アメリカで活躍する日本のスマートホームスタートアップがあるというので、体験してきた。
撮影:小林優多郎
「スマートホームは本当に『未来の家』なのか」
スマートホームとは照明や空調などの家電がネットにつながり管理・操作できる住宅のことで、日本でもグーグルやアマゾン、アップルなどのプラットフォームが広がり、大手家電メーカーからスタートアップまでさまざまなプレイヤーが登場している。
筆者はテック系分野を追う記者として各種ツールを導入しているが、いまだに周囲ではスマートスピーカーやディスプレイで家電を操作している人は肌感覚ではあまり見ない。
常に冒頭のような必要性を考えてしまうわけだが、日本のスマートホームのスタートアップ・HOMMA(ホンマ)とNTT都市開発がタッグを組んで、アメリカでスマートホームの実証実験を9月1日から開始すると聞き、ひと足さきに「未来の家」を体験してきた。
場所はマサチューセッツ州ボストンの郊外。集合住宅の一室にある。
撮影:小林優多郎
玄関の扉にはキーパッドが。事前に教えてもらった番号を入力すると扉が開く。いかにもスマートホームっぽい。
撮影:小林優多郎
今回実証実験に使われる部屋は寝室とバスルームが2つ、キッチン兼ダイニング、仕事部屋といった構成の113平方メートルの部屋だ。
撮影:小林優多郎
こちらがメインの寝室。実証実験のモデルルームのような立ち位置というのを加味しても、第一印象としてはスッキリした部屋。
撮影:小林優多郎
正直、スマートホームの実証実験と聞いていたので、もっとロボット掃除機やスマートスピーカーがごろごろ置いてあるものかと思ったが、パッと見は普通のキレイな家である。
撮影:小林優多郎
しかし、実際に滞在してみるとその印象がやや変わる。この家では電灯がほぼすべて自動でつく。各部屋のボタンはもちろん、スマートアシスタントに命令しなくていい。
撮影:小林優多郎
自動で照明がつくのは、寝室から浴室、納戸まで張り巡らされた人感センサーによるもの。部屋に入ればゆるやかに電灯がつき、人がいなくなって一定時間経てば自動で消える仕組み。
撮影:小林優多郎
各部屋にはボタンも用意されているが、これは電灯をつけるためのものではなく、「シーン」を切り替えるなどの機能を持つ。
撮影:小林優多郎
シーンとは、簡単に言えば家電の一括制御のことだ。気分やTPOに応じて電灯の色味を変えたり、部屋を横断して電気をつけたり消したりできる。
撮影:小林優多郎
例えば寝室のベッドの隣のボタンを押せば部屋の電灯を強制的に消せた。寝る時はその部屋にずっと「居る」状態になるので、ボタンが必要だと感じた。
撮影:小林優多郎
シーンはプリセットされているものがあるが、手元のスマホアプリを使えば、個別に家電を操作したり、シーンを自分好みにカスタマイズしたりできる。
撮影:小林優多郎
またシーンは曜日・時間帯に応じても変えられる。平日の朝は早めに電灯をつけて起床。土曜日の夜はちょっと夜更かししやすいように消灯時間を少し遅めに……といったことが可能だ。
撮影:小林優多郎
電灯だけではなく、今回の部屋の場合は空調や玄関の鍵もアプリから操作できる。
撮影:小林優多郎
窓のブラインドも電動だが、体験時点ではまだリモコン操作のみの対応だった。今後、アプリと連携して「朝はブラインドが一斉に開く」ようなことも可能になる。
撮影:小林優多郎
一見すると地味、それでも特別な体験と感じた理由
部屋に泊まれたのは1泊だけだったが、“常識を変えられた”というのが率直な感想だ。
分かりやすい機能をあげるのであれば、電灯が自動、空調を切り替えられる、玄関の鍵がキーレスで開けられるなどがあるが、筆者のように自宅でトイレのライトからテレビまでスマート化している人間にはやや物足りなさを感じる。
だが、今回の未来の家の真価は「体験」にある。
1泊の短い間ではあったが、『未来の家』の体験は新鮮なものが多かった。
撮影:小林優多郎
筆者の家の場合、何か家電を操作するには「命令」が必要だ。分かりやすく言えば、スマホやスマートスピーカーを、声を出したりやタッチしたりと操作する必要がある。
HOMMAとNTT都市開発がタッグを組んだ今回の家では、それがほとんどない。家が居住者をセンサーで認識して自動ですべてやってくれるわけだ。
さらに、そのための電機的なファンクションも最低限に抑えられている。センサーやボタン類はすべて壁や天井に埋め込まれており、宅内の家電やセンサーを統括する心臓部は、普段はあまり開けない押入れとクラウドに収められていた。
正直、最初は電灯が付くのかソワソワしたが、一晩ゆっくりと過ごし、部屋から出る頃にはすっかり慣れていた。帰国後に自宅で電灯をつけるのに声やボタンを押すのが少しわずらわしかった。
例えば壁のボタンは家電量販店やアマゾンなどで買えるレベルの民生品だった。
撮影:小林優多郎
HOMMAの技術担当者によると、これらのUXの実現には「独自のハードウェア」はあまり使われていないという。
基幹となるソフトウェアは独自で開発しているものの、例えば部屋に埋め込まれたスイッチや玄関のキーパッドは一般消費者でも買えるものだった。天井のセンサーや電灯も規格自体はアイリスオーヤマの法人向け無線制御技術「LiCONEX」(ライコネックス)を使ったものだったが、これも今回の実証実験やHOMMAの手がけるスマートホームの専用機材というわけではない。
実証実験の家と同じことは、人感センサーを買ってきて、アプリでセットアップすれば自宅でもできそうではある。だがそれではどうしても「後付け」になってしまい、センサーの最適な取り付けや、設定自体のシンプルさなどのUX(ユーザー体験)を完全に真似するには骨が折れるだろう。
ボストンに来て「アイリスオーヤマ」の文字を見ることになるとは思わなかった。
撮影:小林優多郎
このスマートホームの肝は、いかに新築やリフォーム時からスマートホームを前提にした設計をするか、またそれをどう柔軟に一括制御をするか、という点にある。
そういう意味では、誰でも手に入る「手軽な未来の家」とは言えないが、逆に新築やリフォームの際に手をかければ他の家には真似できない体験が得られる、ということでもある。
HOMMAは主にアメリカで事業を展開しており、本間毅社長によると現時点で日本での事業展開に関して「具体的な計画はない」とのことだが、日本発のスタートアップとしてその可能性には期待したいところ。
なお、Business Insider Japanでは後日、本間社長とNTT都市開発に聞いたスマートホーム戦略をレポートする。
(取材協力・HOMMA)