エヌビディアの決算発表はインパクトがあったが、そのバリュエーションは投資対象としては不適切だと市場のベテランが警告している。
Rick Wilking/Reuters
市場はエヌビディア(Nvidia)に心を鷲掴みにされているが、少なくとも一人のベテランは、人工知能(AI)のパイオニアである同社に好意を示していない。
ウォール街はカリフォルニア州サンタクララに本社を置く半導体最大手のエヌビディアにすっかり熱を上げている。2023年、同社の株式はS&P500指数の構成銘柄で最高のパフォーマンスを挙げてきた。同社は第2四半期について途方もなく高い業績予想を示していたが、8月23日の取引終了後に行われた決算発表ではそれを上回ってみせた。
業績予想を達成し、前年同期比で売上高を2倍以上に伸ばした上に、エヌビディアは再びアナリストの予想をはるかに上回る水準で次の四半期の見通しを立てた。
同社の株価はすでに年初来で228%上昇したとはいえ、ウォール街の各方面でエヌビディアの目標株価がさらに引き上げられたのは頷けることだ。バンク・オブ・アメリカ(Bank of America)は、現在株価より35%高の650ドルを目標としており、ローゼンブラット証券(Rosenblatt Securities)に至っては129%高となる1100ドルの目標株価を披露して注目を集めた。
快挙のエヌビディアが大失速する可能性
しかし、ウォール街の誰もがエヌビディアに対して強気でいるわけではない。
テネシー州ナッシュビルに本拠を置く投資調査会社ニューコンストラクツ(New Constructs)のデビッド・トレーナー(David Trainer)CEOは、エヌビディアは非常に魅力的だが、今の並外れた期待に応えることはできないと考えている。
「エヌビディアは株式市場における新たなテスラ(Tesla)と言えるでしょう。株式市場はばかばかしいほど割高な、非現実的な評価を闇雲に与えています」と、トレーナー氏は8月24日にInsiderに宛てたメールに書いている。
「エヌビディアが素晴らしい会社であることは否定しません。ただ、その評価が不当で、割高を通り越していると指摘しているのです」
そしてトレーナー氏はこう続ける。
「投資家はエヌビディア株を追いかけるべきではありません。割高すぎるからです。投資家がエヌビディア株の購入を検討していいのは、1株あたり100ドルを下回った場合だけでしょう」
エヌビディアの株価は、2020年半ば以降100ドルを下回っていないが、2022年秋にはその水準に迫った。トレーナー氏が適正価格と考える株価水準に達するには、史上最高値から約80%下落しなくてはならないことになる。これは惨憺たる下落幅だが、前例がないわけではない。
今のところ、エヌビディアは向かうところ敵なしのように見えるが、コインベース(Coinbase)、ショッピファイ(Shopify)、スナップ(Snap)など、かつて話題になった成長株も同じだった。かつてトレーナー氏はこれら3銘柄に疑義を呈し、最終的に彼が正しいことが証明された。ただ、これら3社に関する彼の弱気シナリオが実現するまでには、しばらく時間がかかった。
重要なのは、トレーナー氏がAIについて悲観的でないことだ。AIが一定の期待を集めるのは当然のことだと彼は認めている。ただ、エヌビディアは現在この分野のリーダーであるが、すぐに同業他社が追い上げ競争が激化するだろうと警告もしている。
「人工知能はエキサイティングなテクノロジーであり、エヌビディアは素晴らしい企業であることは承知の上ですが、投資家は企業のバリュエーションに注意を払う必要があります。現在の評価で同社株を購入することは賢明ではありません」
現在の評価に応えるには、エヌビディアは今後25年間、年間売上高を毎年20%伸ばす必要があるとトレーナー氏は指摘する。数年にわたってそれ以上の成長率を挙げることは可能だとしても、長期的にこれを維持するとなれば困難さは増す。
代わりに買うべきAI銘柄3つ
エヌビディア株の奇跡のような上昇機会を逃した投資家はおそらく後悔しているだろうが、上昇相場を逃すよりもつらいのは下落相場でやけどを負うことだ。
難しいかもしれないが、トレーナー氏はエヌビディアの株主には直ちに利益を確定すること、傍観者には動かないことを強く勧めている。
「これほどの短期間で達成されたエヌビディアのばかげたバリュエーションから我々が改めて知ったのは、『取り残されることへの恐怖』は今もなお健在であり、投資家の間で決してなくなることのない、非常に危険な現象であることです。良い株と悪い株があるのだから、投資家は資金配分を熟考する必要があります」
トレーナー氏によれば、目下のAIブームでより賢明に立ち回るには、AIテクノロジーにインフラを提供する3つの企業に投資するのが一つの方法だという。
その3社とは、KLAコーポレーション(KLA Corporation)、フォトロニクス(Photronics)、シリコンモーションテクノロジー(Silicon Motion Technology)だ。これらの半導体関連3社は、株価収益率(PER)が11.5倍から20倍の間にあるという点で際立っている。一方、エヌビディアは本稿執筆時点で254.4倍(実績収益ベース)と、途方もない水準で取引されている。