東急電鉄は田園都市線全駅の全改札口にクレジットカードとQRコードの読み取りに対応した自動改札機を設置した。
撮影:平澤寿康
東急電鉄、東急、三井住友カード、JCB、日本信号、QUADRACの6社は、8月30日から「クレジットカードのタッチ機能」および「QRコード」を活用した乗車サービスに関する実証実験を開始した。
実証実験は東京都心部と神奈川県を結ぶ、東急田園都市線の全駅が対象。開始に先立つ8月29日に、本サービスを利用して改札を通過する様子を報道陣に公開した。
自動改札機がクレカのタッチやQRコードに対応
自動改札機の入口側、磁気きっぷ挿入口の前に、手前からQRコードリーダー、その奥にクレジットカードリーダーが取り付けられている。
撮影:平澤寿康
今回、東急電鉄などが実施する実証実験は、事前購入した企画乗車券を、クレジットカードのタッチまたはスマートフォンに表示したQRコードで利用するサービスとなる。
特に「事前購入した乗車券をクレジットカードのタッチで利用する」という乗車方法は、国内でもこれまでにない新しい取り組みとなる。
自動改札機のクレジットカードリーダーにタッチ対応クレジットカードをかざして改札を通過する。
撮影:平澤寿康
事前に乗車券を購入せずにクレジットカードのタッチ決済を利用して乗車する、いわゆる「料金後払い型」の乗車には現時点では対応しない。
実証実験の開始にあたり、東急電鉄は田園都市線全駅の全改札口に、クレジットカードリーダーおよびQRコードリーダーを備える自動改札機を設置。
その自動改札機にクレジットカードをタッチ、またはスマートフォンに表示したQRコードをかざして自動改札を通過し乗車できる。
QRコードを利用する場合には、スマートフォンに表示したQRコードをQRコードリーダーで読み取らせて通過する。
撮影:平澤寿康
また、QRコートとクレジットカードリーダーがない世田谷線と東急バスでは、スマートフォンに表示したQRコードを、乗務員や駅係員が目視で確認することで乗車が可能となる。
今回の実証実験では、クレジットカードのタッチは物理カードのみに対応。Apple PayやGoogle Payなどスマートフォンのタッチ決済機能には対応しない。
「QRとクレカ」での自動改札は想像以上にスムーズ
QRコードをかざして自動改札機を通過する様子。
撮影:平澤寿康
実際にクレジットカードのタッチおよびQRコードで自動改札機を通過する手順と様子を紹介しよう。
まず、あらかじめ乗車券販売Webサイト「Q SKIP」で企画乗車券を購入する。そして、Q SKIPサイト上で購入した乗車券の使用を開始させると、QRコードが表示される。
そのQRコードを自動改札機のQRコードリーダーにかざすと自動改札機を通過できる。
あらかじめWebサイト「Q SKIP」で企画乗車券を購入。この時に決済した物理クレジットカードでタッチ乗車が可能に。Q SKIPで購入済み企画乗車券の使用を開始すると、画面にQRコードが表示される。
出典:東急電鉄
世田谷線では乗務員などにQRコードを示して乗車することになる。このQRコードには動く電車のアニメーションが同時に表示されるようになっており、スクリーンショットなどでの不正利用を防ぐ仕組みになっている。
QRコードには不正利用を防ぐために電車のアニメーションが表示される。
撮影:平澤寿康
クレジットカードのタッチで通過するには、QRコード下部の「クレカタッチで使う」ボタンを押すことで可能となる。
その場合には、利用する乗車券を購入したクレジットカードでタッチすることで通過可能となる。
クレジットカードのタッチで自動改札を通過する様子。
撮影:平澤寿康
クレジットカードのタッチやQRコードでの自動改札機の通過については、動画を見てもらうとわかるように十分スムーズだ。
交通系ICカードのタッチに比べると、わずかに遅いのは事実だが、実際に通過している様子を見ても、認証に待たされるという印象はほとんど感じない。
特に今回の実証実験では、短時間に多くの乗客をさばく必要がなく、運用上も支障がないと言えそうだ。
QRコード画面の下部にある「クレカタッチで使う」ボタンを押すと、乗車券を購入したクレジットカードをタッチして自動改札を通過できるようになる。
出典:東急電鉄
あらかじめ専用サイトで乗車券を購入したり、乗車券利用時にもスマートフォンで専用サイトにアクセスして乗車券の利用開始操作やクレジットカードのタッチ利用の設定を行う必要がある点は、少々面倒に感じるのも事実。
