コクヨが運営する複合施設「THE CAMPUS FLATS TOGOSHI(ザ・キャンパス フラッツ トゴシ)」。
撮影:土屋咲花
キャンパスノートなどで知られる文房具メーカーのコクヨが、住宅事業に乗り出す。
品川区戸越の社員寮をリノベーションし、シェアハウスやカフェ、スタジオを備えた複合施設「THE CAMPUS FLATS TOGOSHI(ザ・キャンパス フラッツ トゴシ)」として9月1日からオープンする。
8月29日、報道陣向けに施設を公開した。
文房具会社から「豊かな生き方を創造する企業」に
コクヨ経営企画本部イノベーションセンターの荒川千晶さん。
撮影:土屋咲花
なぜ、文房具の会社が住まいを作るのか。
「昨今の事業環境の変化、あるいは人々の価値観の変化を受けて、コクヨは自らの社会における役割というものをワークアンドライフスタイルカンパニーと再定義しました。文房具や家具といったカテゴリーにとらわれない豊かな生き方を創造する企業になることを目指しています」
コクヨ経営企画本部イノベーションセンターの荒川千晶さんは、内覧会でこう説明した。
コクヨは2021年、長期ビジョンを策定。文房具や家具の総合メーカーから多様な事業の集合体へと変革し、2030年に売り上げ5000億円を目指すとしている(2022年12月期の売上高は3009億円)。集合住宅の運営に乗り出すのもこの一環だ。
スモールビジネスに挑戦できる
カウンター席を備えたスナックスタジオは、飲食店営業許可付きのキッチンが完備されている。
撮影:土屋咲花
コクヨは2021年2月、東京・品川の自社ビルをリニューアルし、低層部にコーヒースタンドやショップなど地域住民も利用できる施設を備えた「THE CAMPUS」をオープンした。今回のザ・キャンパス フラッツ トゴシもこの流れをくみ、地域に開かれた複合施設になっている。
施設の特徴を見ていく。
建物は地下1階、地上5階建て。2階から5階に39戸の賃貸住宅、地下1階と1階は住人以外も利用できる「スタジオ」とカフェが入る。
コクヨが「最大の特徴」とするのは、「スタジオ」と呼ぶ施設だ。
ヨガやダンスに使用できるフィットネススタジオ、料理教室などに利用できるクッキングスタジオ、飲食店営業許可付きのキッチンのほか、ミーティングや1on1レッスンなどの会議室需要に応えるブース席など、様々な用途に対応した8種類のスタジオを備えている。
有料の予約制で、誰でも利用できるという。スタジオを使って収益を上げる事も可能だ。
例えば、飲食店営業許可付きのスナックスタジオでは、バーやカフェなど自分の店を出すことができる。
折りたたみベッド完備のビューティスタジオは、マッサージやメイク、着付けなどに利用できる。
「ザ・キャンパス フラッツ トゴシのコンセプトは、 住みながら、いつかやりたかったことを試せる『プロトタイプする暮らし』です。働き方や暮らし方が多様化して、どう生きるのかという選択肢が飛躍的に増えている今、 次の人生のライフステージを模索できるような、そんな大切な時間を提供します」(荒川さん)
利用予定者からは「テストマーケティング的にマルシェを開催したい」「コーチングの資格を生かして、スナックでお悩みバーを開きたい」といった希望が寄せられているという。
ヨガやダンス教室などで利用できるフィットネススタジオ。開放感のある吹き抜けになっている。カーテンで外から見えないようにすることもできる。
撮影:土屋咲花
折りたたみベッドを備えたビューティスタジオ。マッサージなどのリラクゼーションや、メイク、着付けなどでの利用を見込む。
撮影:土屋咲花
部屋は子会社「アクタス」の家具付き
2階から5階は居住スペースで、シェアハウスと賃貸住宅が混在したような形態になっている。広さや設備の異なる5タイプの部屋がある。いずれの部屋もキッチンと洗濯機は共用だ。
全室にコクヨの子会社、ACTUS(アクタス)の家具が備え付けられている。居室のほか、ロッカーやアトリエ、リビングなどを追加で借りることもできる。
賃料は月額7万7000円~14万8500円で、最低3カ月からの入居が可能だ。
シンプルなワンルームタイプの居室。冷蔵庫やデスク、ベッドは備え付け。トイレやシャワーは共用のものを利用する。
撮影:土屋咲花
2人での入居が可能な部屋もある。
撮影:土屋咲花
居室とセットで借りられるアトリエ。このほかにリビングもオプション室として用意している。
撮影:土屋咲花
入居手続きは「ちょっとめんどくさい」
「今回ターゲットとしているのは、これからのキャリアを模索したいとか、自分の得意や好きを発信したい、今の活動をもっと本格化したいといった、趣味以上・プロ未満の何かを提供、発信したい人です」(荒川さん)
ザ・キャンパス フラッツ トゴシはターゲットを明確に設定している。そのため、普通の賃貸住宅とは異なり、申し込みまで複数のステップを踏む設計になっている。コンセプトの「プロトタイプする暮らし」に合った人に入居してもらい、コミュニティの質を担保するためだ。
入居希望者はまず、説明会に参加してコンセプトへの理解を深める。その上でコクヨ社員らが面談を行い、この家で挑戦したいことなどについて確認する。
「ちょっとめんどくさいと思われるかもしれないんですけれど、実際にお話を聞いていると、同じようなモチベーションの方たちが集っているということで、(入居予定者からは)前向きと言いますか、安心につながるねというお話をいただいています」(荒川さん)
コクヨによると、8月23日時点での申し込み率は74%。手続き中を含め、全39室中29室が埋まっているという。
ザ・キャンパス フラッツ トゴシを皮切りに、様々な地域で集合住宅を展開する計画という。