自律制御装置が取り付けられたフォークリフト。(一部画像を加工しています)
撮影:三ツ村崇志
NECが「フォークリフト」の自律遠隔搬送技術を開発したことを8月28日、発表した。2024年物流問題などを見越し、人手不足解消狙う。
NECは、今回の取り組みを共同で進めてきたNIPPON EXPRESSホールディングス(以下、NXHD)の倉庫などで実証を進めた後、2024年以降の展開を目指すとしている。
既存のフォークリフトに「後付け」する自律制御装置を開発
物資を自動で運ぶフォークリフト。
画像:NEC
物流倉庫内では、トラックで搬送されてきたさまざまな物資をフォークリフトによって移動し、整理する必要がある。
現状、基本的にフォークリフトは人が操作しているが、物流量が増加傾向にある中で、フォークリフト資格保有者は減少している。そうした環境下で、フォークリフトによる事故で労働災害が発生するなどの課題も表面化してきている。
物流拠点である倉庫内のオペレーションが滞り物資の入搬出に時間がかかると、配送トラックの稼働効率を下げることにもつながりかねない。トラック運転手の時間外労働の上限規制の強化に伴い、物流が滞る「物流2024年問題」にも拍車が掛かる可能性がある。
フォークリフトメーカーなどは、自律運転機能を持ったフォークリフトの開発などを進めてはいるものの、初期導入コストの高さなどもありなかなか普及には至っていない。
今回開発したシステムを使えば、コントローラーで遠隔操作することも可能だ。
画像:NEC
そこでNECでは、既存のフォークリフトに「後付け」できる自律遠隔搬送技術を開発。人の手で操作する必要があるケースでは手動操作に切り替えたり、さらに遠隔からコントローラーを使って手動で管理・操作したりすることもできる。
「1番の狙いは、いかに持続可能な物流を実現するかです。将来的にすべて自動化していく流れにあると考えていますが、倉庫などの物流現場ではまだまだ人の手が残っている。一気に自動(自律)化するのが難しい実態がある中で、まずは人が倉庫に行かなくても作業ができる状態を作ることが(全自動化)に近づく手なのではないかと思いリモート化を考えました」(NEC・担当者)
全てを自律化して運転ができれば、そのメリットは分かりやすい。ただNEC担当者は、リモート化によるメリットも非常に大きいのではないかという。
フォークリフトを操作する人が複数拠点に対応できるようになり、稼働効率が上がることが期待できる。また、そもそも倉庫内は労働環境が過酷だ。夏は密閉された空間でクーラーも効きにくく、中には倉庫自体が冷凍庫のように寒いこともある。フォークリフト操作者の労働環境を改善する上でもメリットがある。
倉庫内の環境を把握して、精密な自律制御
撮影:三ツ村崇志
NECが開発した自律遠隔搬送を実現するシステムは、比較的シンプルだ。
通信用の無線機に加えて、フォークリフトの周辺環境を撮影するカメラが4台。レーザー光で空間情報を測定できる「LiDAR」2台。これに、ハンドルやアクセル、ブレーキなどの駆動装置を制御するアクチュエーターを装着している。
空間情報を認識するセンサーであるLiDARが2台搭載されている。
撮影:三ツ村崇志
自律制御モードでは、カメラなどのセンサーから得た情報を踏まえ、クラウドでフォークリフトの移動ルートを生成し、移動する。フォークリフトの現在地は、事前に読み込ませておいた倉庫内の空間情報マップと、実際にカメラで撮影した周辺の様子を照合することで認識。この認識には画像認識AIを活用している。
移動経路ごとにリスクの高さを判定し、低リスク時にはハイスピード、高リスク時には低スピードと、リスクに応じて柔軟な対応を取る。また、リアルタイムで移動ルートを見直しており、移動経路中に障害物が現れてもうまく障害物を避けるように移動経路を再設定することができる。
なお、無線で通信しながら制御しているため、通信環境に応じて0.1秒オーダーのラグが発生することが想定されるという。通信環境が良いことに越したことはないが、このあたりは、実環境でどの程度リスクになるのか検証しなければならない点になるだろう。
QRコードの付いたパレットを認識してうまく運んでいた。
撮影:三ツ村崇志
また、物資が載っている「パレット」を画像認識AIで認識して、倉庫内の指定の場所に自動で運ぶことも可能だ。NECとしては、トラックで運ばれてきた荷物がトラックバース(トラックが駐停車するスペース)に並べられた後に、検品所や倉庫内の棚に運ばれる格納作業を最初のターゲットに見据えている。
「荷物を検品所に運んで検品したあとに格納するのが一般的なオペレーションですが、ここが人手不足で止まると運び込んだ荷物を倉庫内に入れられなくなります。2024年問題を考えても、倉庫の外側(トラック)を円滑に動かすためには、まず内側をしっかり整理整頓してボトルネックにならないようにするべきだと」(NEC・担当者)
NECは、事前に記者向けの説明会を実施し、自律的に積荷が載ったパレットを認識して、格納用の棚に運ぶまでの一連の動作をデモンストレーションした。細かく周辺環境の情報を取得しながら、棚と棚の狭い間にも衝突することなくパレットを運ぶことができていた。
一方で、速度面では「人が動かした方が早いのでは」と、やや物足りなさも感じた。
これについて、NECの別の担当者は
「PCの性能にもかなり依存する部分はあるので、現場環境を把握してスピードを上げることは可能だと思います。また、現場でどれぐらい危険なのかを確認すればスピードを変えることもできる」
と語る。
また倉庫によって、棚の配置や移動可能なスペースの広さなど、状況はかなり異なる。比較的広い倉庫であれば、確かにベテランのフォークリフト資格者の操作の方が早いかもしれないが、非常に狭い空間で慎重に操作しなければならないようなケースでは、センサーで確実にリスクを避けながら自律制御する方が優位な場合もあり得る。NECとしても、今後、実際の倉庫でどういう使い方をすれば効率化できるか検証していく方針だ。
自律制御でフォークリフトとほぼ同程度の幅の通路にぶつかることなく入っていった。手動操作でもかなり難しい。
撮影:三ツ村崇志
また、動作が遅かったとしても、夜間など人が作業していない時間帯に絶え間なく作業できることは大きなメリットになる。
トラックから積み下ろす際にはひとまず仮置場のような場所に積荷を集めておき、多少時間がかかっても夜間の時間帯に自律操作のフォークリフトが倉庫に格納しておく……というオペレーションが実現できれば、労働者にとっては深夜作業が減らせ、企業にとっては人件費や事故リスクも減らせる。
もちろん、中には一気に積み下ろしから格納までをやらなければならない商品もあるが、そういったケースでは、自律制御ではなく搭乗操作・遠隔操作に切り替えて対応する。既存のフォークリフトに「後付け」するからこそのメリットだ。
NECとしては、フォークリフトを自律制御する「ハード」を販売するのではなく、自律遠隔操作システムの販売というSaasモデルでの展開を目指している。