「ノンアルは面倒くさい」あえて店を持たないノンアルコールバーテンダーの仕事観|令和的シゴト図鑑 vol.3

令和的シゴト図鑑_赤坂真知

Business Insider Japan

「お酒を飲める人は、そのときの食事や気分に合わせて、たくさんのアルコールの選択肢から好きなものを選ぶことができますよね。それがノンアルだと、コーラかジンジャーエール、そうでなければ烏龍茶と、選択肢があまりにも少ないことに課題を感じていました」

そう語るのは、ノンアルコールを専門に取り扱うバー「Bar Straw」を主宰する赤坂真知(あかさか まなと)さん。

ノンアルが世界的に流行していると言われる今も、国内で「ノンアルコールバーテンダー」を仕事にしている人は、赤坂さんをふくめても、片手で数えるほどもいないと言います。

なぜ赤坂さんはそのようなニッチな職業を仕事に選んだのか、「ノンアルバーテンダー」を仕事にすることの魅力や難しさを語ってもらいました。

ノンアルでも「充実感のある一杯」を

BarStraw

撮影:持田薫

──仕事内容を教えてください。

その名の通りではありますが、ノンアルコールのカクテルを専門に作っています。

ノンアルは、アルコールとの性質の差から、どうしても厚みや満足感を出しづらいんです。でも、ノンアルだからといって、飲んだときに物足りない……となったらイヤだなと思っていて。

例えば、高い度数から生まれる、あのアルコールの“重み”をクリームや寒天などの素材のテクスチャで表現したり、口に含んだ最初の印象から飲んでいる途中、後に抜ける印象をそれぞれ楽しめるように、ハーブ、スパイス、茶葉で香りの層を生んだり……。

試行錯誤しつつ、「飲みやすくて、分かりやすく美味しいけれど、充実感のある一杯」を作るように心がけています。 あと、僕は、「ノンアルコールバーテンダー」として店に所属していたり、店を持っていたりするわけじゃなくて、フリーランスとして活動しています。

他にも、店でドリンクを提供する以外に、ケータリングやノンアルメニューの監修などの依頼をいただくことも増えています。

お酒が飲めても、お酒が適さないシーンは多い

BarStraw

撮影:持田薫

──赤坂さんは、もともとお酒を飲めない体質だったのでしょうか?

前提として、僕はお酒も飲めるし、好きなんです。あるバーで飲んだ創作カクテルをきっかけに、最初はお酒にハマったんですよ。

そのカクテルは透明で、一見水みたいなのに、口に含むとストロベリーチーズケーキの味がして。

といっても生クリームみたいな口当たりがするわけではなく、サラッとしているんです。苺の甘酸っぱさもあるし、チーズの風味もあるし、ほろほろっとしたクランブル生地みたいな香ばしさもあって……え~どういうこと!?と。

「謎すぎるし、面白すぎる」と、一気にカクテルにハマりました。

──なるほど、おいしいカクテルとの出会いからだったんですね。そこから、どうしてノンアルコールの世界へ?

そもそもお酒が飲めない人だったり、そうでなくとも、帰ってまだ仕事をしないといけない、車を運転しなくちゃいけない、女性だったら妊娠・授乳期間……。お酒が適さない瞬間って、たくさんあるじゃないですか。

だけど、そこで飲めるのって、コーラ、ジンジャーエール、アイスコーヒー……そうじゃなかったら烏龍茶地獄みたいな。

お酒を飲めない場合の選択肢があまりにも少なすぎるよなってことが、前々から気になってはいて。

ティースタンドやコーヒースタンドがあるように、「ノンアルでも手の込んだ美味しい飲み物が飲めるスタンドがあればいいのにな」「むしろなんでないんだろう?」とずっと考えていたんです。

そしたら前職を辞めた矢先に「よかったらノンアルカクテルのメニューを考えてイベントで出してくれない?」と知人が声をかけてくれて。

経験はないけれど、興味があったので、よくしていただいていたバーテンダーさんに相談しながらカクテル作りを始めてみました。それが今日までつながっているという感じですね。

「ノンアル」は面倒くさい

BarStraw

撮影:持田薫

──今は若者の間でも「ソバ―キュリアス(あえてお酒を飲まない新しいライフスタイル)」という言葉が浸透してきて、世界的にもノンアルがブームになりつつあるかと思います。現場でも、そのような変化は感じられますか?

……これはちょっと言いづらいのですが、僕としてはノンアルが流行っていると感じることはあんまりなくて。

今の海外の様子とかは直接見ていないので、なんとも言えないのですが、少なくとも日本では流行っているということはないと思います。

3年ほど前、新型コロナが拡大する前ですね。それこそソバ―キュリアスという言葉も出てきたころで、「ニューヨークやロンドンでは、ノンアルコールバーが流行っているらしい」という日本語の記事を何本か見ました。 そこで、ニューヨークへ視察に行ったんですけど、実際は全然流行っているような様子じゃなくって。

ニューヨークで人気のバーとなると、週末とか新規の客が1ミリも入れる気がしないってくらい、もうめちゃくちゃな混み具合なわけです。

でも、当時はまだ1件しかなかったノンアルコールバーに行ったら、そこはガラガラで。 でも、それを見て「やっぱりそうだよな~」と思いました。

──「やっぱり」という感想だったんですね。

そう思うのは、「ノンアル人気が高まっている!」と言われる今もなお、ノンアルを専門でやっている人は全然増えていないからです。

僕が「ノンアルコールバーテンダー」としてはじめてカウンターに立ってから約4年が経ちますが、その間に増えたのは、ほんの数人いるかいないかなんですよ。

新型コロナの影響で、海外の高級なレストランだと、アルコールペアリングを選べるのと同様に、ノンアルのペアリングも用意されているのはスタンダード化してきて、それがちょっとずつ日本に浸透してきているのかなと思うのですが、まだまだニッチな分野かというのが、僕の正直な感想です。

PLANTポップアップ

農園一体型レストラン「PLANT」でのポップアップ。

提供:赤坂真知

──なぜ、ノンアルコールのカクテルをつくる人は増えないのでしょう?

