オーストラリア、モスマン・ゴージにある世界遺産デインツリー熱帯雨林を歩く訪問者、2012年11月14日撮影。
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- 樹木の温度が上がりすぎると、栄養をつくるための光合成がうまく働かなくなる。
- 熱帯林の林冠温度が華氏116度(摂氏46.7度)を超えると、光合成機構の機能不全が始まる可能性がある。
- この研究により、人類が回避すべき閾値が初めて明確に示された。
樹木の温度が上がると、樹木は、葉の気孔を閉じて、水の蒸散を止めようとするが、そうなると二酸化炭素が取り込めず、光合成が抑制される。高温の状態があまりに長く続くと、植物の生命活動の根幹である光合成が正常に働かなくなる。
植物は自らを養えなくなり、死に向かい始めるということだ。米国チャップマン大学の生物学アシスタントプロフェッサーを務める科学者グレゴリー・ゴールドスミス(Gregory Goldsmith)は、プレスリリースのなかでそう述べている。
では、あらゆる兆候が示しているように、このまま世界の温暖化が続いたら、いったい何が起きるのだろうか。
ネイチャー誌に2023年8月23日付で発表された研究では、熱帯樹木の林冠温度が華氏116度(摂氏46.7度)になると、光合成に支障が出始めることがわかった。
また、小さい割合(0.01%)ではあるが、現在でもすでに葉の一部が、少なくとも1シーズンあたり1回は、この閾値を超えていることもわかった。世界の温暖化が続けば、熱帯雨林の林冠の多くが枯死する可能性があるわけだ。
とはいえ、この論文の中で、研究チームはこう述べている。
「こうした炭素、水、生物多様性の重要な領域の運命を決める力は、まだ我々が握っている」
これまで知られていなかったこと
葉緑体がクロロフィル(葉緑素)を運ぶため緑色に見える。これらの葉緑体は、各細胞内を循環している。
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研究論文の著者の1人であるゴールドスミスによれば、極端な高温によって葉が光合成できなくなることは、以前から知られていた。だが、「熱帯雨林の林冠がその限界にどれほど近づいているかをはっきり示したのは、この研究が初めてだ」という。
「熱すぎる」とされる閾値を決定するために、研究チームは、国際宇宙ステーション(ISS)に搭載された、大地表面の温度を測定する機器「ECOSTRESS」と、熱帯雨林の温度観測タワー、そして、林冠の葉の一枚一枚にはりつけた無数のセンサーから集めたデータを使用した。
上述した3つから集めたデータを統合すれば、葉の機能に支障が出始めるタイミングがわかる。葉は、樹木全体の健康状態をいち早く告げる先触れだ。
この研究の対象になったのは、ブラジル、プエルトリコ、パナマ、オーストラリアの森林だとサイエンス・アラートは伝えている。
変わらなければ、人類は破滅へ向かう
サンフランシスコの市街地を走る自動運転車「クルーズ」。
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木が自らを維持するために必要な栄養は、光合成によってつくられる。したがって、光合成が妨げられれば、植物はいずれ飢えて死ぬ。
生きた植物は、光合成の際に二酸化炭素を取りこむので、大気中の温室効果ガス量の調節に貢献している。だが、植物が枯死すると、その体にたくわえられていた炭素が、すべて大気中に放出される。
熱帯雨林は、地表のおよそ12%を占めているという推計がある。したがって、前述した高温の閾値に到達すると、地表の多くを覆う樹木の全体が枯れ始め、それとともに温室効果ガスが大気中に放出されるかもしれないと、ノーザン・アリゾナ大学のエコ・インフォマティクス教授のクリストファー・ダウティ(Christopher Doughty)は述べている。
2012年の研究によれば、熱帯雨林のすべての木が枯死したら、推定228.7ペタグラムの炭素が大気中に放出されるという。
1ペタグラムは1ギガトン(10億トン)に等しい。228ペタグラムは、2022年の1年間に全世界で排出された炭素量の6倍に相当する。
「そのすべてが大気中に放出されれば、気候変動が加速する」とダウティは言う。ダウティはこの研究で、熱帯雨林の木に登り、林冠の葉にセンサーをひとつひとつ丁寧にはりつけた人物だ。
今回の研究では、熱帯雨林の葉のうち0.01%が、すでに支障をきたす熱の上限に達しているとされているものの、測定には誤差があるかもしれないとダウティは釘を刺している。
この研究の測定値は、世界の主要地域から収集できたデータに基づいているが、実際のところ、全世界の熱帯雨林の葉の温度を測定できたわけではない。
アマゾン熱帯雨林の林冠。
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前述の推定値は、地上で集めたデータと宇宙からのデータを組み合わせて算出したものだが、その推定から若干のずれが生じる可能性もある。とはいえ、さらなる気候変動を防ぐための行動を何も起こさなければ、この予想が現実になるかもしれないとダウティは言う。
ただし、気候変動に関する現在の協定の履行や、熱帯雨林の破壊の抑制といった、それほど極端ではない変化も役に立つはずだ。そうした変化は、地球屈指の生物多様性を誇る生態系の悲劇的な消滅を回避する大きなチャンスになるかもしれない。ダウティはそこに希望を見出そうとしている。
「悲観はしていない」とダウティは話している。