ブラックロックのラフィー・フィンクCEOは共和党のESG批判のターゲットになっている。
Brendan McDermid/Reuters
2022年9月下旬、世界最大の資産運用会社ブラックロック(BlackRock)は米証券取引委員会(SEC)に対して、新しいETF(上場投資信託)を申請した。同社はこれまで何百回と同じことを行ってきたが、今回の目論見書には、ESG(環境・社会・ガバナンス)の要素を考慮し、州や地方自治体が発行する債券へのエクスポージャーを投資家に提供する、とある。要するに、320億ドル(約4兆6400億円、1ドル=145円換算)の資産規模を持つ同社の米地方債ETFのESGバージョンだ。
ETFは多くの場合、資産運用会社の申請から数カ月で発売されるが、遅れることも珍しくない。SECは通常、ETF運用会社の申請に対して約3カ月以内に回答する。
だがブラックロックは2022年秋の申請後、ほぼ毎月、このETF「iShares ESG Aware ICE-HIP Muni Bond」の発売延期を申請、業界関係者を困惑させている。
「起業家精神が旺盛な、小規模な会社ではよくあること。しかし、大手ではあまり見たことがない」
ETF運用会社、アルファ・アーキテクト(Alpha Architect)のウェスリー・グレイ(Wesley Gray)CEOはそう語る。
ESG投資には今、アメリカで大きな批判な広がっている。各州の検事総長や有力議員などが、ブラックロックのESG投資アプローチを批判。共和党の大統領候補たちは選挙戦でESGというコンセプトを否定し、持続可能な投資を政治問題化した。
ブラックロックは、運用資産残高3兆2000億ドル(約464兆円)、約1300のETFを保有する世界最大のETF運用会社として、こうした批判の最大のターゲットになっている。同社は2022年、アリゾナ州、テキサス州、サウスカロライナ州、その他16州の検事総長に対して、ESG関連の取り組みへの投資は、受託者の義務に沿ったものだと回答している。
ブラックロックの広報担当者は、申請期間の制限を理由に本記事へのコメントを控えた。
「(延期は)ブラックロックのような企業にとっては珍しいこと」とコネチカット州に拠点を置くETF運用会社、タトル・キャピタル・マネジメント(Tuttle Capital Management)のマシュー・タトル(Matthew Tuttle)CEO兼CIO(最高投資責任者)は語る。
「私が思うに、ブラックロックが遅らせようとしている理由は、1年前には素晴らしく思え、うまくいったアイデアだから。誰もがESGに夢中だった。はっきり言って、ESGの観点からは、ESGを推進する州に投資する地方債は素晴らしい。だが今は、1年前と同じように評価されることはないだろう」
ブラックロックの競合他社も同様のETFを販売している。ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)は2023年、社会・環境要因を考慮した初の地方債ETFを売り出した。
ブラックロックのラリー・フィンク(Larry Fink)CEOは先ごろ、ESGという言葉が武器のように扱われるようになったため、ESGという言葉を使わないと述べた。一方、ブラックロックが8月23日に発表したレポートによると、気候その他の環境問題に関連する株主提案は399件あったが、取り入れたのは26件のみで、提案のクオリティは全体的に低下したという。
ブラックロックは最近もサステナビリティを謳った商品を発売している。同社によると、2022年にはアメリカをはじめとする市場で50以上のサステナブルETFとインデックスファンドを発売、全体で254のサステナブルETFをグローバル展開しており、うち40はアメリカで上場している。サリム・ラムジ(Salim Ramji)氏が率いる同社のETF・インデックス投資部門は2022年、2200億ドル(約31兆9000億円)の資金を集めた。
「商品開発の観点からは、プロセス全体をチェックし、開発または発売される商品が当初想定されていたニーズを満たしているかどうかを明確にすることはいいことだ」とブラックロックとゴールドマン・サックスでETFを担当した元エグゼクティブで、債券ETF運用会社のボンドブロックス(BondBloxx)を共同創業したトニー・ケリー(Tony Kelly)氏は述べる。
「アイデアの追求を決定してから、発売までの間に多くのことが変わり得る」
ブラックロックのESG地方債ETFには、もうひとつ注意点がある。
このETFは、インデックス大手ICEが開発したインデックスに連動した成果を目指す。インデックスは、投資インパクトを評価する調査・格付け会社HIP Investorが提供するESG指標に基づいている。つまり、ブラックロックのこのETFも多くのETFと同様、世の中にポジティブな変化をもたらす「インパクト・ファンド」を目指しているわけではなく、企業にリスクをもたらすESG要素を考慮したものだ。
また2015年以降、株主視点に立つ非営利団体のAs You SowとHIP Investorは、CEOの報酬制度に対する株主の反対票を含め、業績や他の要因に比して「報酬が多すぎる」と判断したCEOのリストを毎年発表している。フィンクCEOは100人中、2022年に33位、2023年に30位となった。
なお、HIP InvestorとSECにはコメントを求めているが、現時点で回答は得られていない。