アパレル業界はサプライチェーンの環境負荷が高い業界だ。その中にあって、エドウインやユニクロが「中価格」でリサイクル製品を次々と商用化している。
リサイクルにはコストがかかり、最終製品も高くなるはず……。なぜ両者は「手の届く価格」でリサイクル製品を提供できるのだろうか。
累計2000万本のジーンズにリサイクル素材を
リサイクル生地を使ったエドウイン503。COREの表記がある。
撮影:三ツ村崇志
エドウインの旗艦モデル「503」は2022年秋発売分以降、全商品で素材の一部に「リサイクルデニム」を使用している。
原料は、国内工場の製造工程で出た端材や、直営店や同社に寄せられた使用済みデニムだ(他社のデニムも含む)。金属パーツを取り外し、リサイクルできる状態に処理。デニム地を、紡績メーカー・クラボウの工場で切り刻み、粉砕して綿の状態に戻す。クラボウには、この綿を糸にしてデニム生地を織るまでを委託。できあがったデニム生地をエドウインが縫製・ウォッシュ加工する。
裁断した生地を綿の状態に戻す。
画像:エドウイン
「503」は1997年に発売された製品。「03」は、レギュラーストレートの品番だ。
エドウインと言えば、それ以前までは400番台の「インターナショナルベーシック」が定番商品だった。当時、新商品には「ワンランク上のモデルを」という意図で500番台が付けられ、今やエドウインを代表する商品となった。累計販売数は2000万本を超えた。
発売から25周年たった2022年、フルリニューアルに伴いデニムの裁断くずや店頭で回収したデニムを綿に戻して再生素材として活用することに踏み切った。
1着あたり約25キロの二酸化炭素を排出
服を作る上で生じる負荷。
画像:環境省
アパレル業界は、原材料の調達から素材の生産、染色、裁断、縫製、輸送、販売といった長いサプライチェーンで成り立っている。
素材には化学繊維や化学染料を使い、ファスナーに金属、ボタンにプラスチックを使うなど、それぞれの部位・工程での環境負荷が生じる。環境省によると、服を1着作るのに、原料調達から製造段階まで25.5キログラムの二酸化炭素が排出される。廃棄も多く、国内では1人当たり、年間12着の服が廃棄などで所有者の手から離れる。
デニム業界も例外ではなく、エドウイン内にも「メーカーの責任として、サステナブルな取り組みを進めねば」という危機感があった。社内で「時代の要請もある。エドウインを象徴する製品で、もっとも売れている503をすべてリサイクル由来にしよう」との声が上がった。社内には懐疑的な意見もあったが、2019年に決定した。
リサイクルデニムで作った503は2022年秋から全国の店頭に並んだ。価格は1万円(税別)。量販店などで販売している2000~4000円台のデニムに比べれば高価格帯だが、デニムメーカーの製品としては平均的な価格だ。エドウイン製品の中でも中価格帯に属する。
なぜ中価格帯で販売ができるのか
エドウインといえば日本の老舗ジーンズブランドだ。
撮影:三ツ村崇志
鄭達二ブランディング&マーケティング推進部長は
「使命感からリサイクルに取り組んだとしても、高価格帯の製品しか作れないようでは意味がない。計画当初から、手が届く価格帯で供給することを目標にした」
と振り返る。
なぜ、中価格帯で販売できたのか。
秘訣は、デニムをリサイクルする機械の稼働率にあった。リサイクルデニムの材料となる端材などは、クラボウ工場内の「反毛機」という機械を使って綿にしている。ただ、デニム由来の端材は藍色の染料が付いて、布を切り刻む歯など機械部品に色が移る。工場としては、他社からリサイクルを委託される生地もあり、白いリサイクル綿に藍色が色移りしてしまうリスクがあった。
そこで両社は、エドウインから持ち込まれたデニム専用のラインを設定することで合意した。これで色移りの心配もなくなる上、ラインの切り替えがなくなり稼働率も高くなった。
高稼働率でコスト低減
商品名やサイズなどが書かれている紙タグにも、裁断くずなどを活用している。
撮影:三ツ村崇志
専用のラインを稼働させ続けるには、リサイクル原料の確保はもちろん、そこで製造した再生綿を利用してつくる商品も相当量確保しなければならない。