ただ、場所や時間を問わず購入できることや、デジタルチケットのため物理的な乗車券不要で利用できるという部分を考えると、トータルでは利便性を高めてくれると感じた。
クレカのタッチ決済での乗車は2024年春以降に予定
今回の実証実験では、東急が企画乗車券の販売サイトの構築を、日本信号がQR・クレカタッチ一体型自動改札機の開発とQR認証システム構築、デジタルチケット管理を担当している。
またQUADRACはクレジットカードのタッチ認証クラウドシステムを、三井住友カードとJCBがプロジェクト全体の支援と決済手段を提供している。
クレジットカードのタッチ機能およびQRコードを活用した乗車サービス、と聞くと、福岡市営地下鉄や南海電鉄、江ノ島電鉄などが実施している、クレジットカードのタッチ決済を利用した乗車を思い浮かべる人も多いだろう。
しかし、今回の東急電鉄による実証実験では、クレジットカードのタッチ決済での乗車はできず、必ず事前に対応する企画乗車券を購入する必要がある。
なぜこのような方法を採用したのか。東急電鉄 広報・マーケティング部統括部長の稲葉弘氏は、3つの理由を挙げた。
事前購入型の乗車サービスを開始する背景として3つの理由を挙げた。
出典:東急電鉄
1つ目は、東急電鉄のスローガン「人へ、街へ、未来へ」を具現化し、コロナ禍によって変化したライフスタイルに対応するサービスの充実。
コロナ禍以降、マイクロツーリズムが見直され、自宅最寄り路線沿線を旅したり散策することが増えている。そういったニーズの変化にデジタルチケットで迅速に対応するとともに、さらなる移動創出や沿線活性化を図ることを目的にしているという。
そのため、今回の実証実験は主に対象となる東急線の沿線住民や国内旅行者をターゲットとし、企画乗車券の販売Webサイトについても日本語のみで多言語対応はしていない。
2つ目は、発売中のワンデーパスなどの企画乗車券の認知度向上と利便性の向上。いつでもどこでも企画乗車券を購入し、簡単に利用できるようにすることで、さらなる需要に応えたいという。
今回の実証実験について説明する、東急電鉄 広報・マーケティング部 統括部長の稲葉弘氏。
撮影:平澤寿康
そして、3つ目の理由が、サービス提供範囲を限定できる、というもの。
東急電鉄がクレジットカードのタッチやQRコードを利用した乗車サービスの提供は今回が初となるため、まずはノウハウの蓄積や受け入れ体制を整えるために、あえて事前購入型のサービスからスタートすることにしたのだという。
また、なぜスタートが田園都市線と世田谷線なのか。
その理由は特に田園都市線沿線に東急グループの商業施設が比較的多く、今後それら商業施設や観光スポットと連携した商品を秋以降に販売することを見据えていることもあるからだという。
なお、東急は、田園都市線以外の路線については、2024年春までに一部駅を除く全駅に同様の自動改札機を設置する計画を明らかにしている。
今回の実証実験では、事前に専用サイトで企画乗車券を購入したうえで、クレジットカードのタッチやQRコードを読み取らせて乗車する。
出典:東急電鉄
前出の世田谷線に関しては、2024年春に車両または駅改札口にクレジットカードのタッチおよびQRコードに対応した読み取り機器を設置する予定だ。
クレジットカードのタッチおよびQRコードで利用する企画乗車券は、専用Webサイト「Q SKIP」で販売。
販売される企画乗車券は以下の3種類。
- 田園都市線と世田谷線が1日乗り放題となる「田園都市線・世田谷線 ワンデーパス」(680円)
- 田園都市線と世田谷線、東急バスが1日乗り放題となる「田園都市線・瀬田川線・東急バス ワンデーパス」(1000円)
- 世田谷線が1日乗り放題となる「世田谷線散策きっぷ」(380円)
当初は3種類の企画乗車券を販売し、今後順次商品を拡充していく予定。クレジットカードのタッチ決済を利用して乗車する後払い型のサービスは、2024年春以降の導入を検討。
出典:東急電鉄
2023年冬以降には、東急のほかの路線を含めたワンデーパスや、東急線沿線のお出かけスポットや施設の利用と乗車券をセットにした商品、2024年度には有料座席指定サービス「Q SEAT」の座席指定券などの販売も計画されている。
ところで、鉄道でのクレジットカードのタッチやQRコード対応が始まると、交通系ICカードを置き換えるつもりのかと言われることも多い。
それに対して稲葉氏は「置き換えは全く考えておらず、主役は今後も交通系ICカードだ」と明確に述べた。そのうえで「新たな乗車方法を共存させることで利用者の利便性を高めたい」と説明した。