日立製作所と東武鉄道は、共同で運営するIDプラットフォームの立ち上げを発表した。
撮影:小林優多郎
日立製作所と東武鉄道は8月29日、生体認証を活用したデジタルアイデンティティの共通プラットフォームの立ち上げを発表した。
まずは2023年度中に東武グループ傘下のスーパー「東武ストア」の複数拠点で同プラットフォームに対応したセルフレジを展開する予定。
日立と東武は、東武グループ傘下のスポーツジムやホテル、観光施設などへの導入も検討しており、将来的には鉄道や東武グループ以外の企業での利用も見越している。
まずは東武ストアで「手ぶら決済」実現、酒類販売の簡便化も
プラットフォームの概要。ちなみに、正式名称はまだ存在せず、日立の担当者によると「受け入れられやすいような名前を検討しており、東武ストアでの実証実験開始の前には決定する」予定とのこと。
撮影:小林優多郎
「生体認証を活用したデジタルアイデンティティの共通プラットフォーム」というとかなり難しく聞こえるが、シンプルに言えば「会員情報や決済情報などを1つの場所にまとめて、複数の企業、サービスで使えるようにする」ものだ。
その情報を引っ張ってくるための鍵となるのが生体認証で、今回のプラットフォームでは指静脈と顔の2種類に対応。東武ストアの実験では指静脈の方にのみ対応する。
利用シーンはさまざまだが、東武ストアでの例では、セルフレジでの商品購入時に事前に登録した手指をかざすだけで、年齢確認、クレジットカード決済、TOBU POINTの付与が完了する。
特に従来のセルフレジでは、酒類などの年齢確認商品が販売できず、別途店員による確認などの作業が必要だった。しかし、プラットフォーム側でしっかりと登録時に年齢確認と本人確認を済ませておけば販売できる、というわけだ。
東武ストアの実証実験で使われるセルフレジ。
撮影:小林優多郎
東武ストアでの実証実験の場合は、店頭の専用端末で初回登録を行い、本人確認は運転免許証やマイナンバーカードでチェックするという。
また、このプラットフォームを採用する店舗が広がれば、ユーザーの同意を得た上ではあるが、東武ストア以外でも初回登録不要で同様の体験ができるようになる。
「手のスキャン」は約2秒でOK
会場では実際のセルフレジのデモを実施した。手を専用機器にかざす時間は約2秒程度。基本は従来のセルフレジと同様の手順となるため、セルフレジが問題なく使えるのであれば難しさはない。
商品を読み込んだところ。年齢確認商品であるビールには「20歳」のマークがついている。
撮影:小林優多郎
画面と声の指示に従って端末に端末に手をかざす。指静脈認証には約2秒かかる。
撮影:小林優多郎
デモで発行されたレシート。決済方法の欄には「静脈決済」と書かれていた。
撮影:小林優多郎
さらに、同プラットフォームの特徴としては、クレジットカード情報や名前、性別、住所なども保存しておけるので、例えば住所変更時に紐づいている各サービスの会員情報を一括で変更できるほか、店舗を横断した特定商品の購入キャンペーンなどを実施できるという。
前者の登録情報の一括変更機能はTOBU POINTで導入を検討中。後者のマーケティング機能は2023年度中に飲料メーカーとの実証実験を開始する方針だ。
東武鉄道の自動改札利用は「なるべく早く」
今回のプラットフォームが目指す活用シーン。
撮影:小林優多郎
現時点で見えているところでは東武グループ内での利用になるため、同社の生活圏のユーザーであれば、利便性は高まるだろう。
また、東武では今回のプラットフォームの活用を本業である鉄道にも活用することも視野に入れている。
東武鉄道の常務執行役員を務める山本勉氏。
撮影:小林優多郎
8月29日の会見に登壇した東武鉄道の常務執行役員を務める山本勉氏は、電車やバスへの利用について「方法や時期は申し上げる段階ではない」としつつも、「個人的にはなるべく早く導入して(客に)利便性を提供したい」と述べた。
なお、プラットフォームの開発を担う日立製作所の担当者は「(指静脈認証にかかる)2秒というスピードには改札で使うには遅い」とし、「顔認証であれば遠くから認証を始められ(て速度を稼げ)るので、改札で使うのであればそっち(顔認証)ではないか」と述べている。
山本氏が説明したように改札への活用について細かい方法などは日立と東武でまだ詰めている最中のようだが、例えばJR西日本・大阪駅では顔認証を活用した自動改札の一般利用が始まっている。
旗振り役は日立と東武。今後の広がりが課題に
日立と日立と東武の示したロードマップには、東部グループ外への展開も明示されている。
撮影:小林優多郎
気になるのは、このプラットフォームの広がりだ。実証実験では日立の技術力と東武の多様なユースケースのある業種が組み合わさって、さまざまな知見が得られるように思える。
日立の開発担当者によると、例えば登録できるクレジットカードや付与するポイントなどは東武カードやTOBU POINT以外も選べる仕様で、セルフレジも今回のプラットフォームと複数のメーカーのレジを接続できる仕様は想定しているという。
日立製作所 マネージドサービスサービス事業部 事業部長の吉田貴宏氏。
撮影:小林優多郎
ただ、開発ベンダーとして大手である日立が根幹を握っていることと、東武鉄道が単なるプラットフォームの利用者ではなく、運営者として関与することを考えると、競合する開発ベンターや他の鉄道各社が導入する機運は低いように思える。
日立製作所で今回のプラットフォームの責任者を務める吉田貴宏氏は競合が今回のプラットフォームに加わる可能性について「共感できるような企業であれば、東武と相談して一緒にやっていけると考えている」と説明。
システムの管理は日立製作所が担当するが、プラットフォーム全体の運営については東武も参画。今後共同出資会社などを立ち上げて業界全体に広く参加を募るかどうかは「今後、協議したい」(東武・山本氏)と述べるに留まっている。