米資産運用大手JPモルガン・アセット・マネジメントのインカム優先型上場投資信託(ETF)商品が圧倒的な支持を受けているという。
Screenshot of JPMorgan Asset Management website
上場投資信託(ETF)商品の「JPモルガン・ナスダック米国株式・プレミアム・インカムETF」が競合を圧倒している。
大型成長株の保有とオプションの売却を組み合わせたこのETFは、安定したリターンを期待できるのがまずはポイントだが、一番の狙いはリスクとボラティリティを最小限に抑えつつ高収益を実現することだという。
同ETFの銘柄選別など運用を担当するポートフォリオマネージャー(マネージングディレクター兼米国株デリバティブ責任者)のハミルトン・ライナー氏はInsider編集部の取材に対し、リスク調整後の期待リターン(リスク1単位に対して予想されるリターン、つまり投資効率を示す)の最大化を目指していると説明した。
ライナー氏、それに彼と共同で同ETFの運用を担当するポートフォリオマネージャーのエリック・モロー氏とアンドリュー・スターン氏(いずれもエグゼクティブディレクター)は、年初来リターン22.6%というここまでの運用成績に満足している。
ただし、大型成長株が2022年の暴落からここまで回復する展開(ナスダック100指数は8月23日時点で年初来約39%の上昇を記録)はさすがに予想できなかったようで、「運が良いに越したことはありません」とライナー氏は率直に認める。
商品提供元の米金融大手JPモルガン・チェースによれば、同ETFの資産残高は47億ドル、足元でも過去にないペースで投資家からの資金流入が進んでいる。運用開始は2022年5月、同種のETFとしては最速ペースで40億ドルの大台を突破したという。
JPモルガンが販売する成長株ベースのインカムETF(株式配当とオプションプレミアムの組み合わせなどの戦略で高利回りを目指す)に欠陥を見出すのはなかなか難しい。
魅力的な8.7%の利回りから、7パーセンタイル順位(モーニングスター調べ、8月23日時点)という年初来リターンまで、AIドリブンの先進的アプローチに言及するまでもなく、同ETFが傑出していると言える理由はいくらでも挙げられる。
AIは多くの人が考えるのとは違う形で役立つ
ライナー、モロー、スターンの3氏によるポートフォリオ運用は偶然に成功を収めたわけではない。
実際には、長所も短所も踏まえた上でインカム(株式配当や債券利子、オプションプレミアムなど)を優先する、慎重に練った戦略を用いることで、際立った結果を残すことに成功したのだ。
ライナー氏はこう語る。
「インカム投資が時代遅れになることはありません。インカムに関心を持ち、必要とし、獲得したいと考えるのは、いつの時代もどの投資家も同じなのです。インカムはポートフォリオの先行きを示す指標のようなものです」
ただ、インカム投資は時代に左右されないとは言え、2022年はさすがに厳しかった。
米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げサイクルの影響で金利が上昇し、インフレ調整後の利回りはマイナスに落ち込み、債券は過去最悪のリターンを記録した。
それでも、ライナー氏らは苦境に陥った債券を手放すことはなく、結果として2023年に入ってからはポートフォリオの必需品となった。
もちろん、債券はインカムを得るための唯一の手段ではない。
配当株からは安定的な収入を得ることが可能だし、株価指数を原資産とするオプションの売却はポートフォリオのリスクを抑えつつプレミアムを得て収益を若干積み上げることができる。
JPモルガンのインカムETFはまさにそうした戦略を活用して高利回りを実現する商品だ。
一方、値上がり益を目指す株式銘柄の選別についてはモロー氏が担当しているが、全てを自前で判断しているわけではなく、人間の力も人間以外の力も借りて最善の判断を目指している。
JPモルガンのインカムETFの場合、AIモデルを活用して、情報の宝の山とも言うべき財務諸表などからデータを収集・選別し、適切な投資先を探し出すのに役立てているという。
モロー氏は次のように説明する。
「可能な限り多くの財務情報を徹底的に分析することで、企業の財務状態がどう推移していくのか、より正確に予測できると考えています。
そのあたりの原理や法則に目新しいとか、革命的とか、AI特有の何かとかがあるわけではありません。従来とは異なるアプローチで問題に取り組むことができるようになる、ただそれだけのことです」
「将来の展開を完全に予測できるわけではありません。しかし、我々の予測における不確実性の程度や、そのような不確実性が生まれる原因を特定し、定量化することにより、その分析情報をポートフォリオ構築の段階で活用し、調査プロセスから把握されるリスクとリワードのバランスを最適化したポートフォリオを構築することができるのです」
JPモルガンのETF組成に際してAIが果たす役割は単なるスクリーニング以上のものではあるようだが、それにしても最終的に組み込み銘柄を決めるのは機械ではなく、人間のポートフォリオマネージャーであることも注目に値する。
モロー氏によれば、どの銘柄を適格としてポートフォリオに残すかは、主に個別企業の調査・分析をベースとしたボトムアップのアプローチで決めるという。
ただし、ライナー氏とモロー氏によれば、同ETFの組み込み銘柄はナスダック100指数への緊密な連動を目指し、トラッキングエラー(標準偏差で表現したリターンの乖離)が2〜3%に収まるよう設計されている。
したがって、ETFの構成比率上位の銘柄は、モロー氏が推奨もしくはオーバーウェイト判断とする銘柄と必ずしも重なるわけではない。
注目される7つの分野・銘柄
インカムETFの投資プロセスを説明した上で、モロー氏は足元で強気と判断している分野についても語った。
AIを活用した上での強気判断ではあるものの、それらの分野に分類される銘柄のバリュエーションが「若干先走って」いる、つまり株価が妥当な水準を上回って推移しているため、モロー氏は慎重に見定めているところだという。
そうした懸念がある分野を除くと、モロー氏は「エレクトリフィケーション(電動化)やオートメーション(自動化)」に関連する企業と「部品メーカー」や「半導体メーカー」を強気とする。
そうした注目分野の具体的な推奨銘柄としては、「NXPセミコンダクターズ(NXP Semiconductors)」「シノプシス(Synopsys)」「ネクステラ・エナジー(NextEra Energy)」などが挙げられると、モロー氏は語った。
NXPセミコンダクターズはオランダに本拠を置く半導体メーカーで、同社製チップは電気自動車(EV)を含めた自動運転車に不可欠の基幹部品と位置づけられる。まさにモロー氏の眼鏡にかなう企業の典型だ。
また、シノプシスも半導体メーカーで、本拠は米シリコンバレー。AIブームで特殊な半導体への需要が高まっており、同社の半導体設計支援(電子設計自動化、EDA)ツールはその大きな恩恵を受けるという。
同社の株価は年初来37%超の上昇(8月24日終値)と絶好調だが、株価収益率(PER)は約66倍とバリュエーションが極めて高く、弱気筋には向かない銘柄だが、予想PERに目を向けると約34倍で許容範囲内と言える。
最後のネクステラ・エナジーはフロリダ州に本拠を置く電力・エネルギーインフラ企業で、再生可能エネルギー分野のリーダーだ。
2022年8月にアメリカで成立した「インフレ抑制法(IRA)」の効果が本格的に浸透するにつれ、ネクステラの業績を後押しし、株価のアップサイドも大きくなるとモロー氏は指摘する。