エドウインでは、リサイクル原料を確保するために、店舗や自宅からの回収システムを構築した。503ブランドサイトでも「サステイナブルなものづくり」を打ち出しているほか、店頭でのデニム回収への協力も呼びかけている。これまでの実績では、年間で1万本の回収ペースだ。また、国内工場で出る端材の50~60%もリサイクルに回している。
供給先も、503にすべてリサイクル地を使用にすることで確保した。フルリニューアル前後で価格は8900円から1万円(税別)と上がったが、これは物流費・原料価格の上昇分であり、リサイクルによる価格上乗せはほぼないという。機械の稼働率を高く保つことが、ひいてはリサイクルのコストを吸収することになった。
リサイクルならではの技術的困難も数々あった。一連の工程では、デニム地由来の綿を糸にするのだが、繊維長が十分ではなく単体では糸を作れない。そこで、新品の綿も配合して糸をよる。生地にした時に十分な強度が出るよう、新品の綿の配合調整を繰り返した。
エドウインにはリサイクル503の発売後、「良い取り組みだ」というメールが寄せられたほか、「自分の愛着のあるデニムを生まれ変わらせてほしい」という手紙付きで履き古したデニムが寄せられることがあるなど、消費者の感触は良好だ。デザインのリニューアルも追い風となり、前年同期比150%の売り上げで推移している。
難しい「服→服」リサイクル
エドウインでは、修理・修繕サービスも展開。エドウインブランド以外のジーンズも対象だという。
撮影:三ツ村崇志
アパレル業界では、エドウインに限らず資源を再利用する取り組みが進んでいる。その手法もさまざまだ。例えば、「修理・修繕」という視点では、ユニクロやザ・ノースフェイスは一部店舗で修繕窓口を設置している。エドウインでもオンラインで修繕・修理を受け付けている。
服に使われる化学繊維を、服以外の材料に転換する手法もある。古着などを裁断し、綿状にして、燃料や自動車の防音材、断熱材などの材料にするのだ。こうした服の再利用手法の中で、「服を服にリサイクルする」のは、手間やコスト、運営の持続性から難易度が高く、エドウインもかつては自動車断熱材向けに端材を出荷していた。
しかし「自社内で資源を循環させる仕組みを」との理念で、503のリサイクルデニムを開発したというわけだ。
ユニクロはダウンジャケットを再利用
撮影:小林優多郎
ユニクロも「服から服へのリサイクル」の取り組みを進める。
2019年から、ダウンジャケットのリサイクルを開始。店頭で回収したジャケットからダウンを取り出して、新しいジャケットに利用する。リサイクルした羽毛を使ったジャケットは2020年秋冬シーズンから販売していた。販売開始前には、62万着のダウンジェケットが集まったという。
リサイクルダウンには専用ロゴが刻まれている(写真は2020年秋冬モデル)
画像:ファーストリテイリング
布団やダウンジャケットなど、羽毛が含まれる製品をリサイクルするのは、従来、手作業だった。縫製を解いて、生地をはぐのには手間がかかる。ユニクロを運営するファーストリテイリングは、化学メーカー・東レが開発したダウン分離機械を使うことで課題を克服した。
機械にダウンジャケットを丸ごと投入し、短冊状に裁断した後、回転させ、遠心力を使って、ダウンのみを取り出すことができる。処理能力は、手作業に比べて50倍だ。
東レの開発した機械にはダウンジャケットを丸ごと投入。
画像:ファーストリテイリング
販売価格はオンラインストアで7990円(税込)。「ウルトラライトダウンジャケット(3Dカット・ワイドキルト)」より1000円高価格だ。これは、リサイクルゆえのコストではなく「商品価値を上げたことによるもの」(ファーストリテイリング広報担当者)だという。
ただ、2万~3万円台が主流のアウトドア用品メーカー製品などに比べれば、割安感はある。
ユニクロの取り組みは、長年商品開発で協力してきた東レの技術力を生かした点が特徴だ。ただ、機械を効率的に稼働させ続けるには、やはり、リサイクル回収品の量を確保しなければならない。これはエドウインが抱えていた課題と同様だ。
同社は、ダウンのリサイクル手法を説明する動画や自社ホームページを駆使して、ダウンジャケットの回収を呼び掛けている。従来は新商品を売るために使っていたPR・マーケティングの資源を、リサイクルにも振り向けた形だ。
服から服へのリサイクルを続けるためには、技術力に加えて、原料回収・リサイクル製品供給の双方の量を確保する力が求められている。