一言でいえば、めんどくさいかつ儲からないんですよね、ノンアルって。

お酒だと、例えばそこに何かを漬け込んで風味を出しても、常温で半永久的に保存できたりするものが、ノンアルだとそれができない。足が早いんです。

そのうえ、「ノンアルなのにお酒より高いのか……」という意識がまだあって、今はお酒の方が一杯の値段を取りやすい雰囲気があります。

追加注文してもらいやすいお酒と違って、ノンアルって何杯も飲むようなものでもないので、そこの差もありますし……。 ビジネスとしても、ノンアルの方が儲かるってことはなくて、さらに面倒や手間もかかる。

というわけで、担い手がなかなか増えていかないんじゃないかなと思いますね。 でも需要は確実にあるからこそ、ケータリングや監修のお仕事をご依頼いただきやすいという魅力もあります。

もちろん、ちゃんと売上が立つ、利益を出せる仕事にしてきたいですけどね。 ノンアルに関しては、飲料メーカー大手も含めてまだ、試行錯誤しながら模索しているところがほとんどですから。

本屋に花屋…「自分の店」以外に立つ理由

BarStraw

撮影:持田薫

──食のシーン以外でも、赤坂さんはノンアルカクテルを出されていますよね。

そうですね。「Bar Straw」は最初、神楽坂にある本屋「かもめブックス」からスタートしたんですが、そのあとにも知り合いの花屋でやるなど、店舗を構えないスタイルで続けてきていて。コラボ形式での出店を、今後も続けていきたいと思っています。

僕は、「食」が食のシーンに閉じすぎていると感じていて。バーも、バーの世界に閉じているし、レストランだってそう。

でも、僕はこれまでバーやレストランにお客さんとして通う中で、「飲食の場ってなんて面白いんだろう……!」と教えてもらってきたという思いがあって。

狭い世界に閉じているのはすごくもったいないから、そういう面白みがもっと外に広がってほしいという思いでやっています。

普通にやっていけば、グルメな人たちに届くのは、自然なことだと思うんです。 でも「ノンアルカクテル」を流行じゃなくて、文化にしていくなら、それ以外の人にも届けていかないと。

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渋谷PARCOの花屋「The Little Bar of Flowers」でのポップアップ。

提供:赤坂真知

──「ノンアル」を文化に育てていきたい、と。

はい。実は僕、「ノンアルコールバーテンダー」を仕事にするまでは、漫画編集、藍染、現代アートギャラリーでの仕事、お茶屋さんなどいろんな場所にお世話になってきたバックグラウンドがあります。

そこのつながりを生かして、普段バーに行かない層にもタッチポイントをどんどんつくっていけたらなと。

食と他のバックグラウンドを持つフィールドとを行き来させることで、お互いのフィールドにとってポジティブなかけ算が起きていけば面白いだろうなって思います。

もし僕が「バーテンダーで世界一になりたい」とか「ミシュランで星を獲りたい」とかなら、僕のやり方は絶対に間違えているんですが、それを目指すにはもう間に合わないし、目指しているわけでもない。

そんな中で、これまでの人がやってこなかったようなことをやる。そういうところに、社会から僕に対する需要みたいなものがあると信じてやっています。

烏龍茶と同じオペレーションで提供したい

BarStraw

撮影:持田薫

──これからさらに、力をいれていきたいことはありますか?

開けたらすぐに飲める「RTD(READY TO DRINK:蓋を開けたらすぐにそのまま飲める飲料)」を作りたいと思っています。

今カクテル業界では、「RTDを作ろう」という機運が高まってきていて。世界的に有名なバーも、今後は店舗をたくさん展開していくのではなく、「RTDのボトルドカクテルを製品化して販売していこう!」としている流れもあるようです。

──赤坂さんがRTDに注目する理由は?

RTDってすごく「手軽」じゃないですか。希釈するタイプもあると思うんですが、それすら面倒くさくて。

例えばワインが売りのビストロで、ワインを飲む人ともいっしょに楽しめるノンアルカクテルを用意できますか?となると、できないわけで。

というのも、単純にリソースの問題で、そういうドリンクを提供するとなると、それだけで人がもう一人必要になってしまうんですね。

ノンアルを浸透させていきたいなら、烏龍茶と同じオペレーションでノンアルカクテルを出せる仕組みをつくらなきゃいけない。

RTDであれば、こちらはただ搬入すればいいだけなので、より多くの人に美味しいノンアルを飲んでもらえるようになるし、ひいては多種多様なフィールドの人たちと食がつながりやすくなるんじゃないかと期待しているんです。

今後はそんな仕組みをつくる仕事にも関わっていきたいですね。

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