ズーム(Zoom)は4月、従業員エンゲージメント強化プラットフォーム「ワークビーボ(Workvivo)」の買収を発表した。
Workvivo
ビデオ会議アプリのズーム(Zoom)の社内で、同社の新たな製品に関して、経営陣から興味深い説明があったようだ。
Insider編集部が独自ルートで確認したオンライン全社会議の録画によると、ズームの経営幹部は、春先に買収した従業員コミュニケーション向上ツールの「ワークビーボ(Workvivo)」について、マイクロソフトが提供する競合製品「ビーバ(Viva)」に対し、売上高シェアで最大8割を獲得できると発言した。
ズームは4月、アイルランドに本拠を置くワークビーボを買収すると発表した(買収手続き完了は2024年初頭を予定)。
8月3日に開かれた上述の全社会議での経営幹部の発言によれば、同社は近ごろ、ワークビーボを社内に全面導入した模様だ。
一方、マイクロソフトは似たような名前の従業員エンゲージメント改善プラットフォーム、ビーバ(Viva)を自社開発して2021年にリリース。2023年2月のアップデート時には、企業向けソーシャルサービス「ヤマー(Yammer)」の機能を統合し、看板を「ビーバ・エンゲージ(Viva Engage)」に掛け替えた。
ワークビーボのDJケーヒル最高商務責任者(CCO)は、冒頭触れたように、マイクロソフトのビーバを直接の競合製品と位置づけた場合、ワークビーボは7〜8割の売上高シェアを獲得できるとの見方を従業員に対して示した。
「負ける可能性はほとんど、本当にほとんどありません。たとえ(一時的に)売上高で後塵を拝することがあるとしても、ユーザーは3カ月ないしは6カ月もあれば戻ってきてくれるはずです。
(マイクロソフトの)ビーバへの乗り換えはとにかく厄介で、ユーザーエクスペリエンスはあまりに使い勝手が悪く、ユーザーはビーバを使っていてはやりたいことがやれないとすぐに気づくでしょうから」
また、エリック・ユアン最高経営責任者(CEO)は、マイクロソフト製品の「使い勝手の悪いユーザーエクスペリエンス」は、同社のアカウントエグゼクティブ(法人営業担当)に「巨大なチャンス」があり、「より素晴らしい製品を擁する当社にはもっと売り上げを伸ばす余地がある」ことを意味すると発言した。
ワークビーボの経営陣は全社会議の場で、売上高に関して具体的な数字を明らかにしていない。
ただ、最近まで小規模なスタートアップにすぎなかった同社の製品が、ズームによる買収および全社導入という追い風があったにせよ、マイクロソフトとすでにこの時点で売上高で並んだ可能性は低い。
従業員エンゲージメント(従業員の会社への貢献度や理解度、積極的コミュニケーションなども含む)は、ワークプレイス製品を拡大強化して次なる成長分野としたいズームにとって、絶好のターゲットの一つと言える。
同社は2023年第2四半期(4〜6月)決算で黒字を確保したものの、売上高成長率は3.6%と伸び悩んだ。
ズームが8月21日に発表した2024会計年度第2四半期(5〜7月)決算。売上高は前年同期比3.6%増の11億3876万ドルだった。
Zoom Q2 FY24 Earnings
そうしたパッとしない業績の影響もあって、株価は過去12カ月間で約16%下落(8月25日終値)、パンデミック下の2020年10月に記録した最高値との比較では、約88%の下落となっている。
Insiderが8月23日付(日本語版は翌24日)記事で報じたように、ユアンCEOは従業員に対し近ごろ、自社製品の主戦場であるリモートワークの限界を語るなど、従来のビジネスモデルの行き詰まりを露呈している。
具体的には、同社製品の主戦場であるリモートワークではオフィス勤務に比べて従業員同士の信頼関係が築きにくく、イノベーティブな仕事も難しいため、定期的な出社義務を設定することにしたと語り、オフィスから50マイル(約80キロ)以内に住む従業員に最低週2日の出社を義務づけた。
従業員エンゲージメント向上ツールは現在のところ、従業員向けチャットツール、ゴールトラッカー、従業員ディレクトリなどを統合したソフトウェアとして提供されており、市場としては比較的新しい。
市場調査会社のフォーチュン・ビジネス・インサイツ(Fortune Business Insights)の試算によれば、現在の市場規模は9億1100万ドル(約132億円)で、2030年までに3倍の27億5000万ドルへと成長するという。
なお、マイクロソフトとズームにコメントを求めたが、いずれも得られなかった。