日本にない「アルコール度数3.5%」のビール市場創出に向け、アサヒビールは主力ブランド「スーパードライ」の新商品を発売する。
撮影:湯田陽子
10月の酒税法改正(ビール減税)第2弾に合わせ、アサヒビールがアルコール度数3.5%の缶ビール「アサヒスーパードライ ドライクリスタル」を発売する。
アルコール度数5%が中心の日本のビール類市場に、3.5%前後の「ミドルレンジ」と呼ばれる新たな市場を創出することを狙う。
そのパイオニアとして開発した新商品について、アサヒビール社長の松山一雄氏は8月23日の会見で次のように語った。
「味を犠牲にせず、ビールのアルコール度数をどこまで下げられるのかに挑戦した。(ニーズとしては低アル志向の強い)若い世代が中心かもしれないが、(年齢を問わず)『自分のライフスタイルにピタッとはまるビールがない』と思っている方たちがコアターゲット」(松山社長)
10月11日、350ミリリットル缶、500ミリリットル缶の2タイプを全国で発売。2023年末までに150万箱、2030年に年間1000万箱の販売を目指す。
値上げしても「ビール回帰」の勢い止まらず
日本のビール購入者の推移(2020年3月〜2023年6月)。
提供:アサヒビール
ビールや発泡酒、第三のビール(新ジャンル)といった「ビール類」については、2026年の税率一本化に向け、段階的に酒税法を改正し税率を調整している。
2020年の改正第1弾では、ビールの税率が77円から70円に軽減(350ミリリットルあたり)。発泡酒などとの税率差が縮まったことで、縮小傾向にあったビール市場が盛り返す「ビール回帰」現象が起きた。
アサヒビールによると、この3年間でビール購入者は14%増、市場も約2倍に増加したという。同社は2022年10月出荷分から原材料費・物流費などコスト上昇のためビールを含む商品の値上げに踏み切ったが、それでも購入者は減らなかったという。
「値上げによる影響は大きなリスクと見ていたが、ビール回帰の流れは止まらなかった。これは重要なポイントだった」(松山氏)
ビール回帰の動きはアサヒビールの予想を超えていたようで、「この流れは2026年の税率一本化に向けさらに加速する」(松山氏)と予測する。
機能性をあえて訴求しない理由
一方、商品のラインアップとしては近年、糖質オフといった機能性(スペック)に着目した商品が次々と登場。今回発売するドライクリスタルも、通常のスーパードライに比べ、糖質は6割減、カロリーは4割減となっている(350ミリリットル缶で比較)。
しかし、アサヒビールは今回、「機能性をあえて訴求しない」策に打って出た。
「機能系のビール類に関しては、おそらく日本が一番発展していて、当社も含めてすでに色々なブランドがある。また、糖質オフと書いてあるために『カッコ悪いから買わない』という人もいる」(松山氏)
成熟した市場でパイを食い合うより、市場の拡大につながる新たな価値を生み出したい。その1つの答えが、今回の「ドライクリスタル」開発だった。
日本にない「3.5%市場」の創出へ
新商品「アサヒスーパードライ ドライクリスタル」について、アサヒビールの松山一雄社長(右)と梶浦瑞穂マーケティング本部長は「新しい価値を提案する未来志向の商品」と話す。
撮影:湯田陽子
開発のきっかけとなったのは、ライフスタイルの多様化にともなう新しいニーズ「低アルコール志向」だ。
世界ではいま、ビール市場全体が横ばい傾向にある中で、アルコール度数3.5%以下の商品が安定的に成長。2022年の販売容量は2013年比で18%増となり、過去最高を記録した。
日本でも低アル・ノンアル飲料の人気が高まっており、新商品も続々と登場している。
とはいえ、海外に比べると選択肢はごくわずか。発泡酒や新ジャンルも含めたビール類に関しては、アルコール度数5%の商品が約7割で、4%台、6%台を含める4〜6%で全体の97.8%を占めている状況だ。
「日本ではメインストリーム(5%前後の商品)に集中していて、お客さまのニーズを満たすことができていない状況にある」(松山社長)
目先のヒットより「10年後のど真ん中」
ビール回帰の勢いに乗っているうちに、画一的な日本のビール市場に風穴を開け、新たな市場を生み出す。その挑戦を、ビール減税第2弾のタイミングにぶつけようというわけだ。
「酒税法改正第1弾で分かったのは、それまでビールを飲まなかった人がビールを買うようになったこと。(それを踏まえて)今回はリニューアルではなく新商品で新しい価値をぶつける、ビールを飲まなかった人に今までにない価値をぶつけることによって、(ビール類)市場の拡大を戦略的に狙っている」(松山氏)
目指すは、目先の大ヒットより「10年後のど真ん中」だ。
その意図について、マーケティング本部長の梶浦瑞穂氏は次のように語った。
「今回のドライクリスタルは新しい価値提案(の商品)で、10年後のど真ん中をつくりたいという思いがベースにある。10年後20年後にこのブランドを飲んでいただいている方が(ビール購入層の)ど真ん中になってほしい。そう信じてやっている」