卒採用に利用できるように制度が変更された。
こうした制度変更に加え、新卒採用では学生有利の売り手市場が続いていることから、企業はより早い段階で学生と接点を持つため学生インターンの確保に力を入れ、就活の早期化が進んでいる。
ただ、就活を始めたばかりで企業・業界に詳しくない大学生は、インターンの希望先として大企業など一部の有名企業を選ぶ傾向がある。そのため知名度の低い企業はインターン生を集めるのが難しいのが現状だ。
BtoB企業、スタートアップも参戦
8月上旬のインターンイベント。参加企業のブースでは、企業名の表示が禁止されていた。
撮影:横山耕太郎
「新卒を含めた採用につなげるためにも、学生にはインターンを通じて会社を知ってもらいたい」
Wantedlyのインターンイベントに参加したWebマーケティングなどを手掛ける全研本社の採用担当者はそう話す。
全研本社は2021年には東証マザーズに上場しているが、BtoB事業などを展開しているため、知名度の低さがインターン獲得のハードルになっているという。
「通年採用をしているのですが、新卒採用をより強化していきたい。インターンの期間も1カ月の学生もいれば、1年以上働いているケースもあるので学生のニーズに柔軟に応えたい」
スタートアップにとってもインターンの獲得は簡単ではない。
イベントに参加したDX支援・Karorinoは、2022年6月に起業したばかりのスタートアップだ。元freeeで社長の加川大輔氏は「企業の成長のためには中途採用よりも、新卒人材に可能性を感じている。新卒採用を増やすため、長期インターンからの接点が大事だ」と話す。
Karorinoの現在の社員は内定者を含めて約10人。2024年内には30人〜40人に社員数を増やしたいという。
「学生インターン募集をメディアに掲載してもほぼ応募がない。ただ対面イベントに参加すると、事業の面白さや成長性、スタートアップの熱量について伝えられる。
スタートアップの長期インターンシップでは、大手とは違った実践的な経験ができる。将来的に起業したいと思っている学生はもちろん、大学生・大学院生にも広く興味を持ってもらえるようにアピールしていきたい」
「新卒採用はどんどん難しくなっている」
土屋鞄製造所で採用担当を務める西島悠蔵氏。
撮影:横山耕太郎
インターンイベントの参加企業の中で、ひときわ多く学生が集まっていた企業のひとつが土屋鞄製造所だった。土屋鞄製造所は1965年創業の老舗メーカーで、社員数は700人(2023年4月現在)。
2019年から採用担当を務める西島悠蔵氏は「新卒採用はどんどん難しくなっている。今後はインターンからの採用に力をいれていく」と話す。
現在、土屋鞄製造所の新卒採用のルートは、本選考に加え、サマーインターンと長期インターンの3つのルートがある。土屋鞄製造所ではここ数年は約10人〜20人を新卒採用しているが、2年前から始めたサマーインターンでは過去2回とも2人ずつを採用した実績があるという。
2023年8月に実施するサマーインターンでは「採用直結」をうたっており、計20人の定員に対して約500人の応募があったという。
「サマーインターンの成績優秀者については、本選考での面接で優遇します。2022年からは長期インターンを始めて1人新卒採用につながったが、もっと長期インターンからの採用を増やしていきたい」
インターンでより早い段階で接点をつくりたいとする西島氏だが、「採用力のある大手企業と同じ王道の手段では勝てない」と危機感を語る。
「内定を辞退した学生の中には、超大手の人材企業やコンサル企業もありました。そうした企業と戦っていくためには、長期インターンに加えて、大学でのイベントでの働きかけやインターン生を通じたリファラル採用など、『今までとは違う戦い方』をしないと淘汰されてしまうと感じています」
インターン求人、2020年に比べ6倍以上に
企業側の長期インターンの狙いは、「新規採用」が最も多かった。
出典:Wantedly『就職活動とインターンに関する調査』
実際にインターンを経験する学生は増えている。
マイナビの調査「学生就活モニター」によると、インターンシップ参加社数の平均値は、2020年卒では3.6社だったが、2024年卒では5.2社に増加している。
一方で企業側は、新卒採用への布石として長期のインターンに注目している。Wantedlyの就職活動とインターンシップに関する調査(採用担当者219人が回答)によると、長期インターンシップを実施している企業は37%で、実施理由で最も多かったのが「新卒採用につなげるため(72%)」だった。
2位は「戦力として重宝するため(62%)」、3位が「新卒採用につながらなくとも未来の中途採用につながるため(35%)」と続いた。
エン・ジャパンの新卒向けダイレクトリクルーティングサービス「iroots」の事業責任者・田野岡陽介氏は、「今後もさらに就職活動が早期化するなかで、『採用直結型インターン』に取り組む企業は増えていく」と指摘する。エン・ジャパンに掲載されているインターンの求人(短期・長期ともに含む)も急増しており、2023年1月〜6月の求人掲載数は2020年同期に比べ6.3倍になっているという。
進む早期化、大学生に迷いも
撮影:横山耕太郎
一方で、学生の側も長期インターンを含めた「就活の早期化」に翻弄されている面もある。
wantedlyのインターンイベントに参加した成蹊大学経済学部3年生の男子学生は「焦りを感じている」と話した。
「いま予定しているサマーインターンが終わった後も、別の企業の長期インターンにも参加したい。インターンをしてみた企業との相性がよければ入社を検討したいと思うのですが、今なにをすべきかどうか、迷っています」
また法政大学3年の女子学生は、「今のところ1社はインターンが決まってるが、2社は発表待ち」だという。
「インターンに応募しても面接まで進めないこともあるが、大学のゼミが忙しくてなかなか応募できない」
就職活動の早期化は、学業と就活の両立の面などから問題視されてきた。「採用直結のインターン」が解禁されたとは言え、企業側には大学生への配慮が求められている。