研究者たちは、ドイツのイノシシが放射性物質による汚染を受けている理由を解明したかもしれないと考えている。
Michaela Rehle/Reuters
- ドイツのイノシシは、高い割合で放射性物質によって汚染されている。
- 科学者たちは、なぜイノシシだけがこれほど汚染されているのかについての理由を発表した。
- 新しい研究によると、核実験による放射性降下物とチェルノブイリの放射性降下物の組み合わせによることがわかった。
イノシシは墓を掘り起こし、農作物を荒らし、人を襲うなど、ドイツでは長い間問題になってきた。しかし、科学者たちを困惑させているのは、彼らが「イノシシ・パラドックス」と呼んでいるものだ。
イノシシの放射線レベルは時間の経過とともに減少していくはずなのに、イノシシはその地域の他の動物と違って放射性物質で汚染され続けているのだ。
研究者たちは長い間、1986年のチェルノブイリ原子力発電所の事故によって汚染されたトリュフが原因だと考えていた。しかし、『Environmental Science & Technology』誌に掲載された新しい研究によれば、数十年前の核実験による放射性降下物もトリュフを汚染した可能性があるという。
研究者たちは、核分裂の生成物である放射性同位元素セシウム137についてイノシシ肉を検査した。セシウム137の半減期は30年である。しかし、場所によっては、イノシシのセシウム137のレベルは以前とほぼ同じだった。
研究者たちは、イノシシ肉の汚染が1950年代と60年代の大気圏内核実験に関連していることを発見した。核実験とチェルノブイリの相互作用が原因かもしれないとこの研究の著者の一人であるビン・フェン(Bin Feng)はVice誌に語っている。
「核実験とチェルノブイリの同位体が混ざり合い、より強力な新しい汚染源になった。これが、セシウム汚染がこれほど強く、持続している理由だと考えている」
イノシシ・パラドックス
1986年、ウクライナのチェルノブイリ原子力発電所で爆発が起こり、2人が即死し、その後、放射線と放射性降下物によって数千人が死亡した。
放射性降下物はドイツ南東部のバイエルン州を含む数百マイルにわたって広がり、放射性物質を土壌や森林に住む動物に沈着させた。
事故の後、この地域の森林の多くの動物が高濃度の放射性セシウムに汚染された。時間が経つにつれ、核崩壊に加えて降雨、その他の影響もあり、動植物が吸収していたセシウムの量は減少し、多くの動植物の汚染は減少した。しかし、イノシシは違った。
食肉として珍重されていたドイツのイノシシの多くは、何世代も経った現在も、放射性物質に汚染されて食べることができない。猟師は殺したイノシシの線量を検査しなければならない。
2014年、テレグラフ紙はおよそ3頭に1頭が規制値を超えたと報じた。今回の調査では、検査した肉のサンプルの88%が安全でないことが判明した。
問題はトリュフだった
トリュフは地中に生え、放射性セシウムを蓄積する。そして、他の食料源が乏しい寒い時期には、イノシシはトリュフを根こそぎ食べてしまう。
2009年の研究では、研究者たちが地表から約15センチ下にあったバイエルン産のトリュフを検査したところ、シダやベリー類の茂み、ブナの実よりもはるかに汚染されていることが判明した。
イノシシの胃の中にトリュフが少量でも含まれていた場合、摂取した放射性セシウムの4分の3はトリュフによるものだった。
核実験や原発事故から数十年経った今でも、セシウムはゆっくりと土壌の奥深くに浸透しているのだ。
核実験で汚染された地下1メートル以内の土壌にあるトリュフは、現在はチェルノブイリからのセシウムを吸収している。その結果、これらのトリュフを食べたイノシシは臓器や組織にセシウムを蓄積することになる。
この研究の著者は、ガンマ線検出器を使って48のイノシシ肉のサンプルを検査し、セシウム137とセシウム135の濃度を調べた。セシウムの異なる同位体の比率から、科学者は、その物質がチェルノブイリ由来のものか、あるいは古い大気圏内核実験由来のものかを見分けることができた。
影響を受けた食肉サンプルはすべて両方から汚染されており、安全でないイノシシのセシウムの10%から68%は核実験によるものであった。サンプルの約4分の1では、核実験の放射性降下物によるセシウム137の量だけでヨーロッパの規制値を超えていた。
フェンと共著者のゲオルク・シュタインハウザー(Georg Steinhauser)はBBCの取材に対し、「60年前のことだからといって、もはや生態系に影響を与えていないということにはならない」と語っている。