アサーテインのマーク・ミシャルスキーCEO。
Ascertain
ニューヨーク州最大の医療サービスネットワークは、ビジネス界に旋風を巻き起こしている注目の新技術、生成AIへの取り組みを進めている。
ノースウェル・ヘルス(Northwell Health)はスタートアップのイージス・ベンチャーズ(Aegis Ventures)と手を組み、この取り組みの準備を進めている。イージスは、ノースウェルとのジョイントベンチャーに1億ドル(約145億円、1ドル=145円換算)を投じ、まず手始めに、医師が事務作業などの管理業務に費やしている時間を生成AIモデルを使って削減することに注力する。
この事業は、医師を凌駕して雇用の破壊者になるともてはやされている生成AIが、医療でどのように利用できるのか、その現実を覗く試金石となる。テクノロジーはこれまで、ヘルスケアの深刻な問題を解決できていない。しかし医療システムは、コストが上昇して、燃え尽きた医療従事者が辞めていく中で、時間と資金を節約する必要性がますます高まっている。
アマゾン(Amazon)の元幹部で、ノースウェルとイージスがAIに特化するために設立した企業、アサーテイン(Ascertain)のマーク・ミシャルスキー(Mark Michalski)CEOはInsiderの取材に対し、こうした切迫感があったからこそ、テクノロジーの助けを切望するという滅多にない機会が生まれたと話す。
「今はそのような機会を得ていますが、それが永遠に続くわけではありません」
ミシャルスキー氏は7月にCEOとしてアサーテインに入社したが、同ベンチャースタジオは9月になって彼の就任を発表した。また、元ヘルスケア企業幹部のグレッグ・ファーガス(Gregg Fergus)氏が会長に就任したことも同時に発表している。
ミシャルスキー氏は、すでにノースウェルのチームと緊密に連携し、20以上の病院と約8万5000人の従業員を擁する広大な非営利医療ネットワークの問題点と、新しいAIモデルがどのように役立つかの理解に取り組んでいる。
ミシャルスキー氏によれば、アサーテインはまず、ノースウェル全体の経営層約50人に行った 「聞き込み調査」の内容に基づき、臨床医が患者やその家族と向き合ううえで妨げになっている事務作業の時間を削減するためにAI技術を使うことに注力するという。
ノースウェル・ホールディングスの社長兼CEO、リチャード・マリー氏。
Northwell Holdings
退院記録と請求業務もAIで
ミシャルスキー氏とノースウェルの営利部門のCEOであるリチャード・マリー(Richard Mulry)氏は先ごろ、請求、サプライチェーン、患者ケアの移行などを監督するノースウェルの幹部らと面会したが、医療提供者の事務的負担の重さは明らかだった。
医療従事者と病院職員は、毎日何時間も事務作業と書類閲覧に費やしている。作業内容はさまざまだが、基本的には膨大な量の情報を取捨選択し、関連する内容を書き留めるか、あるいは他の方法で患者や医療保険会社とやり取りをすることになる。
データからパターンを学習し、まるで人間が書いたかのようなテキストなどのコンテンツを作成できる生成AIモデルは、この課題に最適だとミシャルスキー氏は話す。
アサーテインのグレッグ・ファーガス会長。
Ascertain
ミシャルスキー氏がアサーテインに着任したのは7月7日だが、彼のチームではすでに退院書類を作成するツールを開発済みだという。
医療保険会社への請求業務を担当するノースウェル内のチームもAIの活用に関心を寄せているとマリー氏は言う。請求は骨の折れる手作業だ。ルールはプランによって異なり、頻繁に変更されるため、未払い請求や時間の浪費につながっている、と同氏は話す。
AIは、医療従事者が医療費の支払いにまつわる医療保険の複雑なルールを常に把握できるようなプロセスをサポートすることでも役に立つ可能性があると同氏は言う。
「医師は患者のためにいるべきです。事務処理はこのようなボットが解決すべきものでしょう」(ミシャルスキー氏)
アサーテインは激しい競争に直面している
ノースウェルとイージスの提携は、一流のテクノロジー人材と巨大医療システムの膨大な知見を組み合わせるという、かなりユニークな試みである。
イージスは、ノースウェルの営利部門との2つのジョイントベンチャーに1億ドルの創業資金を提供している。 アサーテインと遠隔医療に特化したケア(Caire)社だ。
これらのジョイントベンチャーは、ノースウェルの意見を取り入れながら製品を開発しており、ノースウェルとイージスの資金的なサポートを得て営利企業になることを目指している。ノースウェルが両社の最初の顧客になるだろうとマリー氏は言う。
アサーテインはすでに、AIを使って眼病の兆候を発見する企業を立ち上げている。
生成AIの分野では、アサーテインはすでに激しい競争に直面している。マイクロソフト(Microsoft)は医療メモの自動化に特化したAI企業を保有し、勢いを増している。
ノースウェル・ヘルスのデータ戦略統括責任者であるマーク・パラディス(Marc Paradis)氏の話によれば、ノースウェルはアサーテイン以外の企業とも協力し、さまざまなツールを評価しているという。
アサーテインが解決しようとしている問題は非常に複雑であるだけに、ノースウェルとの緊密な協力関係はアサーテインにとって明らかに有利に働いていると、パラディス氏、ミシャルスキー氏、マリー氏は口を揃える。
「ご覧のとおりの複雑な分野なので、エンジニアのレンズを通して見るためには、深く内部に入り込む必要があります」(ミシャルスキー氏)