中国の不動産販売は今年に入って停滞が鮮明になっている。
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2年にわたって膠着していた中国の不動産業界の債務問題が、再びメディアをにぎわせている。新築住宅価格の下落、恒大集団の米国での破産申請とニュースが相次ぐ中で、最も不気味なのは、業界最大手「碧桂園」のデフォルト危機だ。同社の経営体制を紹介した前回に続き、今回は信用不安に発展した背景について解説する。
9月のXデー向け債権者との協議続く
碧桂園の信用不安は、ドル建て債2本の利払い2250万ドル(約33億円、1ドル=145円換算)を8月2日の期日までに実行できず、30日間の猶予期間に入ったことをロイター通信が報じて表面化した。10日には2023年1~6月の最終損益が450億〜550億元(約9000億〜1兆1000億円、1元=20円換算)の赤字に転落する見通しを発表、一部債券の償還についても不確実性があることを公式に認めた。
碧桂園は現在、支払い期日が迫る私募債について「今後3年で7回に分けて分割償還する」ことを債権者に提案し、協議中だ。一部の債権者は期日通りの全額償還を要求しており、8月25日までの予定だった協議は今月いっぱいに延長された。同社は2022年末時点で1兆4348億元(約29兆円)と恒大に次ぐ規模の債務を抱える。経営再建には金融債務の再編がカギになるが、今回の私募債のほか10本の社債が取引停止になっており、綱渡りが続きそうだ。
恒大集団の債務危機が世界を揺るがした2年前、真っ先に論じられたのが「恒大1社の問題か、業界全体の問題か」だった。
筆者作成
中国の不動産企業は借り入れによって建築資金を調達し、数年後の住宅販売で回収する自転車操業方式で規模拡大を続けていたため、「借りられるだけ借りる」レバレッジ経営が定石で、巨額の債務は問題視されていなかった。
だが2020年夏、市場の過熱を抑えるため中国人民銀行が「3つのレッドライン」と呼ばれる3指標(負債の対資産比率70%以下、純負債の対資本比率100%以下、手元資金の対短期負債比率100%以上)を示し、基準をクリアできない企業の資金調達を制限したため、各社はキャッシュの確保を迫られることになった。
業界2位の恒大は当時2~3指標で引っ掛かっており、新たな借り入れを制限された結果、社債償還や債務の返済にも支障が生じた。「3つのレッドライン」の数値が恒大より悪い企業はいくつもあり、政府はこれらの企業が破綻するのは織り込み済みだったはずだ。
だが、業界最大手の碧桂園や4位の融創中国に影響が及ぶとなると、それは業界どころか中国経済を揺るがす危機となる。
融創は恒大ほどの深刻さがないにしても、2年間にわたって不安定な経営が続いている。8月17日に発表した業績予想では、2023年1~6月の純損益を150~160億元(3000~3200億円)の赤字と見込み、ホテルなど3プロジェクトの売却を進めていると説明した。
一方、碧桂園は嵐が吹き荒れる不動産業界で債務の支払い遅延を起こすこともなく、有利子負債の総額も着実に減らしていた。2022年末時点で負債の対資産比率は69.4%、純負債の対資本比率が40%、手元資金の対短期負債比率160%以上と、3つのレッドラインも全てクリアしている。バランスシートは改善しているのに、なぜ今頃信用不安に至ったのだろうか。
想定以上の市況悪化で持ちこたえられず
碧桂園のプロジェクトは中小都市に集中している。
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碧桂園の幹部は中国メディアの取材に対し「不動産市場の縮小の深さ、激しさ、長さがいずれも予想を超え、経営改善が追いつかなかった」と語っている。
2年前に恒大ショックが起きたとき、世界は「リーマンショックの再来か」「年内まで持つのか」と注視したが、実際には恒大集団はデフォルトを起こしても破綻はしていない。海外メディアの関心も次第に薄れた。
破綻すれば工事がストップし、同社の物件を購入した消費者にしわ寄せがいく。政府は恒大を救済したくはないが潰すわけにもいかず、地方政府が経営再建を支援していた。だが中国はゼロコロナ政策の長期化などで景気が減速し、消費マインドが徐々に悪化していった。
中国の不動産市場は将来の値上がりを期待する投資商品として取引される面が大きい。経済の先行き不安、不動産企業の経営不安と2つの不安が重なり、不動産市況は2022年以降軟調な地合いが続く。
国家統計局が今月15日に発表した1〜7月の新築販売面積は前年同期比4.3%縮小した。新築の在庫面積は7月末時点で1年前から19.5%増え、需給の悪化が鮮明となっている。
北京や上海など1級都市の不動産価格はなお高止まりするが、3級以下の都市の市場の停滞が顕著で、比較的小規模な都市で多数のプロジェクトを抱える碧桂園の販売にもブレーキがかかった。
同社の8月の発表によると、今年1~7月の販売額は1408億元(約2兆8000億円)と前年同期から35%減少、2021年同期比では61%減っている。販売の急減に加え信用力の低下でドル建ての債券発行もほぼ不可能になった。
碧桂園は圧倒的に体力があり、他社と比較すれば経営も安定していた。しかし不動産不況が2年続いたことで、ついに資金繰りに支障が出始めたわけだ。
不動産企業の6割超が赤字
不動産市場全体が縮小しているため、当然ながらより規模の小さい不動産企業も危機的状況にある。中国の報道によると、7月末時点で70社超が2023年1~6月の業績予想を発表しているが、6割の44社が純損失を計上する見通しだ。
今月22日には不動産大手の遠洋集団が、資金繰りの悪化で元本残高20億元(約400億円)の人民元債の償還が困難になり、債権者に期限の延長や分割返済などを提案すると発表した。
本来の償還期日は8月2日だったが支払うことができず、猶予期間を1カ月設けた上で28日から債権者との協議に入るという。同社は22日、2023年1〜6月期の最終損益が183億元(約3600億円)の赤字だったとも発表した。
業界関係者や専門家は政策支援を求め、対岸の火事ではない地方政府も相次ぎ支援策を打ち出している。ただ、消費者に購入を促す政策は焼け石に水だし、支援策は問題の先送りにつながりかねず、政府も手を焼いているのが実情だ。
碧桂園の信用不安はただでさえ脆弱になっている不動産市場にとどめを刺すとも懸念される。そして債権者や政府が何らかの譲歩をしない限り、恒大以上の危機を引き起こしかねない。
浦上早苗: 経済ジャーナリスト、法政大学MBA実務家講師、英語・中国語翻訳者。早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社(12年半)を経て、中国・大連に国費博士留学(経営学)および少数民族向けの大学で講師のため6年滞在。最新刊「新型コロナ VS 中国14億人」。未婚の母歴13年、42歳にして子連れ初婚。