パンデミック下のリモートワーク普及で一躍時代の寵児になったズーム(Zoom)のエリック・ユアン最高経営責任者(CEO)。
Carlo Allegri/AP
ビデオ会議アプリの代名詞とも言える存在に成長したズーム(Zoom)のエリック・ユアン最高経営責任者(CEO)が、近ごろ社内会議で驚くべき内容の発言をしていたことが明らかになった。
Insider編集部が独自入手した録画によると、ユアンCEOは従業員に対し、同社製品の主戦場であるリモートワークではオフィス勤務に比べて従業員同士の信頼関係が築きにくく、イノベーティブな仕事も難しいため、定期的な出社義務を設定することにしたと語った。
具体的に言えば、オフィスから50マイル(約80キロ)以内に住む従業員には、最低週2日の出社が義務づけられた。
指示を出すに至った第一の理由は、従業員同士の関係の変化にあるという。
「最初の頃はみんなが互いを知っていました。けれども、ここ数年は採用を強化して同僚が一気に増えたこともあり、互いに信頼関係を築くのが本当に難しくなっています」(ユアンCEO)
「信頼はあらゆる取り組みの礎(いしずえ)であって、それなしではなかなか前に進めません」(同)
第二の理由が、ズーム経由ではイノベーションを生み出す会話や議論ができないことだという。
「素晴らしいアイデアを思いつくことは少なくないと思いますが、全員がズームに参加している状態だと、なかなかそれが出てこないのです。
会話や議論も同様で、ズーム経由だと誰も彼もがフレンドリーな態度になりがちなので、素晴らしいやり取りというのが生まれにくいのです」(ユアンCEO)
こうしたズーム経営トップの発言内容は、同社のテクノロジーがリモートワーク環境の実現と維持に大きな役割を果たしてきたことを考えると、オフィス出社の義務付け決定と併せて、さすがに驚きを禁じ得ない。
パンデミックによる行動制限を受け、世界の多くの企業が在宅勤務もしくはリモートワークの必要性に迫られたここ数年間、場所を問わず同僚たちとオンラインで接続し、業務を遂行するために不可欠なインフラの代表格として、ズームは文字通り「時代の寵児」となった。
グーグルの「ミート(Meet)」やマイクロソフトの「チームズ(Teams)」など強力な競合アプリに押され気味の現状はあるものの、いまだにビデオ会議を行う際に「ズームできる?」といった動詞が通用するほどの存在感を誇る同社の経営トップが、自らビデオ会議の限界を指摘したのは極めて大きな変化だ。
とは言え、他のテック大手の動きと比較する限り、ズームの定期出社義務化は厳格なポリシー変更とまでは言えない。
アマゾンは2月、大部分の従業員に対して週3日のオフィス出社義務を通達。さらにその徹底に向け、最近、チームごとに割り当てられたハブオフィスの近所に引っ越すか、社内の別ポジションに応募してチームを移るか、さもなくば「自主退職」という厳しい選択肢を突きつけている。
また、メタ・プラットフォームズも8月中旬、週3日以上の出社義務(6月開始)を遵守しない場合、失職する恐れがある旨を社内ワークスペースで明らかにした。
メタの場合、2020年5月というパンデミックのかなり早い段階でマーク・ザッカーバーグCEO自ら、2030年までに同社従業員のおよそ半分がリモートワーカーに置き換わるとの大胆な見通しを語っており、その急激な方針転換は「豹変(ひょうへん)」と話題を呼んでいる。
ズームにコメントを求めたが返答は得られなかった。